ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #54

出光興産 CDO三枝幸夫氏が語る、デジタル変革と新サービスの着眼点

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 日立グローバルライフソリューションズ CDOの田岡敬氏が第一線で活躍するビジネスパーソンから、その人がキャリアを切り開いてきた背景やイノベーションを生み出してきた思考法を探る連載企画。第24回は、出光興産で執行役員CDO・デジタル変革室長を務める三枝幸夫氏が登場します。

三枝氏は、ブリヂストンに約35年間勤め、2017年からCDO・デジタルソリューション本部長としてビジネスモデル変革やDX推進を行いました。その後、2020年1月に出光興産へ転職し、デジタル変革室長として再びDX推進を手掛けています。三枝氏はブリヂストンでどのようにしてビジネスモデル変革やDXを進めたのか。また、出光興産では何を成し遂げようとしているのか、その考えを聞きました。
 

タイヤをより価値の高いサービスに


田岡 三枝さんはブリヂストンで長く実績を積まれ、2017年からは同社のCDOとしてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進してこられたと伺っています。具体的にどのような取り組みをしてこられたのか、注目した視点なども含めてお聞かせいただけますか。

三枝 DXを担うようになった当初は、顧客視点で新しい価値を提供するためにはどうすればよいかを考えるところから始まりました。いま振り返ってもブリヂストンのDXにまつわる様々な動きは、とてもヘルシーだと思っています。

結果として、ブリヂストンのコアな商材であるタイヤをより価値の高いサービスに変えていく取り組みを進めてきました。タイヤの価値を高めるのであれば、今までのように1本いくらで売るプロダクトビジネスだけではなく、お客さまの業務をサポートするビジネスに変換していくことの方が価値がある。そう考え、たとえば運送会社や鉱山のトラックならできるだけ長い距離を燃費良く走ることや、ダウンタイム(保守や不具合で稼働停止している期間)を減らして車両の稼働率を上げることなど、お客さまのオペレーションができるだけスムーズに進行できるよう、タイヤとその周辺のサポートをしていくビジネスモデルに変換しようと考えたんです。  
  
三枝 幸夫
出光興産 執行役員CDO・デジタル変革室長
1985年ブリヂストン入社。生産システムの開発、主に制御システムや生産管理システム開発、工場オペレーション等に従事。2013年に工場設計本部長となり、生産拠点のグローバル展開を推進。2016年に執行役員となり、マーケットドリブン型のスマート工場へと工場のインテリジェント化などを推進後、2017年よりCDO・デジタルソリューション本部長となり、全社のビジネスモデル変革とデジタル・トランスフォーメーションを推進。2020年1月より出光興産執行役員デジタル変革室長。

田岡 私が勤める日立グループでも、鉱山機械に稼働状況から故障の予兆を検知するサービスを提供していたりします。イメージとしては、そうした適切なタイミングでメンテナンスしていくサービスを展開するということでしょうか。

三枝 そうです。タイヤにセンサーを埋め込んでコンディションを確認し、タイヤの供給とメンテナンスまでを請け負うサービスの提供を始めました。タイヤは消耗品ですが、空気圧のメンテナンスや定期的なローテーションを行えば燃費が良くなり、寿命も延びます。そうなれば、お客さまはタイヤ交換のために車両を止めなくてよくなり、トータルのオペレーションコストも下がります。加えて、ブリヂストンにとってもタイヤが長持ちすればサービス提供におけるコストが下がりますし、急な故障対応の発生といった突発的な事象も減らすことができます。お互いにWin-Winになるわけです。

田岡 つまり、タイヤのサブスクリプションモデルのような考え方ですか。

三枝 はい。ただ、それぞれのお客さまによってタイヤの使い方は異なるため、料金を決める際の指標は走行距離や荷物の重さ、車両の台数など様々です。それを、お客さまもブリヂストンもお互いに納得する形で契約に落とし込んでいます。どれくらいの設定であればお互いが納得できるのか、その計算もブリヂストンにとって重要なノウハウですね。

田岡 では、契約前に一度センシングをして、データを集めさせてもらうのですか。

三枝 そうです。取り組みを始めたばかりの頃は、得られたデータから契約モデルをつくることに手間取っていましたが、次第にノウハウが蓄積されていきました。そうなれば今度はデジタルの出番で、過去の実績から似た傾向のデータを参考に最適なモデルやトータルでどれだけコストが抑えられたか、実際の効果を伝えられるようになり、営業にとって非常に強い武器になりました。

田岡 おもしろいですね。では、それで故障や寿命が予測されれば、メンテナンスを促す流れになるのでしょうか。  
     
田岡 敬
日立グローバルライフソリューションズ 執行役員 CDO(Chief Digital Officer) 兼 Chief Lumanda Business Officer
リクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS 代表取締役社長、ニトリホールディングス 上席執行役員、エトヴォス 取締役 COOを経て、2020年10月1日 日立グローバルライフソリューションズ 執行役員 CDO 兼 Chief Lumada Business Officerに就任。

三枝 いえ、ブリヂストンのほうからサービス部隊がメンテナンスに行く場合もあります。理想的なのは、お客さまとブリヂストンの間に信頼関係をつくり、あとは任せてもらうこと。もっと言えば、点検周期もお互いに把握し、タイヤだけでなくエンジンオイルの交換といった車周辺のサービスも一手に引き受けられるプレイヤーを目指しました。

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