変革のカギを握るCxOの挑戦 #06
「サブスクのマーケティング」と「人事」の共通点とは? みずほのCPO秋田夏実氏が語る組織開発の裏側
パイオニア チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)石戸亮氏がマーケティング・DX・CX領域で活躍するエグゼクティブにインタビューし、その人が実績を出している裏側にある考え方を解き明かしていく連載。第3回は、2022年5月にCPO(Chief People Officer)としてみずほフィナンシャルグループに入行した秋田夏実氏(みずほフィナンシャルグループ 執行役員 人事グループ副グループ長)が登場する。主に金融領域のマーケティングで経験を積み、前職のアドビでは副社長として組織開発も手掛けた。みずほフィナンシャルグループでのCPOとしての役割や人事領域に挑戦した背景などを探った前半に続き、後半では、「サブスクのマーケティング」と「人事」との共通点や、CPO就任後から着手した新たな取り組みについて聞いた。
サブスクのマーケティングと人事は、とても似ている
石戸 マーケティングを手掛けてきた秋田さんが、なぜ人材領域を管轄することになったのでしょうか。
秋田 実は、サブスクリプションサービスのマーケティングと人事は、とても似ていると思うのです。サブスクのマーケティングは、まず認知の拡大や興味喚起をして、トライアルをしてもらい、有償の会員になってもらって、そこから使い続けてもらうためのエンゲージメントに注力していきます。お客さまにファンになっていただいて、その先で新しいお客さまを連れてきていただけるよう、リレーションを深めていきますよね。そのため、サブスクのマーケティングではエンゲージメントが重要であり、LTV(ライフタイムバリュー)を常に考えることが基本です。
みずほフィナンシャルグループ
グループ執行役員 人事グループ副グループ長(グループChief People Officer)
秋田 夏実 氏
以前はアドビ株式会社のマーケティング担当副社長(VP)、マスターカード⽇本地区副社⻑、シティバンク銀⾏デジタルソリューション部⻑。東京⼤学経済学部卒業、ノースウェスタン⼤学ケロッグ経営⼤学院卒業(MBA)。NewsPicksプロピッカー、やまなし大使、情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授、ワインエキスパート。
グループ執行役員 人事グループ副グループ長(グループChief People Officer)
秋田 夏実 氏
以前はアドビ株式会社のマーケティング担当副社長(VP)、マスターカード⽇本地区副社⻑、シティバンク銀⾏デジタルソリューション部⻑。東京⼤学経済学部卒業、ノースウェスタン⼤学ケロッグ経営⼤学院卒業(MBA)。NewsPicksプロピッカー、やまなし大使、情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授、ワインエキスパート。
人事の場合も、まず採用という視点から考えると、最初に会社を知ってもらって関心を持ってもらい、ある意味のトライアルであるインターンを体験して、入社してもらいます。そこからは社員に寄り添う様々な取り組みを通してより良い関係性を構築し、社員エンゲージメントの向上をはかり、さらにはリファラル、あるいは自らがリクルーターになることで、次の社員を連れてきてもらうという流れになります。
どちらもジャーニーは一緒で、相対するのも「人」です。マーケティングは、定量と定性データの両面から人をじっくり観察して理解しながら進めていきますが、人事も同じです。社員に働く意義を感じてもらい、いかに意欲をもって取り組んでもらえるかというエンゲージメントの向上は、サブスクのマーケティングと共通しますし、さらには社員のエンゲージメントの高さはお客さまにも伝播していきます。そういった側面では、マーケティングのカスタマージャーニーと人事のエンプロイージャーニーは似ていると思います。
人事には、従来の管理型の機能ももちろん必要ですが、これから取り組んでいかなければいけない領域については、まさにマーケティングが生かせると考えています。実は海外では、昨年くらいからマーケティングと人事の融合が始まっているのですよ。
石戸 そうですよね。サブスクは特に、ユーザーになってもらってから使い続けてもらうことが大事になるので、人事と非常に近い印象です。秋田さんの経験の中で、いつ、どのようなことがきっかけで、サブスクのマーケティングと人事との共通点に気づいたのでしょうか。
秋田 COVID-19を契機にリモートワークが拡大し、働き方が変わる中で、「サステナブルなエンゲージメントの醸成」がお客さまのみならず、社員に対しても不可欠であると実感しました。
折しも昨年上梓された「コトラーのH2Hマーケティング『人間中心マーケティング』の理論と実践」を読み、マーケティングも人事も、理解すべき対象は「人(顧客/社員)」だと再認識しました。定量・定性のデータを活用し、対象となる「人」への敬意をもってそのインサイトを深堀りし、「人」が抱える問題を見つめ、「人」と協働することによって新しい価値を共創するという意味において、マーケティングと人事は同じだという考えに至りました。