ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #18

数あるPR会社の中で、ベクトルが急成長できた背景【代表取締役CEO 西江肇司】

前回の記事:
創業から18年経った現在も「0→1(ゼロイチ)」成功する新規事業のつくり方【オールアバウト代表取締役社長 江幡哲也】
 ニトリホールディングス 上席執行役員 田岡敬氏が第一線で活躍するビジネスパーソンから、その人がキャリアを切り開いてきた背景やイノベーションを生み出してきた思考法を探っていく連載。

 第9回は、ベクトルを国内最大規模のPR会社へと成長させた西江肇司氏が登場。同社をゼロから立ち上げて売上200億円を超えるまでに成長させることができた背景、今後のビジョンなどについて、普段取材を受けることが少ない西江氏に話を聞いた。

PR業に縛られない、モノを広めるファストカンパニーへ

田岡 ここ数年、ベクトルは動画制作や配信を行う会社を立ち上げたり、メディア企業を買収したり、PRの領域を超えた展開をしています。西江さんは、どのようなビジョンを描き、何を目指していらっしゃるのでしょうか。

西江 そうですね。現在のベクトルは、PRに縛られずに“モノを広める業界”のファストカンパニーを目指しています。モノが何によって、世の中に広まっていくのか。時代が大きく変化し、広告だけに頼らず、ニュースで日本中に情報を広められるようになりました。つまり、これまでベクトルが築いてきたPRを中心としたサービスインフラをもってすれば、モノを広められることに気づいたのです。
西江 肇司(にしえ けいじ) 氏
ベクトル 代表取締役 兼 グループCEO
1968年生まれ、岡山県出身。関西学院大学卒。大学在学中に起業し、卒業後、1993年にセールスプロモーションを事業とするベクトルを設立。2000年よりPR事業を中心とした体制に移行。さまざまな企業のPR戦略のコンサルティング、PRの手法開発を手掛けながら売上を拡大。2012年、東証マザーズに上場。2014年、東証一部へ市場変更、持ち株会社へ移行。2011年からは海外へ積極的に進出し、アジアナンバーワンを目指す。連結グループ会社は45社(2018年11月)。

 その上で、重要なのが動画です。テレビCMで広告主が放送局からもらえていた時間は、番組内の15秒。しかし現在は、ユーザーが企業のWebサイトを訪れた瞬間に動画を見せることができ、アドテクノロジーを活用してターゲットだけに広告をリーチさせ集客することもできます。

田岡 動画に力を入れているわけですね。動画市場が伸びると思われた、きっかけがあったのですか。

西江 はい、僕はロックバンドの「ローリング・ストーンズ」が好きなのですが、2年ほど前、彼らがLIVEを行うという情報をスマートフォン上のニュースサイト上の動画を通じて知ったのです。

 昔はテレビCMや雑誌広告で情報が広まっていましたが、今はスマートフォン上のネットニュースと、そこに掲載されている動画だけで告知ができると、そのとき実感しました。そして、先ほど触れたように、アドテクノロジーを駆使することで、ファンだけにターゲティングして動画を配信することもできます。

 その経験を通じて、モノを広めるコストやスピードが、従来の100分の1以下になっていることに気付いたのです。

田岡 コミュニケーションの効率が圧倒的によくなっている、と。
田岡 敬 氏
ニトリホールディングス
上席執行役員
リクルート、Pokemon USA, Inc. SVP、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、現職。ニトリのデジタル戦略を担当している。

西江 はい、そこで立ち上げたのが動画制作・配信サービス「NewsTV」です。ここでの動画は、映画における「トレーラー(予告動画)」と同じ位置づけです。映画を観に行くとき、トレーラーを全員が事前に自発的に見るわけではないですよね。そこで、その動画を拡散する必要が生まれ、プラットフォームとしてビデオリリースの時代が来ると考えたわけです。

 それに当社は、PR会社としての地位を築きましたが、PRの市場規模は約1000億円程度とも言われています。上場企業である以上、より大きな市場を狙う必要があり、6兆円規模の広告業界をターゲットにする必要がありました。そして何より、PRだけではファストカンパニーたり得ないと気付いたのです。
 
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