国境は地図の上にない、心の中にある #10

元ユニ・チャーム グローバルマーケターの木村氏が語る「ブランド=お客さまに対する責任の宣言」

前回の記事:
グローバル企業の寡占状態にあったインド・おむつ市場で、ユニ・チャームはどうシェアを伸ばしたのか?【元ユニ・チャーム 木村幸広】
 ユニ・チャームで30年以上に渡りマーケティングに携わり、タイ法人及びインド法人の代表などを歴任し、同社の海外の重要拠点の黒字化に成功した経験をもつ木村幸広氏。この連載では、世界で活躍するマーケターになるまでの軌跡を辿りながら、グローバルで成功する要件と、マーケティングに重要な消費者視点などを紐解いていく。第10回は、インドから帰国後にグローバルのマーケティング統括になった背景と、ブランドが果たす役割について紹介する。
 

消費者の声を聞き「マーケティング」を実践する


 当時、インド市場における紙おむつへの認識は、日本で初めて紙おむつが誕生した頃と同じ状態でした。前編で紹介したテレビ広告や店頭の工夫に加えて、紙おむつのベネフィットを伝える啓発活動も行いました。

 インドでは布おむつを洗って使うことが普通だったので、「洗わなくてよいおむつ=便利」というだけでは購入してもらえません。使い捨て商品にお金を払うのであれば、自分で洗えばいいだけではないかとなってしまうので、赤ちゃんにとって何がいいのかをしっかりと理解してもらう必要がありました。
  
インドの店頭で店主と写る木村氏

 そのひとつに「赤ちゃんの清潔が保てる」があります。紙おむつによって排泄物をいち早く赤ちゃんの体から離して、衛生状態や肌を綺麗に保つことが重要なことを伝えました。

 とはいえ、ゴミが街に山積していた当時のインドの人々は「衛生が重要である」という概念が乏しかったので、清潔さのメリットを伝えることが非常に困難でした。そこを理解した上で、赤ちゃんにとって衛生的であることがいかに大切かを少しずつ啓蒙していきましたね。

「新興国への参入=市場の新規開拓」になるので、消費者に商品の便益をいかに理解してもらうかが重要です。まさに、市場創造という「マーケティング」そのものですね。ただ、企業側が「教育する」という姿勢をとると、相手はそれを求めていないため、おこがましく感じて頭に入ってきません。

 大切なことは現地の消費者を観察し、直接声を聞いて、「教育する」ではなく、どうしたら理解してもらえるのかを考えることです。さらに、興味を持ってもらえるためには、どう伝えればよいのかを試行錯誤して、消費者の心の扉を開けなくてはいけません。

 ユニ・チャームは日本でパンツ式おむつ市場をゼロからつくり上げてきた歴史や知見があるので、インドでも同じ施策を10年間続けました。使い捨て商品は「贅沢品」「無駄遣い」「楽」に見られますが、「衛生的」という利点があります。

 日本でも新型コロナの影響もあり、マスクへの印象が変わりました。たとえば、日本では長い間ガーゼマスクが主流で、「不織布の使い捨てマスクは何がいいのか?」をわかって頂くことが課題でしたが、コロナによって不織布マスク『超快適マスク』『超立体マスク』の良さをわかっていただけるようになりましたよね。

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