ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #10

シリコンバレーのベンチャキャピタリスト 宮田拓弥が、日本企業に見出している価値と可能性【聞き手:ニトリ田岡敬】

前回の記事:
2代目社長 新方針へ反発、出店取り止め。ドラッグストアチェーンのサツドラは、社内改革をどう進めたのか
 ニトリホールディングス 上席執行役員 田岡敬氏が、第一線で活躍するビジネスパーソンから、その人がキャリアを切り開いてきた背景やイノベーションを生み出してきた思考法を探っていく本連載。

 第5回は、米国で会社を起業したのち売却し、現在はベンチャーキャピタリストとして米国を中心にベンチャーへの投資を行うスクラムベンチャーズの宮田拓弥氏が登場。最近はパナソニックや任天堂など日本企業とのプロジェクトをスタートさせて注目を集めている。業界を限定せずに投資を行っている宮田氏に、情報収集法や投資判断のための思考法、米国と日本のベンチャー界隈の状況などを聞いた。
 

日本のベンチャー界隈は、人材の量も質も上がっている


田岡 日本におけるベンチャー企業やベンチャーキャピタル(VC)の状況については、どう感じていますか。

宮田 僕がベンチャー業界に入ったのは、2000年より少し前。その頃は、よほどの変わり者でなければ、ネットやベンチャーに興味を持たなかった時代でしたが、今は元マッキンゼーや元ゴールドマン・サックス、大学で言えば東京大学出身者のような人たちがどんどんベンチャー業界に入ってきています。就業人数は増えていますし、明らかに働く人の質も上がっていると思います。

 さらに資金も当時とは比べられないほど流入し、いい意味で成功事例やロールモデルができてきましたよね。日本のベンチャーに関しては、基本的に楽観視しています。僕らも、AIを介護などに活用したサービスを手がけるエクサウィザーズと、リアルタイムで飲食店の空き状況がわかるサービスを提供するバカンという2社に出資しています。
宮田拓弥氏
Scrum Ventures 創業者/ゼネラルパートナー

1972年、神奈川県生まれ。サンフランシスコをベースに、米国のテックスタートアップへの投資を行うベンチャーキャピタルを経営。これまでにコマース、ヘルスケア、SaaS、動画、VR、Fintech、IoTなど40社を超えるスタートアップに投資を実行している。またSan Franciscoでコラボレーションオフィス ZenSquareを運営している。それ以前は、日本および米国でソフトウェア、モバイルなどのスタートアップを複数起業。2009年ミクシィのアライアンス担当役員に就任し、その後 mixi America CEO を務める。早稲田大学大学院理工学研究科薄膜材料工学修了。

田岡 VC側も育ってきていると感じますか。

宮田 そう思います。唯一の懸念は、日本が人口も含めてシュリンクしていく国なのに、現状1億人以上いるため、日本で成功すればそこそこの地位を築けることから、韓国のような切迫感がないということです。いずれ人口が半分になる可能性があるのに、その日本でしかビジネスをしておらず大丈夫だろうかと心配しています。

田岡 米国のベンチャーは、最初からグローバルを目指しているイメージですよね。

宮田 いえ、全然そんなことはありません。そもそも米国の人口が大きいのと、母国語が英語なため、自然に進出していける国としてカナダやイギリスもあります。それに、英語が第一言語でなくても話せる人が多いということもあって、実は米国のベンチャーに最初からグローバル戦略なんてありません。実は、すごくローカルなんですよ。

田岡 それにしては、米国のサービスのUIやUXが、そのままグローバルに出て通用しているケースが多い気がします。

宮田 それは単に米国発の製品に親しんでいるからではないでしょうか。もともと僕らは米国のUXとして、ナイキの靴を履き、コカ・コーラを飲んでいます。それと同じですよね。

 今後、同じようなことが中国発のサービスでも起こる可能性があると思っています。例えばペイメントやバイクシェアリングなど、中国発の新しいサービスがいくつも出てきています。今後10年から20年で、グローバルスタンダードは米国か中国のどちらが握るのかという競争の時代です。中国との関係は無視できなくなるため、今から準備した方がいいと思います。

田岡 宮田さんは今後、中国にも根を張っていかれるのですか。
田岡 敬 氏
ニトリホールディングス
上席執行役員

リクルート、Pokemon USA, Inc. SVP、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、現職。ニトリのデジタル戦略を担当している。

宮田 はい、「America As Number One」という時代は明らかに終わりつつあります。最近、日本で投資活動を始めたのもそうで、アジアやヨーロッパも見ていかなければという感覚は、この1年で強くなりました。

田岡 シリコンバレーにも、そういった危機感はあるのですか。

宮田 一部の人は気づいています。とはいえ、米国人は日本人以上にローカルでドメスティックな面があります。危機感は全体には共有されていませんね。

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