変革のカギを握るCxOの挑戦 #03

DX推進の理想形、「DX銘柄2022」グランプリの中外製薬が成果を出せた秘訣とは?

前回の記事:
味の素をパーパス経営にシフトした福士博司氏が語る、変革の全貌とは
  パイオニア モビリティサービスカンパニー CCO & CMO 石戸亮氏がマーケティング・DX・CX領域で活躍するエグゼクティブにインタビューし、その人が実績を出している裏側にある考え方を解き明かしていく連載。第2回は、「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を掲げてデジタル戦略を推進し、2022年には経産省が選ぶDXグランプリに輝いた中外製薬の上席執行役員 デジタルトランスフォーメーションユニット長の志済聡子氏が登場する。DXを同社の成長戦略の中でどう位置づけ、成果につなげたのか詳しく話を聞いた。
 

DXビジョンが社内の理解と社会からの評価を獲得


石戸 2020年3月、中外製薬は「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を掲げ、DXを推進していくことを発表しました。私はこれまでにいろいろな会社のDXの取り組みを見てきましたが、中外製薬はその中で最も包括的で、かつ具体的な成果を出しており、まさにDXのあるべき姿のような印象を持っています。まずは、どのようなビジョンを描かれたのかから教えてください。

志済 私は2019年に中外製薬へ入社したのですが、最初はいわゆる情報システム部と購買部を統轄する役員として招聘されました。一方で、当時から社内ではデジタルに関する議論があり、データ利活用チームやAIトライアルといったワーキンググループが存在していました。当時は、それを組織化するかを議論しているフェーズでしたが、結果的にデジタル戦略推進部という組織を立ち上げて全社で推進していくことが決まり、そこも私が統轄することになりました。

まず、組織が立ち上がるまでの数カ月で絶対に実施しなければいけないことを考えました。そのときに、全社でDXを推進していくうえで重要なことは、何のためにやるのかというビジョン、戦略、そしてオペレーティングモデルを設定することだと思いました。

次にビジョンを制定するために社長の考えを聞いたところ、中外製薬のDXでは「創薬」にデジタルを用いることと、MR(営業)や工場など更なる事業効率化が必要な領域の改善という2つの方向性が明確になりました。それをビジョンとしてまとめたのが「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」です。
  
中外製薬
上席執行役員/デジタルトランスフォーメーション統括/
デジタルトランスフォーメーションユニット長
志済 聡子 氏

石戸 ビジョンを社内外に広く知ってもらうためのブランディング活動も実施していましたよね。それも、個人的にすごいなと思っていました。

志済 そうですね。そこは私も工夫したところなのですが、「CHUGAI DIGITAL」というブランドを立ち上げて、ロゴをつくり、社長からも発信してもらいました。メディアの記者を招いて取材してもらうという活動も行いましたね。

そこで部内でブランディングのプロジェクトを立ち上げると共に、外部からデジタルマーケティング人財(※中外製薬では、「人材」を「人財」という言葉で表現しています)の登用も行って積極的にブランド発信を始めました。その結果世の中から注目を集めるようになり全社の広報戦略のひとつとしても位置付けてもらえるようになりました。

そうした効果もあり、中途採用でさまざまな人財入社し、デジタル戦略推進部のメンバーが倍増しました。中外製薬で「何がしたい」という明確な目的を持って入社する人が多かったのも発信による大きな成果でした。さらに、経産省と東京証券取引所が選定するDX銘柄にも2020年、2021年と選出され、2022年にはグランプリを獲得できました。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録