リテールアジェンダ2019 レポート #04

「リテールはマーケの勉強をせず、メーカーは現場を知らない」 プロフェッショナル4人が語り合う両者の連携

改めて問う「リテールとメーカーの連携」に向けた打開策


植野 リテールとメーカーは、互いへの理解がないまま、互いの身を削りながら不毛なゲームを続けている。この状況を変えていかなければ、人口が減少し続ける日本のマーケットにおいて、両者のビジネスは縮小していくばかりです

これらを踏まえ、リテールとメーカーはお互い何をすれば、この状況を打開できるのでしょうか。あらためて皆さんに伺いたいと思います。

鈴木 
富永さんがおっしゃった「売り場に立てばわかる」というのは真理だと思います。20年前に現場に立っていた本部長が、今の現場を見ることなく、20年前の考え方のまま物事を判断しているケースは、決して少なくありません。セブン&アイでオムニチャネルを推進していた時、当時の役員に「今のお客さまは店頭でスマホを使って検索していますよ」と言ったところ、「そんな客はいない」と返されたのを思い出します(笑)。

こうした状況を変えていくためには、やはり人材交流が重要だと思います。セブン&アイが急成長していた時代は、幹部のほとんどが、メーカーなど別の領域からやってきた中途採用の社員でした。企業がおかしくなる最大の原因は、新陳代謝が起こらなくなってくること。

人がもっと流動的に動くこと――それは転職かもしれないし、企業間・部署間の人事交流かもしれないし、こうしたカンファレンスの場で立場の異なる人同士が本音で話し合うことかもしれない。その先に、お客さまにきちんと価値を届けられるビジネスがあると信じて、人材交流を行っていくことが大事だと思います。

「小売りは勉強しない」と言いましたが、何も小売りに限ったことではなく、メーカーでも同じことが言えると思います。人間って、そういうものなんですよね。会社に入って3年間くらいは、仕事を覚えようと一生懸命に勉強する。でも長いこと同じ場所に居続けると、だんだんと勉強しなくなるものです。だから、とりあえず環境を変えてみることも大事だと思いますね。



植野 惰性を自ら断ち切るということですね。中村さんはリテールとメーカーの連携においてデータを非常に重視されていますが、データは両者の取り組みの何らかの突破口になり得そうでしょうか。

中村 
鈴木さんもおっしゃったとおり、結局、誰の満足が売上につながるかというと、お客さまなんです。お客さま起点で考えることが不可欠で、今、そこでデータを使わない手はありません。お客さまをKPIとして、データを見ながら店頭を、販促を、商品をどうすべきか語り合うことが、今後はますます欠かせなくなると思います。

富永 
データ分析について言うと、スーパー、コンビニ、ドラッグストアのように、ありとあらゆる人がやってくる業態においては、ターゲットを絞ったり、ペルソナをつくったりしても意味がありません。むしろ、取り逃しが出てくるのでやらないほうがいい。

では、何に着目するかと言うと「来店意図」です。設定した来店意図において、どんなものがどんなパターンで買われるのかを分析し、それを踏まえてお店をつくっていく。リテールにおいては、「人より意図」でデータを考えることが重要です。

植野 「一緒にお客さまを見る」と言っても、具体的に何をしていいかわからない方が多いはず。主観で見ることも時には大事ですが、これからの時代は、やはりデータで見るべきでしょう。数値で可視化されたさまざまな消費者動向を共通言語に、突破口を見出していくことが、リテール/メーカーと立場を問わず、これからのマーケターには求められますね。

対立構造・縦割り構造をぶっ壊さないことには、現状は変わりません。今日のこの場をきっかけに、リテール、メーカー、パートナーでブレストして、ヒントを掴んで、明日からのビジネスをともに進めていっていただきたいと思います。


 
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