変革のカギを握るCxOの挑戦 #09

パーパスの実現と変革に必要なリーダーシップとは?日揮ホールディングス CHRO兼CDOの花田琢也氏が語る

前回の記事:
2030年のデジタル戦略をたった半年で描いた日揮ホールディングスの推進力とは?
  パイオニア チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)石戸亮氏がマーケティング・DX・CX領域で活躍するエグゼクティブにインタビューし、その人が実績を出している裏側にある考え方を解き明かしていく連載。日揮ホールディングスで、専務執行役員 CHRO・CDOを務める花田琢也氏が登場。第2回では、デジタル変革と、CDO大切にしていることと経営と連動する人事戦略に続き、第3回では、花田氏が経験した逆境のエピソードと変革をしていく上で重要なリーダーシップ、2040年に向けたパーパスについて聞いた。
 

知識は入れるもの 知恵は出すもの


石戸 これまでの経験で、逆境を克服したエピソードを教えてください。
   
日揮ホールディングス
専務執行役員 Chief Human Resource Officer(CHRO)兼Chief Digital Officer(CDO)
花田 琢也 氏

花田 能力がないせいか、常に逆境ばかりでしたが、2つほどエピソードを話しますね。ひとつは、29歳のときに台湾で建設現場に駐在したときの出来事です。その現場は既設のプラント拡張だったので既設プラントへの「Tie-In工事」、繋ぎ込みの工事が必要です。この繋ぎ込みでは、既存のプラントをシャットダウンしなければならず、お客さんにとっては、製品が止まり何億円も損をするのでその期間は最小限にしたい、こちらも絶対にミスのできない工事でした。

お客さんにお願いしてようやくもらえた既設プラントのシャットダウンのチャンスでしたが、あいにく工事当日は超大型台風が襲来する見込みでした。台風は午後6時ごろ上陸する予定で、工事は朝9時からだいたい6時間で終了する、台風到着まで3時間ほど余裕があったので、工事を実施するとしたものの、やはり非常に不安でした。今では考えられませんが、1987年当時、携帯電話で横浜本社に確認することもできない、ましてやメールなどなく、離れた現場事務所に電話が一台あるだけでした。工事を決行するか、中止にするか、29歳のトップである私が判断しなければならない状況でした。

そのときに頭に浮かんだのが、ケプナー・トリゴーのリスクマネジメント理論です。要は、直面するリスクや逆境に対して決断するときには、起こりうる「Probability:可能性」と起こったときの「Seriousness:深刻さ」の掛け算だと思い出しました。作業者が何百人も集まり、建機もしっかりと用意し、工事スケジュールも問題なかったのですが、何が起こるかわからない。何か起こったときに、既設のプラントに重大な迷惑をかけてしまう。そうすると何億円だけでなく、日揮の信用を失うリスクがあり、「Seriousness」が大きすぎると思いました。

そこで私は「今日は申し訳ないけど、台風の予報では決行できますが、キャンセルします」と、中止にする判断をしたんです。この判断に対して、みんなから随分と文句を言われました。しかし、その後、なんと台風が予報よりも3、4時間早く上陸したんです。もし工事を決行してトラブルがあったら、大変な事態になっていた、それをみんな理解してくれ、翌日、「素晴らしい決断だった!」と褒められ、翌週にはシャットダウンをしてくれました。



窮したときの判断では、起こりうる可能性と起こったときの深刻さの掛け算で決めるべきことを、身をもって経験しました。この「Probability」は知識やデータで把握できますが、現場で力を発揮するためには、「Seriousness」の経験、すなわち知恵が必要になってくる、この2つの掛け算が正解なんです。「知識は入れるもの 知恵は出すもの」ということをこの経験から学びました。

石戸 その言葉、花田さんが身をもって経験しからこそ説得力がありますね。

花田 社内でも若手がいろいろなセミナーなどに行きますが、知識を入れるだけでなく、それを知恵として発揮してくれ、知恵として出していれば、正解でも間違っていても必ずそこに価値は生まれるから、と話しています。知恵を出すとは言いますが、知識を出すとは言いません。知識をもっと入れようと言いますが、知恵を入れようとは言いませんよね。知識は入れるもの、知恵は出すもの。これは私の座右の銘のひとつです。

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