国境は地図の上にない、心の中にある #06

体重が10キロ減るほど苦労。タイ市場攻略で、人生観を変えた成功体験【元ユニ・チャーム 木村幸広】

前回の記事:
先行メーカーが独占的シェアを持つタイ、元ユニ・チャーム 木村 氏はどう切り崩したのか。
  ユニ・チャームで30年以上に渡りマーケティングに携わり、タイ法人及びインド法人の代表などを歴任し、同社の海外の重要拠点の黒字化に成功した経験をもつ木村幸広氏。この連載では、世界で活躍するグローバルマーケターになるまでの軌跡を辿りながら、グローバルで成功する要件と、マーケティングに重要な消費者視点などを紐解いていく。第6回は、体重が10kg減るほどの苦労、それを乗り越えることができた秘話を紹介する。
 

海外赴任成功のための3つのポイント

 
  1. 自社の商品が絶対にお客さまのためになると、信じること。

  2. 絶対に成功させなければいけない環境に身を置くこと。

  3. 信頼できる仲間との対話を大切にする。
 

タイでも売り場に立つことの重要さを実感


 第5回で話したように、既存の販売代理店に協力してもらったこともあり、ようやく営業活動を開始できました。最初に取り組んだのは、とあるスーパーの1店舗に注力し、そこで成功事例をつくることでした。ベビー用品が寡占状態であったタイ市場では、さまざまな店舗に営業をかけても相手にされないと考えたので、まずはひとつの店舗に絞っていろいろと試していこうと考えたのです。

 はじめは、テレビCMも打ちましたが、すぐに先行メーカーにその何倍もの量の広告を打たれてしまいました。広告だけに頼るのは難しく、私も営業責任者も毎日売り場に立ち、来店客に商品を紹介することで、少しずつお客さまの心を掴んでいきました。店舗の販売員とも話しながら、どうすればお客さまに商品のよさを分かってもらえるのかを考える日々でしたね。


 
我々が発売を開始した月に、いきなり先行メーカーが値下げをして、まだ知られていない我々の商品がはるかに割高になってしまいました。値下げをして価格を合わせることも考えましたが、そうすればまた競合も下げるだろうと考え、価格競争はしないことに決め、競合よりも値段が高い状況でも売れるにはどうすればいいのかを考えました。

 現地の実態に合わせて、長時間の使用にも耐えられるおむつを開発していたので、それを強みに1枚のおむつで2枚分使えると謳った広告を打ちました。それと同時に、売り場でも同じ内容のコミュニケーションを行っていったので、本当に少しずつでしたがお客さまが増えていきましたね。

 当時を振り返ると、とても地道な活動でしたが、広告にかけられる資金もなく、広告を打って勝てる確信もなかったので、実際に売り場でお客さまと話しながら販売するしかありませんでした。ただ、お客さまの反応を見ながら説得する内容を考え、それを繰り返すことによりPOSデータが少しずつ改善されて売上の増加を実感できる経験をしましたね。



 プロとして売り場に立つことの大切さ(第1回)は、入社後の営業に配属されたときに実感をしていましたが、改めて自らが売り場でお客さまとコミュニケーションすることの重要性を感じました。タイという異国の地で、POSデータを通じて、明らかに数字が上がる経験は、非常に嬉しかった記憶とそれ以降の糧になりました。

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