リテールアジェンダ2019 レポート #03

配荷 vs 差益。リテールとメーカーの利害を超えた「理想的な連携」に必要なこと

前回の記事:
「セブンがやらないことをやる」ファミリーマート 澤田貴司社長が明かす躍進の一手
 国内外のリテールのマーケターとメーカーのマーケターをつなぎ、一気通貫のマーケティングを実現するためのカンファレンス「リテールアジェンダ」が2019年12月、大磯プリンスホテルで開催。

オープニングキーノートに登壇したのは、リテール/メーカー/パートナーと、異なる立場でトップマーケターとして活躍する4人。顧客に新たな価値を提供するために、リテールとメーカーはどのように連携できるのか。また、デジタルシフトが進む中、リテールとメーカーが共に生き残っていくための方策とは。リテールマーケティングの実務家が集結して、未来の可能性を探った。
 

「お客さまへの価値提供」に、どんな関係を築くべきか


植野 リテールとメーカーの理想的な関係をどう築いていくか――。ここ1・2年、このテーマについて尋ねられたり、登壇依頼を受ける機会が増えたりしているのですが、その重要性には気づいていても、具体的に何をやればいいのかわからない、なぜなかなか実現できないのかわからない、という方が非常に多いように思います。このセッションでは、このテーマに思い切り、切り込んでいきたいと思います。

事前の打ち合わせの場で、登壇者同士で「タブーは一切なし」と誓い合いました。一部センシティブな話もありますが、それも含めて、この場では言ってしまおうと。

それでは、自己紹介からお願いします。「今日は、このテーマをひも解く!」という決意表明の意味も込めて、「リテールとメーカーの理想的な関係をどう築いていくか」という問いかけに対する、それぞれの結論と合わせて、お話しいただければと思います。
植野大輔 Daisuke Ueno
ファミリーマート デジタル戦略部長
三菱商事(情報産業グループ)に入社。三菱商事在籍中、CVS事業にも従事。その後、ボストンコンサルティンググループ(BCG)を経て、2017年1月ファミリーマート改革推進室長に就任、マーケティング本部長を歴任後、2018年11月よりデジタル戦略室長に就任。2019年3月より現職。「ファミペイ」など自社デジタル顧客基盤をベースとしたデジタル戦略を手掛ける。

結論「会社やチームの二項対立から自由になる」 

富永 普段、小売りの立場で話すことが多いのですが、コカ・コーラやブリティッシュ・アメリカン・タバコをはじめメーカーにもいたことがあり、両方を経験しました。結論は、「会社やチームの二項対立から自由になる」。

メーカーと小売り、営業とマーケティング、夫と妻など、2つの異なる主体が存在すると必ず対立します。その対立からいかに自由になって、ワンチームでやりとりできるかが鍵になると思っています。
富永朋信 Tomonobu Tominaga
イトーヨーカ堂 顧問
マーケティング関連の職務を歴任して現在9社目。CMOは4社目。株式会社イトーヨーカ堂 顧問、株式会社セルム 顧問、厚生労働省 年金局広報検討委員、内閣政府広報アドバイザー、マーケターキャリア協会理事、日経クロストレンドアドバイザリーボード。
 
「富永朋信の小売マーケティング勉強会」が4月22日スタート。小売のマーケティングを学ぶ、他にない勉強会。

鈴木 結論「お客さまの立場に立って、メーカー、リテールが共創する」 

鈴木 私は、富士通というメーカーからキャリアをスタートし、エンジニアとして10年ほど活動したのち、ソフトバンクでソフトの卸売業を経験しました。その後、セブン&アイで小売りの最前線に立ち、現在は小売り・外食・メーカーなど多様な業界の企業のデジタルシフトの支援をしています。

さまざまな立場を経験してきましたが、「みんな各々の立場で勝手なことを言うよなあ」というのが、偽らざる本音です(笑)。消費者行動をはじめ、さまざまな物事が大きく変貌を遂げているインターネット時代の今、メーカーと小売りが一緒になって、もう一度何かをつくり上げるタイミングに来ていると感じています。
鈴木康弘 Yasuhiro Suzuki
デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長
1987年、富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。1996年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に従事。ネット書籍販売会社イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立、代表取締役に就任。2006年資本移動によりセブン&アイHLDGS.グループ傘下に入り、2014年にセブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任、グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。2015年取締役執行役員CIOに就任、グループシステムの改革に着手し、デジタルシフトの骨格を作り上げる。2016年12月に同社を退社。2017年3月にデジタルシフトウェーブを設立、代表取締役社長に就任。多くのデジタルシフトを目指す企業を支援している。

結論「共通KPIとして、お客さま(既存+新規)×頻度(ジャーニー)で語る」 

中村 サントリーの中村です。今日、この会場にはメーカーの方が40名ほどいらっしゃいます。皆さんが日頃、流通・小売りやパートナーの方々に対して抱いている思いや意見を、メーカー代表として忌憚なく言っていければと思います。

流通・小売りの皆さんと仕事をしていて思うのは、共通のKPIとして「お客さま」を主語に語る必要があるということです。メーカーがやりとりをするのはリテールの商品部さんですから、どうしても“主従関係”のようなものができてしまいがち。

バイヤーやチーフマーチャンダイザーには頭が上がらない……という立場にメーカーが立たされてしまうことが往々にしてあります。そうした中、メーカーとリテールが対等な立場で話をするには、お客さまを主語にすることが基本ではないかと。今日はそこのところを、リテール代表の皆さんと本音で話せたらと思っています。
中村直人 Naohito Nakamura
サントリー酒類 営業推進本部 部長
1992年サントリー(現サントリーホールディングス)入社。全国の営業戦略立案・推進と流通企業とのプラットフォーム構築を統括・推進。デジタルイノベーションをフックに営業自体のイノベーションを目指す。

植野 中村さんは、「いい中村さん」と「悪い中村さん」を使い分けるそうですね(笑)。

中村 
はい。悪い中村のときは、すごい言葉遣いになっちゃいますので、SNSへの投稿はご遠慮していただきたいです(笑)。

結論「短期利害(配荷vs差益)を超えて、共に全力でお客さまを見る」


植野 
モデレーターを務めさせていただくファミリーマートの植野です。マーケティング本部でいろいろなメーカーさんとともにマーケティングに取り組む中で、大きな可能性と難しさの両方が見えてきました。

難しさとは、やはり「短期利害」。それぞれが自分の経営・数値目標にコミットしようとすると、メーカーは配荷を上げること、リテールは差益を生むことばかりを追求しがち。しかし、これらを短期的に追いかけるだけでは、お客さまに価値ある体験を提供することはできません。

短期利害を超えて、お客さまにとっての価値をどうつくっていくか。ここに集まった登壇者の皆さんと、知恵を出し合えればと思います。

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