マーケターズ・ロード 富永朋信 #05

日本コカ・コーラを辞めて、小売業のマーケターを志した理由【イトーヨーカ堂 富永朋信】

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「ところで、その人の靴は舐めましたか」 僕が三枚目のデブキャラにシフトした理由 【イトーヨーカ堂 富永朋信】

小売業のマーケターを志したきっかけ

 リテール企業のマーケティングをやってみたい——のちの、西友のCMOというキャリアにつながるきっかけは、ふいに訪れました。

 あるとき、日本コカ・コーラ(CCJC)の自動販売機プロジェクト「Cmode」のバリューポジションをつくっていたところ、「いまいちだな」と感じたのです。というのも、コカ・コーラを買うときに消費者が獲得する価値は、商品そのものの価値だけではないはずです。自販機なら「冷えている飲料を買える」、コンビニなら「新しいものが手に入る」など、チャネルに付随した価値がある。

 そして、その価値は決して小さくないにも関わらず、ブランドマネージャーはコントロールできません。

 新卒からCCJCに入りたい、ブランド広告に携わりたいと思い続け、ようやく叶った夢でしたが、「ブランドマネージャーは、購買経験価値をコントロールできないのでは?」という疑問に直面してしまったのです。



 Cmodeは、購買体験そのものにエンターテインメント性があり、それがほかのチャネルにない価値と言えます。購買における、それほどインパクトのある価値をチャネルに規定されてしまうのなら、「ブランド」とは一体何なんだろう…と。

 そうして、小売業のマーケティングに携わりたいと思うようになりました。

 小売業のマーケターならば、自社のチェーン店に限られるものの、消費者の手元に商品が届くまで一気通貫でバリュープロポジションを提供できるのではないか、と考えたのです。こうして僕のキャリアは、CCJC以前と以後で、大きく異なるものになりました。
 

自分なりの「型」が確立した、BAT時代

 3年間のCCJC時代を終えて、次に入社したのはブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン(BAT)です。35~38歳の4年間、チャネル開発部門の責任者を務めることになりました。



 ブランドで勝負する企業の店頭マーケティングに近い仕事に従事できるということに加え、自分のチームを持つ経験を積みたかったというのが、BATを選択した大きな理由のひとつです。リテールマーケティングの組織は、何十人規模、多いところで100人規模という大きな所帯であることが多く、チームを持った経験がないのでは話になりません。

 僕のミッションは、コンビニなどの店頭でフェースを確保するための施策を考え、営業部門と連携して実行することでした。独自に定義した優良店に「繁盛クラブ」というメンバーシップに登録してもらってCRM施策を展開したり、コンビニ店頭用の什器をつくって他社より優位なディストリビューションをとれるようにしたり。

 また、タバコの自販機もユニークなものを開発しました。飲料の自販機は、例えばコカ・コーラが設置したものならコカ・コーラの商品しか並びません。しかしタバコの自販機は特殊で、BATが設置したものでも他社の商品が一緒に並びます。

 自社が費用を負担して設置するにも関わらず、設置店と契約する際には「自社の商品を最低でも2割は入れてください」というようなお願いをしなければならないのです。そこで、自販機の中に小さなショーケースを設置して、自社商品が目立つ工夫をしました。

 また、当時は「taspo(タスポ)」運用開始前だったため、夜は自販機を稼働することができず、パッケージとフロントガラスの間にシャッターが下りる仕様になっていました。そこで、そのシャッターにBATのロゴマークをプリントすることで、自販機全体を大きな看板として機能させる試みも行いました、

 こうした取り組みを通じて、僕なりの「型」が完成したのがBAT時代と言えます。「型」というのは、メディアの捉え方・使い方です。

 初期の認知を獲得し、認知を深耕し、興味を形成し、ロイヤリティを形成し……と、購買意思決定までにはいくつかのステップがあり、各ステップにはそれぞれに適したメディアがあります。

 そして僕は、メディアを「プラットフォーム」と「フォーマット」に分けて捉え、使いこなすことができるのではと考えたのです。
 

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