マーケターズ・ロード 横山隆治 #01
アドマンは、広告主に鍛えられる【デジタルインテリジェンス 横山隆治】
「じゃあ、お前から買うよ」と言ってもらうために
キリンビールさんの仕事には、思い出深いものがたくさんあります。QUEENの『We Will Rock You』を楽曲に起用し、ハリウッドのクリエーターとつくった、炭酸飲料「キリン メッツ」のテレビCM。グラミー賞と双璧を成す米国の音楽賞「アメリカン・ミュージック・アワード」の特番制作(編集部注:同番組は、5年間にわたってキリンが冠スポンサーを務めた)も担当しました。
ライブハウスでハイネケンを飲む習慣を広める目的で開催した「ハイネケン・シティ・ライブ・ツアー」の企画運営も、ユニークな仕事のひとつでしたね。各地のライブハウスに、キリンさんがスポンサードしなければなかなか招聘できないようなアーティストが登場するライブイベントです。
さらに、マス広告やイベントだけでなく、事業運営も経験。キリンビールさんと旭通の合弁会社・キリンアンドコミュニケーションズで、通信販売事業「キリンカルチュアクラブ」の担当にもなりました。ビアマグを中心とした陶磁器、宝飾品、衣類など高付加価値商品を販売する会員制の通信販売事業で、会員が求めているものは何かを考えてマーチャンダイジングを行う、ユーザー中心のダイレクトマーケティングをここで経験しました。
広告営業として駆け抜けた約15年間、とにかく色々なことを経験させてもらいました。当初希望していたCMプランナーではなかったけれど、営業に配属されたことで、企画から実施、入金まで広告という仕事の本質というか、マーケティング活動支援サービスの奥深さを知ることができたと思います。
広告代理店の営業職は、サービス業。決まったサービスをきちんと提供するだけではダメで、「クライアントにいかに喜んでもらうか」ということも仕事による自己実現の仕方であります。同じ広告枠でも、「お前から買うよ」と言ってもらう。そこが、営業の醍醐味。
例えば、先の「ハイネケン・シティ・ライブ・ツアー」でベーシストのマーカス・ミラーを呼んだ際に、ジャズトランペット奏者のマイルス・デイヴィスとサックス奏者のデイヴィッド・サンボーンが来日していることを聞きつけ、無類の音楽好きだったキリンさんの担当者の自宅にまで電話をして引き合わせたところ、本当に泣いて喜ばれたのをいまでも覚えています。
旭通の創業者である稲垣さん(故・稲垣正夫氏)も、「(クライアントへの)訪問頻度×滞留時間」が売上につながるとよく話していました。
いまは、そういう時代ではないのだろうけれど、アドマンはクライアントに喜んでもらうサービスを提供する。そして、その過程で鍛えられるということは、変わらないだろうなと思います。
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