ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #18

数あるPR会社の中で、ベクトルが急成長できた背景【代表取締役CEO 西江肇司】

タレントの起用で、格段に効果が上がる

田岡 クライアントに対して、どのようなサポートをして成果につなげていますか。

西江 最近、取り組んでいるのは、テレビCMは打たないけれども、タレントを使うパターンです。例えば、小泉孝太郎さんを起用した「あしたのチーム」が挙げられます。テレビCMは展開していないのですが、さまざまな場所で目にしていると思いませんか。



田岡 タクシーで、よく見かけますね。

西江 はい、タクシーでも展開しています。ターゲットである企業の経営陣にリーチしようとテレビCMをしても、そもそもテレビを見ていなかったりするため難しい。タクシーに限らず、ソーシャルメディアも使って東京の社長にターゲティングしています。

田岡 テレビCMを展開している企業に対して「コストを圧縮してリーチできますよ」と営業しているということですか。

西江 いえ、そうではありません。テレビCMと予算が合わないような1~20億円ほどの利益が出ている企業がクライアントになります。そのような規模の企業の役に立つことが分かってきました。

 ただし、テレビCMから切り替えるクライアントも出てきています。ある育毛剤メーカーは、もともとテレビCMをしていましたが効果がなく、今ではそのコストをすべてデジタルに回しています。そして、そのクリエイティブに元政治家でタレントの東国原英夫さんを起用してインパクトを強めることで、3年ばかりで売上は50億円、利益は3億円に成長しています。

田岡 タレントの有無で、まったく印象が違いますか。

西江 はい、集客力も格段に違います。当然、購入率にも影響を与えます。タレントを起用すれば、そこに凝ったクリエイティブは必要ありません。ファストカンパニーと表現したように、ベクトルは広告業界のマクドナルドのような発想をしているんです。

 日本の広告業界はとても複雑で、分業制であるがゆえ効率が悪い。例えば、僕らはホームページのフロントに必ず動画を置くようにアドバイスしますが、Web制作会社はページ数を増やさなければ、売上が上がらない構造のために、そうした提案をしません。

 また、動画に取り組みたいと思って動画制作会社に依頼しても、彼らはテクノロジーを使って、どうすればターゲットにその動画を配信できるのか、ノウハウがありません。
 
NewsTVでもタレントを起用している。
田岡 今後は、どのような展開を考えていますか。

西江 広告業界の6兆円市場のうち7割はメディアです。僕らは近年、スマートフォンのメディア企業を買収していて、グループとしてリーチできる人数を増やしていきたいと考えています。

 また、ソニーペイメントサービスが日本交通以外のタクシー会社を束ねて、AI(人工知能)を使って需要予想などを行う会社「みんなのタクシー」を立ち上げたのですが、その車内のデジタルサイネージはベクトルが管理します。このように時流に乗ったメディアを数多く押さえていこうと考えています。

田岡 ターゲティングできる点は、大きなメリットですよね。従来の広告やPR活動は誰が見ているのか、詳細に追うことができません。

西江 その通りです。ただし、僕らは6兆円市場を狙っていると言っても、昔ながらの広告然としたコンテンツを配信するわけではありません。例えば、小さな子どもは動画を見ていても、何の忖度なしにCMをスキップするじゃないですか。だから飛ばされてしまう運命にある広告ではなく、ユニークなコンテンツ市場を狙っているという言い方が正しいかもしれません。
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