変革のカギを握るCxOの挑戦 #11

ライフネット生命 森亮介氏は、苦しかった時期をどう乗り越えたか

前回の記事:
ライフネット生命 森亮介氏が34歳の若さで社長に抜擢された理由
  パイオニア チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)石戸亮氏がマーケティング・DX・CX領域で活躍するエグゼクティブにインタビューし、その人が実績を出している裏側にある考え方を解き明かしていく連載。ライフネット生命保険 代表取締役社長の森亮介氏が登場。前半の若くして社長に就任した背景と経営者として大切にしていることに続き、後半では、上場後の苦悩からLTVや長期視点で考えたときの営業・マーケティング・ファイナンスの重要性、将来実現したいと考えている相互扶助の取り組みについて、詳しく聞いた。
 

苦しかった上場後の10年間とスマホファーストの重要性


石戸 ライフネット生命にとって上場した2012年からの10年間は、どんな時代でしたか。
  
ライフネット生命保険株式会社 代表取締役社長
森 亮介 氏

 前半は、お客さまの伸びが鈍化し、すごく苦しい時期でした。そこで失ったものも当然ありますが、学びも非常に大きかったです。今振り返ると、上場までの5年間は、どのような想いで起業したのかという開業ストーリーで多くのメディアに露出できていました。でも、上場後はその賞味期限が少しずつ切れてきたという感じでした。

さらに、同じタイミングで、インターネットにアクセスするデバイスがPCからスマホに転換しました。当然、金融サービスもスマホへの対応を求められるようになり、我々のビジネスは、一度大きく破壊されました。

石戸 ビジネスが破壊されてから、回復に向かった後半はどうでしたか。

 岩瀬さんが会社の大転換を図ったことで、回復していきました。当時は、パソコンのサイトパフォーマンスにすごく自信があった一方で、自社のビジネスをスマートフォンに移し換えることは困難だと思われていました。しかし、スマートフォンで当社サイトに来訪されるお客さまの急速な増加は止めることができないトレンドなので、すべてスマホファーストにつくり変えるために、社内のサイト制作プロセスを一気に変えました。

スマホサイトを作り直して、パソコンは後から合わせていくように切り替え、少しずつプロモーションコストを増やしていきました。こうなると次は、良いサイクルになるので、テレビCMを活用してコンバージョンにつなげて、お客さまの数を増やしていくフェーズに入ったんです。

石戸 スマホファーストになるまでの期間は、どのくらいだったんですか。

 2~3年という長い時間がかかってしまい、事業を継続しながらサービスの大改造を行うことはとても大変だと学びました。これは当時の反省であり、この経験は今の経営方針に大きく反映しています。

でも、我々にとって不幸中の幸いだったことがひとつあります。それは金融サービスの領域では、デバイスの転換などへの対応が他業界よりも1~2年遅くても、お客さまは我慢して待っていてくれたということです。そのため、スマホの次に何が来るかを当てる必要はなく、他の業界で起こったことを参考に、金融業界で一番早く対応すればいいんです。今後も対応のスピード力を武器に、継続的に事業を成長できると考えています。

石戸 なかなかスピードを出しづらい金融業界の中でスピード感をもって対応できれば、そこが強みになるわけですね。
    
パイオニア チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)
石戸 亮 氏

 そうなんです。それが苦しかった時期から得られた大きな学びのひとつです。これは価格などよりも、組織能力として会社の強みになると思いました。ここ数年では、バックエンドの基幹システムも刷新したこと等により、環境変化への抜本的な対応に要する時間は一層短期化されています。

石戸 現在のライフネット生命では、テレビCMでもスマートフォンの画面が出てきていますよね。本当にスマホをイメージしながらクリエイティブも工夫されています。

 そうですね、その数十秒でパソコンの画面を出すか、スマートフォンの画面出すかで、CMを見ているお客さまの取る行動が異なってくるので、そこは意識しています。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録