変革のカギを握るCxOの挑戦 #08
2030年のデジタル戦略をたった半年で描いた日揮ホールディングスの推進力とは?
パイオニア チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)石戸亮氏がマーケティング・DX・CX領域で活躍するエグゼクティブにインタビューし、その人が実績を出している裏側にある考え方を解き明かしていく連載。日揮ホールディングスで、専務執行役員 CHRO・CDOを務める花田琢也氏が登場。第1回のCHRO(最高人事責任者)とCDO(最高デジタル責任者)の設立の背景とさまざまな経験をしてきた経歴に続き、第2回では、デジタル変革と推進方法、CDOとして人を理解することの大切さ、経営と連動する人事戦略について聞いた。
恐竜のように絶滅する前に、デジタル変革に着手
石戸 日揮ホールディングスは、どのような背景でCDO職を設けたのでしょうか。
専務執行役員 Chief Human Resource Officer(CHRO)兼Chief Digital Officer(CDO)
花田 琢也 氏
花田 まず、我々の主要事業である海外EPC(Engineering:設計、Procurement:調達、 Construction:建設)事業における大型EPCプロジェクトは、非常に規模が大きく、プロジェクトのピーク時には4万人を超える人が現場で働くほどの規模となります。そこのサイトマネージャー(建設現場責任者)は、中小企業の社長のような立場になり、デジタルを活用せざるを得ません。以前からある程度はデジタルを活用できていましたが、部門によって導入しているツールが違ったり、最新データをExcelでまとめてメールで送ったりするなど、非常に不統一な環境でした。その状況を何とかしなければと思いながらも慣れたやり方に甘えてしまって、具体的な変革は起こせないままでした。
そんな中、2017年に黒船がやってきました。当社の重要顧客である大手石油会社から、「これからは、工数を今までの3分の1、つまり、必要な人数が100人であれば30人、時間は100万時間かかるところを30万時間で、また、プロジェクト遂行にかける期間は従来の4~5年から半分、倍のスピードで遂行してください。さもなれば、日揮グループはマーケットからキックアウトされますよ。重要な鍵はデジタルです」と言われたんです。この波に乗り遅れると、日揮グループは将来、恐竜のように絶滅すると考え、デジタル改革を進めることになりました。
ただ、仮に重要なお客さんがそう言っているからといっても、そう簡単に今までのやり方を変えられるわけではありません。そこで、新たにCDOというポジションをつくり、日揮が2030年にあるべき姿を描く「ITグランドプラン2030」を大急ぎで作成しました。
石戸 非常に壮大なビジョンや様々な課題をまとめあげるにおいて、半年という短い期間で作成したと聞きましたが、どのように進めていったのですか。
花田 ビジネスコンサルやSIerに依頼すると、日揮を理解してもらうだけで半年程度の時間がかかってしまうため、外部には一切頼らず自社のみで進めていきました。
日揮の生業となるビジネスでは、社内でプロジェクトを組み、推進していきます。そのため「ITグランドプラン2030」の作成でも、プロジェクトを立ち上げ、デジタル部門のメンバーだけではなく、社内の各事業部から多くのメンバーを集めました。そのメンバーは、2030年になっても現役で活躍する30代と40代で、その頃に事業部を背負っているであろうエース級のメンバー30人でした。
石戸 30代や40代を中心に進めていくという決断は、色々な意味でなかなか簡単ではないような気もしますが。
花田 そこは意外と簡単に決まりました。「ITグランドプラン2030」をつくっても、2030年に会社にいなければ意味がなく、そのときに頑張っている人でなければならない。もう一つは「デジタル」というキーワードを考えると、50代、60代の人間は経験が多くても頭の中がアナログなので、その年代は2030年のプランには適していないと判断しました。
石戸 ITグランドプランを描くにあたり、それを実現していく人の理解は不可欠なのですね。そのようにメンバーをチューニングしたんですね。
花田 はい。さらに、デジタル部門だけの仕事ではなく、会社全体の業務変革と位置づけました。当時、私が人事部長だったことも奏功し、関連部門の協力も得やすく、それだけのメンバーを超短期間で集めることができました。
その中でチームに分け、それぞれに「AI設計」、「デジタルツイン」、「3Dプリンタ・建設自動化」、「標準化・Module化」、「スマートコミュニティ」などのテーマを設けてプランを作成していきました。最終的に100枚ほどのグランドプランに成りましたが、それが1枚のロードマップにまとめられ、これが本当によく仕上がっていて、作成から4年経った今でもまったく修正していません。
石戸 具体的には、各メンバーはどのようにリストアップされていったのでしょうか。
花田 人事部長になった背景の話にもつながりますが、私はプロジェクト部門長や事業開発本部長を務めていたので、日揮のメンバーを数多く知っていました。どの部門で誰が優秀かということはもちろん、ある程度の人となりも知っていたので人選には苦労しませんでした。まあ、それが人事部長になった背景でもあるんです。
石戸 現在CHRO(最高人事責任者)を務めているのは、そのような背景があったのですね。でも人を知るためには、主体性がなければ難しいと思いますが、その原動力は何でしょうか。