マーケティングアジェンダ

「愛を叫べ、意味を創れ」元P&G伊東氏&音部氏、エステー鹿毛氏登壇(聞き手:ドミノ・ピザ ジャパン富永氏)

新たなルーチンを構築する2つの方法

富永:音部さんは先ほど、「毎月買ってもらうためにルーチンをつくる」というお話をされていました。人の生活はルーチンの塊と言うことができ、そこに新しいルーチンが入り込む余地はあまりない。そう考えると、新たなルーチンをつくるのは本当に難しいことだと感じるのですが。



音部:ルーチンを新しくつくる方法は、2つあると考えています。ひとつは、今あるルーチンにくっつける方法。これは、例えば「歯を磨く」というルーチンに、歯を磨いたあとにマウスウォッシュをする、あるいは歯間ブラシをするといった習慣をくっつけるということ。もうひとつは、今までのルーチンと入れ替える方法。例えば、車で会社に行っていたのをUberにする、あるいはいっそ電車にしてしまうといったことです。

 「ファブリーズ」の場合、掃除にくっつけるという発想でした。その結果、ニオイがなくなるため、エステー「消臭力」や小林製薬「消臭元」の利用機会が減るという想定をしました。そのうえ、新たな習慣が構築されれば、以前の習慣は思い出しにくい。もしも「消臭力」が2週間に1回など頻繁に買い換える商品であれば、消費者は思い出したかもしれませんが、もともと3カ月に1回、6カ月に1回程度購入されるため、思い出しにくかったということもあったかと思います。

富永:毎日のランチを思い浮かべてみても、どこで食べようか考えたときに思い浮かぶお店は3つか4つで、大抵その中から選びます。街なかに何百の飲食店があるにも関わらず、そこからは選ばれない。これがまさにルーチンの力で、一度形成されたルーチンを変えるのがいかに難しいかがわかります。



伊東:しかし、この話には続きがあって、世界の市場規模で見ると、置き型の消臭芳香剤市場と布用消臭剤市場では、9対1で布用消臭剤市場の方が小さいのです。その理由は、部屋からニオイをとるためにスプレーを吹き付ける行為は、とても面倒だということがありました。そして、そのハードルを乗り越えるには限界があることから、同じ置き型の消臭芳香剤を2004年に発売し、同じ棚で正面から勝負することに決めました。

 そこからは、おそらく鹿毛さんが悩まれてきたことと同じで、置きっ放しになった消臭芳香剤をどのように買い換えさせるかがテーマになりました。というのも、商品は30~60日で置き換えが必要なのに、一家庭につき年間2個程度しか買われていない。さらに、トイレ、キッチン、リビング、玄関にそれぞれ6個置いていくと、年間100個くらいは使う予定になる。

 つまり、エステーからシェアを奪うよりも、新しい習慣を構築し、市場を拡大していった方がビジネス的に大きいということを考えたんです。それからは、ひたすらお客さんの家に行き、匂いのある場所を探し、そこで使ってもらうための理由付けをしていく苦悩の旅が始まりました。

<後編「ファブリーズが市場をつくる一方、エステー『消臭力』がヒット」は、こちら
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