変革のカギを握るCxOの挑戦 #04
組織の足並みは揃わないことが前提、中外製薬の志済聡子氏が語る全社でDXを成功させるポイントとは?
2022/09/01
パイオニア モビリティサービスカンパニー CCO & CMO 石戸亮氏がマーケティング・DX・CX領域で活躍するエグゼクティブにインタビューし、その人が実績を出している裏側にある考え方を解き明かしていく連載。第2回は、「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を掲げてデジタル戦略を推進し、2022年には経産省が選ぶDXグランプリに輝いた中外製薬の上席執行役員 デジタルトランスフォーメーションユニット長の志済聡子氏が登場する。DXを同社の成長戦略の中でどう位置づけ、成果につなげたのか詳しく話を聞いた(前編は、こちら)
ロシュ社とのアライアンスがきっかけで、驚異的な成長につながる
石戸 中外製薬は、ここ数年の売上と営業利益が破竹の勢いで伸びていますよね。売上は間もなく1兆円に迫り、営業利益は4000億円です。20年前と比較すると、営業利益は16.3倍になります。この成長は、どう実現しているのでしょうか。
志済 2002年に世界有数の製薬企業であるロシュ社とのアライアンスを開始したことが非常に大きいですね。この20年の間に多くのロシュグループ製品導入し、それが売上に大きく貢献しています。一方で、中外からも4つの製品をグローバルに展開していて、これも数千億円の大きな売上をつくっています。
上席執行役員/デジタルトランスフォーメーション統括/
デジタルトランスフォーメーションユニット長
志済 聡子 氏
石戸 ロシュ社とのアライアンスの効果なのですね。中外製薬は、ロシュ社とアライアンス後も、社名や経営者が変わっていませんよね。資本比率はロシュ社が6割と高いものの、もともとのアイデンティティもしっかりと残っていて、共存関係が成功しているパターンだなと思っています。
志済 そうなんです。最初の合意事項がすごく重要でした。たとえば、日本市場での上場を維持すること、マイノリティ投資家を守ること、株式は過半数をロシュ社が持つことなど、お互いに譲れない部分はしっかりと話し合って合意しました。当時の経営トップの協議の中でそういった自主性を認めてくれたとのことです。
この関係を維持し続けることが出来ている背景には、ロシュグループの中でも中外製薬が良い薬を出してきたことがあります。グローバルのFDA(アメリカ食品医薬品局)が与えるBreakthrough therapy designationという、非常にイノベーティブなプロジェクトの称号をロシュ社は複数持っていますが、その中には中外製薬が創製したプロジェクトも含まれており、その創薬力は世界的に高い評価を受けています。そのような貢献ができればグループ内での存在感も発揮できます。そこで、中外製薬は「創薬」に力を入れているのです。
とはいえ、当然、成長の踊り場を迎える時期も来ると思います。そうしたときに、経営をチューニングするために、さまざまな領域がデジタル化され、データで可視化されている状態が大事になっていくと思います。