変革のカギを握るCxOの挑戦 #02
技術者から経営者へ、新たなロールモデルの挑戦と何度も組織を立て直した福士博司氏のキャリアとは
パイオニア株式会社 モビリティサービスカンパニー CCO & CMO 石戸 亮氏がインタビュアーを務める連載がスタート。サイバーエージェント、Google、Datorama、Salesforceを経て、現在はパイオニアでCCO & CMOを務める石戸氏。ベンチャー企業、外資系企業を経て老舗企業などのさまざま経験より、幅広い視点から見える企業の魅力、アセットを引き出していきたく本コラム。石戸氏がマーケティング、DX、CX領域で注目しているCxOやエグゼクティブにインタビューを行い、その人が実績を出している裏側にある思考法やノウハウを解き明かしていく。
第1回は、“食”と“健康”、そして明日のよりよい生活に貢献することを目指し、調味料からアミノ酸含有食品など幅広い商品展開をする味の素 特別顧問(元・取締役 代表執行役副社長 CDO)の福士博司氏。味の素は、日本だけにとどまらず世界の健康を担っていると言っても過言ではありません。そんなグローバルカンパニーに、CDOという立場で変革をもたらした福士氏のキャリアから思考法やノウハウまでを聞いた(前編は、こちら)
第1回は、“食”と“健康”、そして明日のよりよい生活に貢献することを目指し、調味料からアミノ酸含有食品など幅広い商品展開をする味の素 特別顧問(元・取締役 代表執行役副社長 CDO)の福士博司氏。味の素は、日本だけにとどまらず世界の健康を担っていると言っても過言ではありません。そんなグローバルカンパニーに、CDOという立場で変革をもたらした福士氏のキャリアから思考法やノウハウまでを聞いた(前編は、こちら)
技術者から経営へ、異端のキャリアで人材のロールモデルをつくった
石戸 では、変革を起こした福士さんのご経歴をお話しいただけますか。
福士 大学を卒業後、味の素に入社しました。大学では化学とバイオテクノロジーを専攻していたので、技術者として入社し、最初の配属は研究所でした。
その後、アメリカのノースカロライナ州で工場マネジメントを経験するなど、国内外の工場や研究所でトータル20年ほどを過ごしました。その後、タイ法人で副社長に任命され、技術系の仕事からマネジメント全般、会社経営の側面があることまで幅広く担当させてもらいましたね。
石戸 国内外問わず技術者から経営まで、本当に幅広く経験されているんですね。実際にいつ頃から、経営などに携わるようになったんですか。
福士 2008年頃、日本に戻ってから初めて本社勤務になり、アミノ酸事業部の立て直しを行いました。味の素はアミノ酸の一種に由来することが発見されたことから始まった会社だと言われていますが、当時のアミノ酸事業部は赤字で本当に大変でした。その後、アミノ酸部を含めたアミノサイエンスという統括部門の本部長を6年間ほど務め、事業ポートフォリオの変革を成功させました。利益率は3倍になり、成長率も向上できたので、ある程度の自信が持てるようになりました。
一方で会社そのものは、東南アジアやラテンアメリカを中心とする海外食品の成長にのって2000年代の序盤から2010年の後半頃まで順調に伸びていましたが、その後、海外のGDPの成長鈍化に伴い、経営のパフォーマンスも落ちていきました。それで、アミノサイエンスだけでなく全社のポートフォリオ改革をするために副社長になりました。さらに、デジタルトランスフォーメーション(DX)も推進することになり、引退する2022年4月まで副社長兼CDOを務めました。
味の素
特別顧問(元・取締役 代表執行役副社長 CDO)
福士 博司 氏
特別顧問(元・取締役 代表執行役副社長 CDO)
福士 博司 氏
石戸 技術者は、最後まで技術畑のキャリアを歩んでいくケースも多いのではないかと思いますが、途中からビジネス側にも入られていますよね。どういった転機があったのでしょうか。
福士 おっしゃる通りで、技術者は技術系のキャリアパスを歩んでいくというのが王道でした。当時、事業や経営にはいわゆる文化系の大学を卒業した人が担当するという企業文化があり、技術者は事業や経営に携わるチャンスが非常に少ないのが現実でした。
ただ、個人的に、それでは技術的なポテンシャルを持っている人材を活用しきれず、メーカーとしての成長ができないと感じていました。そのため、組織の中で自分がそのロールモデルになろうと思ったんです。とはいえ、何かしらのバックボーンがなければ、技術者から経営方面に向かうのは難しい。それなら、その状態からでもポテンシャルがあることを証明できるMBAを取ろうと考えて、eラーニングで学べるオーストラリアの大学で取得しました。42歳で学び始めて、取得したのは46歳でしたね。
それをきっかけに私自身もどんどんビジネスに興味が出てきて、その後はタイで副社長を務めるなど、事業や担当に携わるようになったんです。
石戸 素晴らしいですね。その辺から、既に人とは異なるキャリアを歩まれているんですね。
福士 そうですね。味の素の従来の技術者とは異なるキャリアパスを自分自身で切り開いていきましたね。