変革のカギを握るCxOの挑戦 #03

DX推進の理想形、「DX銘柄2022」グランプリの中外製薬が成果を出せた秘訣とは?

 

「営業は足で稼ぐもの」という常識を覆した、マーケティングアプローチ


石戸 社内を動かすには障壁や逆境もあったと思いますが、そこをどう乗り越えたのでしょうか。

志済 最初は各本部長にデジタル化を進めていきたいと直接掛け合いましたが、中にはすぐに心のシャッターを下ろして、話を聞いてくれない人もいました。営業本部とのディスカッションでも「営業は足で稼いでナンボ」、「AIに日報の分析をさせたけど出てくる答えはMRの頭の中にあることと変わらない」「デジタルがMRを超えるとは思えない」といった意見が出ました。でも、そうしているうちにコロナ禍になったんです。

石戸 そうなると、足で稼げなくなりますね…。

志済 はい、ドクターから「病院に来ないで」と言われてしまったので、営業の発想が180度転換しました。あの時から、販売に関わる大きなトランスフォーメーションを進めることになりました。

調べてみると実は営業本部内にデジタルマーケティング業務を行っているカスタマーソリューション部という組織があり、「PLUS CHUGAI」という医療関係者向けのWebサイトの運営やそこで得られるデータを分析する試みをしていることが分かりました。コロナ禍でこれらを積極的に活用するという方針になり、Webサイトのログからドクターが知りたがっている情報を分析し、MRに伝えてアプローチする取り組みがスタートしました。

すると、今まで一度も接触できていなかったドクターとコンタクトが取れたという成果が上がるようになりました。さらに、ドクターがWebサイトを閲覧している時間から余裕がありそうな時間帯を割り出し、うまくアプローチすることも可能になりました。

石戸 MRや工場に投資をしてきた部分をデジタル化することによって、変革の大きなドライバーになったということですね。

志済 そうですね。よくMRの商談をオンラインに切り替えるという話を聞きますが、中外製薬の場合はそうではありません。MRに対して、データからドクターへのアプローチのためのインサイトを伝えるということを実施しています。

石戸 まさにマーケティングですね。中外製薬では、マーケティングはどの部署が担っているのでしょうか。

志済 メインは、製品に紐づくマーケティングですね。研究開発によって新薬が誕生し、承認を得たものを、どのような病院にどういう戦略で販売していくのかを考える仕事です。製品ごとに戦略などを考案するマーケティング人財が必ず付くようになっています。

石戸 プロダクトマーケティングですね。市場参入していく時に、理想的な顧客像に対して、戦略・戦術の策定、営業や開発との連携などを担う大事な役割ですね。

志済 はい、そういったマーケティングも今後さらにデジタル化して、市場全体や競合の動き、過去のデータなどを分析して、より効果的なプラン策定を効率的にできればと思ってます。

※後編「組織の足並みは揃わないことが前提、中外製薬の志済聡子氏が語る全社でDXを成功させるポイントとは?」に続く
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