変革のカギを握るCxOの挑戦 #13
パーパスやバリューを刷新したUCCグループ、経営戦略と海外ビジネスの裏側に迫る【UCC上島珈琲 副社長 里見陵氏】
小林製薬 CDOユニット ユニット長(取材時:パイオニア チーフ・デジタル・オフィサー)石戸亮氏がマーケティング・DX・CX領域で活躍するエグゼクティブにインタビューし、その人が実績を出している裏側にある考え方を解き明かしていく連載。第6回は、35歳でUCCホールディングスに中途入社してから、4年4カ月でUCC上島珈琲の取締役副社長に就任した里見陵氏が登場する。後半では、UCCグループの経営戦略や2021年にグループのパーパス・バリューなどを刷新した意図や過程のほか、同氏が取り組んだ海外ビジネスの強化について詳しく聞いた。
BtoBではグローバルNo.1、BtoCではブランド力の強化を目指して
石戸 では、現在のUCCグループの経営戦略を教えてください。
里見 陵 氏
里見 我々はグループの経営方針をパーパス(私たちの存在意義)、バリュー(私たちの価値観)、コーポレートメッセージの3つにブレイクダウンし、それに基づいた経営を行っています。この3つは、2021年10月に新しく制定しました。
戦略としては、外食店などにコーヒー豆などを供給するBtoB事業とレギュラーコーヒーや飲料製品などを消費者に提供するBtoC事業の大きく2つに分かれます。BtoBは「トータルコーヒーソリューション・グローバルNo.1」、BtoCは「ザ・ベスト・コーヒーブランド=UCC」という目標・方向性を掲げています。ちなみに、我々の事業の構成は70~80%をBtoBが占め、実はUCCというブランドが付いていないビジネスがほとんどです。
特にBtoB事業は、グローバルでNo.1の企業に肉薄したNo.2です。そのため、グローバルでNo.1を取るという意思を込めて「トータルコーヒーソリューション・グローバルNo.1」という目標になったのです。
我々は歴史的にBtoBが強く、継続的なマーケティング投資が必要なBtoCよりも、安定しているBtoBを主体としたビジネスを伸ばしてきた側面があります。一方で、特に40代以下の世代でBtoC事業におけるUCCブランドの存在感が必ずしも高くない現状があります。コーヒーブランドと言えば外資系のカフェブランドなどのイメージが強いのではないでしょうか。この状況は、中長期的に見て非常によくないため、まずは日本市場で生活者に好きなコーヒーブランドを聞いたときに、UCCが「ザ・ベスト・コーヒーブランド」になる位置を目指すことをひとつの大きな経営戦略にしています。
石戸 BtoCにおいて、ブランドに対する課題感、危機感を抱き始めたタイミングは、いつだったのでしょうか。
里見 コロナ禍がきっかけでした。我々がBtoC よりもBtoBの事業が強いということは、いわゆる外食など家庭外のビジネスが強いことを意味します。そのためBtoB事業がコロナをきっかけに大きなダメージを受け、議論のきっかけになりました。
ここには、オーナーである上島グループCEOの強い意思もありました。我々はコーヒー屋として、コーヒーの焙煎、ブレンドなどに強くこだわっており、この領域は他社ブランドに負けない差があると考えています。だからこそBtoBは圧倒的な強さがある。しかし、そのような我々の強みと世の中の人々の認識に乖離があったので、それを埋めることが重要だと考えたようです。私もCEOがUCCブランドの方向を転換していくぞと舵を切ったときは驚きましたね。
石戸 コロナ禍以前は、BtoC事業に対して、どのような認識だったのでしょうか。
里見 BtoCにおけるマーケティング投資は、返ってくるかがわからない不確実性が相対的に高いと認識していました。我々は非上場企業ということもあり、投資などの資源配分、リスクリターンには相当に敏感です。そのためBtoBのほうが限られた資源の中で投資回収性の高いビジネスが実現できるという考えだったと思います。
石戸 亮 氏
石戸 なるほど。上場などの明確なイグジットがあるわけではないので、BtoCはややリスクのある投資になってしまうわけですね。
里見 そうですね。コロナ禍の前後からCEOは「脱皮が必要」と何度もおっしゃられていました。脱皮は蟹などの一回り大きくなるような脱皮ではなく、幼虫が蝶になる完全変態の脱皮です。それくらい大きく舵を切らなければ、市場の変化にはついていけないと考えていたと思います。そのため、パーパスやバリューなどの経営方針も刷新したという経緯があります。