マーケティングアジェンダ
後編「愛を叫べ、意味を創れ」元P&G伊東氏&音部氏、エステー鹿毛氏登壇(聞き手:ドミノ・ピザ ジャパン富永氏)
2018/06/07
- エステー,
- 市場創造,
- ヒット商品,
- P&G,
- マーケティングアジェンダ,
「消臭力」のテレビCMは、なぜブレイクしたのか
富永:ファブリーズが消臭芳香剤と同じ土俵に上がり真っ向勝負が始まっていった中で、2011年にポルトガル人のミゲルくんが歌うテレビCMが話題になり、消臭力が大ブレイクしました。あれは本当に消臭芳香剤市場のダイナミズムが変わった成功事例だと思いますが、なぜ成功できたのでしょうか。鹿毛:ファブリーズの戦略のように、ブランドの機能によって得られる便益を消費者に訴求して、それが受け入れられた結果、商品が支持されるのもひとつですが、僕はずっと生活雑貨の中に「社会的なブランド」はないと感じていました。
社会的なブランドとは、例えばコカ・コーラやナイキのように、消費者がブランドに何かしらの感情を抱いているという関係性がしっかりある状態のことです。
伊東:あのテレビCMには消費者の課題提示も、ベネフィットの訴求も何もない。当時、僕はファブリーズのマーケティング責任者を勤めていて、外国人に「なぜ消臭力は2ケタ成長しているのに、ファブリーズは成長しないんだ」と聞かれたときにうまく説明できなかった。それが一番迷惑でしたね(笑)。
P&Gのように、ゼロから積み木を積み上げていく手法では、このテレビCMの表現にはたどり着きません。とはいえ、2ケタ成長を続けてこられたからには、鹿毛さんの手法は正しいと言うことができる。僕なりの説明も一応あったので外国人に話してみましたが、理解してもらえませんでした。
富永:何と説明されたのですか?
伊東:先ほども述べたように、このカテゴリーの商品は定期的に取り替えるのを忘れさせないことが一番大事なんです。そもそも想起率が勝負になるカテゴリーに、多くの日本人が15秒間黙って惹きつけられるテレビCMが生まれた。その最後に「消臭力」と言われると、「ああ、消臭力ね」と記憶に残る。
さらに「消臭力」という商品名は、それだけで匂いを消す力がある商品だと思わせることができる。店頭の棚の前で、ふと気づけばボトルを手に取っているということが起こるのです。つまり、想起率を高めて購入確率を上げることに成功したというのが、僕なりの説明です。
音部:店頭で子どもに歌ってもらうことでお母さんにブランドを思い出してもらおうと、子どもが歌いたくなる音楽の特徴を研究してみたことがありました。でも、結局はよくわからなかった。あのミゲルくんの歌は、たくさんの子どもたちに歌われたのではないかと想像します。
鹿毛:放送した翌日には、すでに歌っている子どもたちを見かけましたね。