企業ブランドではなく、個人ブランドで闘う時代へ【デジタルシフトウェーブ 鈴木康弘】
2018/08/21
- セブン&アイ ホールディングス,
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第一線で活躍するトップマーケターは、どのようにキャリアを歩み、その時々で何を考え、どう実行してきたのか。そしてその経験は、次なるキャリアや現在の仕事にどのように生かされているのか。
富士通のシステムエンジニアからキャリアをスタートし、ソフトバンクでソフトウェア販売営業部門のマネジメントを経験、書籍のEC事業者イー・ショッピング・ネットを立ち上げて社長となり、父・鈴木敏文氏が会長を務めるセブン&アイ・ホールディングスのCIOおよびオムニチャネル戦略の推進役を兼務。
そんな華々しいキャリアを築いてきた鈴木康弘氏は、2017年にセブン&アイを去り、新会社・デジタルシフトウェーブを立ち上げた。自身が果たす役割、活躍する場を柔軟に変化させながら、ゆく先々で常に結果を出し続けてきた鈴木氏。その仕事に対する強い信念と、キャリア観を聞いた。
マーケティングとは、経営そのものだ
この連載のタイトルは「マーケターズ・ロード」とのことですが、私は自分自身のことをマーケターだとは、あまり思っていません。とはいえ、マーケティングは経営において重要な存在だと思い続けてきました。ありがたいことに、近年、マーケティング関連のイベントやセミナーでお話しさせていただく機会が増えました。システムを理解していて、経営の経験があり、かつ事業の現場がわかる人はそう多くないからかもしれないなと、自分なりに分析しているところです。
さまざまなマーケティング関連書を読むにつけ、「マーケティングとは、事業創造である」という確信が深まっています。
だとすれば、「マーケティングとは、経営そのものだ」と言うことができます。実はシステムも同様で、上流過程に目を向けると「システム=経営」です。上流に行けば行くほど、マーケティングもシステムも同じ、つまり経営なのだと理解しています。
日本におけるマーケティングは、長らく広告や販促、調査といった偏った捉え方をされ続けてきました。しかし、近年さまざまな方にお会いする中で、一流のマーケターが話すことは、経営者が話すことと同じだなと感じています。
企業ブランドではなく、個人ブランドで闘っていく時代
現在は、企業のデジタルシフト化を支援する、デジタルシフトウェーブを起業し、代表を務めています。システム、営業、ネットビジネス、小売り流通……これまでのキャリアをフルに活かして仕事をできており、おかげさまで初月から黒字を達成することができました。
独立してあらためて実感しているのは、企業ブランドで闘う時代は終わり、これからは個人ブランドで勝負していかなければならないということです。
「マーケティングアジェンダ」で対談させてもらった、元・日本マクドナルドの足立光さんをはじめ、優秀なマーケターの皆さんは、それをわかって実践しているように思います。自分自身もそういうふうに仕事をしていきたいし、部下にもそうあってほしいですね。
デジタルシフトウェーブでは社内教育にも、力を入れているところです。簡単に言うと、経営者になれる人材を育てたいと考えています。
鈴木康弘(すずき・やすひろ)
デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。1996年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に従事し、ネット書籍販売会社イー・ショッピング・ブックス(現 セブンネットショッピング)を設立代表取締役に就任。2006年資本移動によりセブン&アイ・ホールディングスグループ傘下に入り。2014年にセブン&アイ・ホールディングス執行役員CIO就任、グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。2015年同社取締役執行役員CIOに就任、グループシステムの改革に着手し、デジタルシフトの骨格をつくり上げる。2016年12月に同社を退社。2017年3月にデジタルシフトウェーブを設立、同社代表取締役社長に就任。多くのデジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。
僕ひとりでスタートしたデジタルシフトウェーブは、セブン&アイのオムニチャネルシステムのリーダーと、僕の秘書を務めていた人を初期メンバーとし、設立3カ月後に元セブン&アイの若手社員4人、イー・ショッピング・ブックス時代の部下1人が加わって、現在は僕を含め8人体制です。
メンバーには、業務知識とデザイン思考をフル活用して、どんどん顧客のところへ出て行き、僕がつくったフレームワークに沿って訓練を重ねてもらっています。
社員一人ひとりがPLを持っていて、赤字/黒字が毎月はっきりわかります。毎週月・水・金曜日の朝には、自ら策定した方針に照らしながら進捗を発表し合う場を設けていて、自分のプロジェクトについて発表するだけでなく、他メンバーの担当プロジェクトについても「自分だったらどうするか」を考え、もっとこうしたほうがいいんじゃないかと意見をバンバン出し合います。
社員に対する僕の口癖は、「いつ起業するの?」なんです(笑)。
入社時には「もうサラリーマンはやめよう」と話しており、基本的には、全員起業してもらいたいと考えています。自分のキャリアを振り返ってみると、一番頑張っていたときって、起業したときなんですよ。
だったら、全員を起業家にすれば、すごく頑張る会社になりますよね。とはいえ、外に出ることがすべてではありませんから、少なくとも事業家になってほしい。一言で言えば、「自分の飯は自分で食え」ということです。それが約束できる人に、仲間になってもらっています。