ウーマンズインサイトアジェンダ #03

自分と向き合うのはなく、自分を眺める。800年の名刹と180年老舗漬物店から学ぶ「伝統と革新」

前回の記事:
ウーマンズインサイトアジェンダ2019が京都で開催、女性向け商材を担当するマーケターが150人集結
 女性向け商品やサービスのマーケターが集まるカンファレンス「ウーマンズインサイトアジェンダ2019」が10月28・29日、京都で開催。800年続く名刹・建仁寺両足院の副住職で米国Facebook本社へ講話に招かれたこともある伊藤東凌さんと、180年続く京漬物の老舗・村上重の若女将である村上恵理さんを招き、京都ならではの特別セッションが実現。モデレーターは同じく京都出身の吉野家CMOの田中安人さんが務め、100年を超える伝統の中で革新を続け、変わらぬ魅力を持ち続けるブランドになるためのヒントを探った。
 

「コード」を読み解き、今の時代の「モード」を当てる


田中 建仁寺両足院さんは800年、村上重さんは180年という歴史を重ね、それを一言でブランドと表現してしまうのも、おこがましいほどの存在です。お二方とも伝統を継承しながら常に未来を模索されています。

まずは、東凌さんにお聞きしたいのですが、常に伝統を背負っているお立場として日々、大事にされていることは何ですか。
田中 安人
吉野家 CMO
コミュニケーションコンサルタントとして組織のコミュニケーションをPDCAで回しながら業績に貢献する手法を実践。マーケティング領域で多数の業種、業界をコンサルティングしながら、吉野家ではCMOとしてマーケティング総括を担当。グリッド 代表取締役社長、公益財団法人日本スポーツ協会ブランド戦略委員会委員として、日本のスポーツの未来設計を担当。

伊藤 そうですね。建仁寺両足院について表現するとき、よく「伝統」という言葉を使っていただきますが、私は「伝統は危うい」と考えていて、最近は「何がオーセンティックか」、つまり本物であるかを考えるようにしています。

伝統を維持する中では、常に革新が起こってきました。しかし、その一方で引き継がざるを得なかったもの、あるいは残さざるを得なかった要素もあります。それらを含めて単に今の時代に継承するだけでは、良くないと考えているんです。
伊藤 東凌
建仁寺両足院 副住職
「美と叡智のプラットホーム」をこれからの寺院の主な役割の一つとして掲げ活動する。「美しいとは何か」「良いとはどういうことか」という問いと共に食事、美術、工芸、建築、体感知の再構築を計らい、国内外でプレゼンテーション、または展覧会によって提示し続けている。企業やアーティストのビジョンビジョンメイキングやコンテクスト編集に多数携わる。

 そこで最近は、「コード」と「モード」という分け方をしています。建仁寺には800年の歴史がありますが、そもそもお寺に何が重要で、何を為すべきかが「コード」。これは会社に例えれば、長年培われた技術などを意味すると思います。

 一方で、モードは、その時どきで使えるリソースの話。昔のままのモードだけでは、今の時代には響きません。例えば、お寺も昔と同じように「参拝に意味があります」「お墓参りは大事です」と言っているだけでは、「年に一回行くのも大変だなあ」と思われてしまう。そのため、どのようにコードを今のモードに当てはめるかが大事で、それをオーセンティックという言葉で表しているんです。





田中 世界的なブランドであるルイ・ヴィトンも「伝統は、革新の連続」と言及しているんですよね。実は、吉野家も毎年少しずつ味を変えながら革新し続けています。東凌さんのお話しを聞きながら、そんなことを思い浮かべました。

村上重さんも長い歴史を持ちながら、大看板の千枚漬けのほか、いろいろな新商品を開発されていますよね。商品開発には、若女将としてどのように関わっているのですか。

村上 
私は、味見係ですね(笑)。職人がそれぞれ素材となる野菜を選んで味付けを考えて漬物をつくっています。私はそこにふらっと現れて味見をして、「ああだこうだ」と言っているだけなんです。最終的には社内会議で意見を出し合い、社長が決定を下しています。
村上 恵理
村上重本店 若女将
第7代当主長女。2014年より宿泊施設「Bijuu」のマネージャーを兼務。2013年に自社ビルをリノベーションし、3室だけの宿泊施設を運営。

田中 謙遜されていますが、味を決めるのは、プロダクトの最高決定責任者の仕事。村上さんは、商品開発から宣伝までを担うチーフマーケティングオフィサーと同じ役割を担っていると思います。

180年も続いているということは、お祖母さまやお母さまから受け継がれた味覚、職人をコントロールする技術などが脈々と生き続けているんですよね。ちなみに、お店にはいつもお花を飾っていらっしゃいますが、何かこだわりがあるんですか。

村上 
私の祖母がお花を好きで、母に引き継がれ、今も継続しております。お客さまにもただお漬物を買いに来てもらうだけではなく、お花も愛でていただきたいという思いから始めたことです。お客さまの中には、お花だけを見に来る方もいらっしゃいますね。





田中 マーケターという視点から見ると、お店に飾られているお花が村上重というブランドづくりになっている気がするんですよね。

さらに、村上重さんは、2013年にホテルやギャラリーなどの機能を持つ「Bijuu(ビジュウ)」という場を京都の中心地につくられています。これも村上重さんの伝統をベースにつくられたのですか。

村上 
伝統をというよりも、うちは野菜本来の素材の味を大切にというテーマで漬物をつくっているので、野菜が発酵や熟成していくのと同じように、建物に使う石や木といった素材の変化を味わっていただく空間をつくりたいという思いがありました。



田中 伝統と革新のハイブリッドな取り組みだなとおもうのですが、東凌さんから見て、村上重さんの試みは、どのように感じられていますか。

伊藤 
日本には「真行草(しんぎょうそう)」と呼ばれる様式があって、漢字では「真」はかちっとした楷書、「行」は少し崩した行書、「草」は柔らかく多様性のある草書を指します。

伝統やオーセンティックと言ったとき、我々はついつい楷書のように、かちっとした面ばかりに注目してしまいますが、例えば、村上重であれば「真」に当たるお漬物に「行」や「草」に当たるBijuuが派生することで、より「真」のお仕事をしやすくなる面があるのではないかと感じました。

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