ダイレクトアジェンダ2020

「頻度より深度」お客さまを置き去りにした、古いマーケティングに固執しないために 【西井敏恭 × 田岡敬】

 

脱 “塵も積もれば山となる”スタイル


田岡 そうした選択肢の中で、お客さまがブランド体験を重ね、お客さまとブランドの関係性が深まっていくということですね。

西井 GROOVE Xの家族型ロボット「LOVOT」も、同じようなことが言えると思います。よく、「LOVOTには何ができるの?」と尋ねられるのですが、正直なところ何の役にも立ちません(笑)。
 
家族型ロボット「LOVOT」

重いものを運べるわけではないし、掃除もしてくれない。ただ、「人の心を癒す」ことに特化していて、全身に20カ所以上のセンサーがついており、機械学習によって100人もの顔を覚え、自分を可愛がってくれる人にどんどんなついていきます。

これまで、LOVOTの機能をいくら説明してもなかなか「欲しい!」とはならなかったのですが、「ロボットと一緒に暮らす」というコミュニケーションに変えたところ、一気に売れるようになりました。

センサーを通じて得られるデータを基に、月1回はソフトウェアのアップデートを行っています。データの蓄積はまだ十分ではありませんし、LOVOTのスペックはまだ全体の1~2割程度しか活用できていません。残り8割を活用できるようになれば、LOVOTは真に愛されるロボットになっていくのではないかと期待しています。

田岡 LOVOTと家族の物語は、一つひとつまったく異なるはず。まさにナラティブですよね。深度のある体験さえ提供できれば、メルマガやLINEなどで高頻度に接触しなくても、また細かいセグメントをしなくても、顧客とブランドとの関係は継続・深化していくものだとあらためて思いました。

これまでのマーケティング業界、特にダイレクトマーケティング業界は、“塵も積もれば山となる”スタイルで、とにかく多種多様な施策を複雑に組み合わせて実施しようとしがちですが、今後は「シンプル」でないと勝てないのではないかと思います。



西井 取捨選択が必要でしょうね。お客さまが受け取る情報が多すぎる状態だと、ナラティブなブランドにはなりにくいと思います。

例えばFABRIC TOKYOは、店舗では会計や商品のお渡しは行わず、採寸とカウンセリングに特化するという取捨選択をしています。多くのブランドが、ビジネス全体をモデルチェンジしていく時期を迎えているのではないでしょうか。

オイシックスについては、「アウトバンド施策をやりすぎ」と田岡さんに怒られたり(笑)、この2日間で反省することが多々ありました。

おそらく、KPIを変える必要があるのではと考えています。ダイレクトマーケティングにおいて、新規獲得数は最もわかりやすく、目に見える数字のひとつ。ですから、その数字を追いかけることを第一義とする組織体制が確立されているんですよね。

それゆえ、ナラティブなアプローチとアウトバンド過多なマーケティング施策が同居していて、なんだかちぐはぐな状態になってしまっているのではないかと……。

しかし、長い目で見ると、アウトバンド施策が顧客体験を毀損することは明らかです。僕自身、周りから「勧誘電話がイヤだ」と言われることが少なくありません。これは偽らざる事実です。

KPIを変えないと、お客さまを置き去りにした、古いマーケティングに固執し続けてしまうと危機感を持っています。

続き 後編「深度のあるブランド体験。そこから、誰しもが逃げてはいけない」 に続く
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深度のあるブランド体験。そこから、誰しもが逃げてはいけない 【西井敏恭 ×田岡敬】
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