マーケティングアジェンダ2020 #01

刀・森岡毅氏が語る、どんな戦略でも使える“武器”とは

 

「なぜ人はアウトドアに行くのか?」の2つの答え


 こんなふうに、私は「人はなぜアウトドアに行くのか?」を考えています。ネスタリゾート神戸もそうですが、沖縄に大自然を活かしたテーマパークをつくるプロジェクトを進めていることもあり、人間を大自然へと連れ出す本能の構造を解き明かすことは、刀としても私自身の研究としても重要です。

 「人はなぜアウトドアに行くのか?」の答え、人間が大自然を求める理由には大きく2つあります。

 ひとつは、「自分が何かをできるようになることを確認する」ため。火を起こしたり、飯盒炊爨(はんごうすいさん)をしたりすることを通じて、「よし、これができるようになった!」と精神的欲求が満たされます。つまり生存確率が高まったことによる自己満足です。「自分の能力が高まった」と脳が喜ぶわけです。

 もうひとつは、「自分が生きている実感を得る」ため。生きている実感というものは、文明の中にいると実感しにくいものです。スイッチひとつで照明が点くし、指先を動かすだけでUBERが食事を配達してくれる。こういう暮らしの中では、自分が世の中に対して影響を与えているという実感、自分が生きているという実感を得にくい。とすると、生きている実感を覚えづらい構造の中にいる現代人にとっては、「火を起こす」ということがアトラクションになり得るのではないかと気づくわけです。

 そういう仮説を積み重ねながら、投資可能資金の中で何をどういう順番で実現すれば、消費者がサイコロを振ったときにネスタの目が出る確率が高まるのかを考え、プランニングを進めました。

 大自然を鳥目線で感じられるアトラクション「スカイ・イーグル」、大自然を転げ回れるアトラクション「キャニオン・ドロップ」。これらは、来場者が「生きている実感を得る」ことを念頭に企画した施策です。どれもこれも、都会でできないことばかり。
 
「大自然の冒険テーマパーク」キャニオン・ドロップCM

 本能を理解するにはいろいろな方法がありますが、少なくとも、涼しい部屋でマジックミラー越しに消費者を観察しているだけでは難しいのではないかと思います。

 消費者が発する言葉の裏にある、言語化できない、本当の欲求、本能がどのように働きかけて消費者にその選択をさせているのか、その構造を理解しなければ、彼らの言葉尻をとらえることしかできません。マーケターには「消費者の言葉を理解するための文脈」を身につけるための努力が必要なのです。

 人間の根源的な本能「WHO」がわかれば、その本能を刺す価値「WHAT」はいかようにでも編み出せます。もちろん、しんどいとは思います。コンセプトの語源は「Conceive」、妊娠する・受胎すると同じ語源です。コンセプトをつくるのは、子どもを産むのと同じ、0から1を生み出すことなのですから、それが簡単なわけがありません。

 生半可なプロセスで、強いコンセプトが生まれるはずがない。「消費者理解」と言って、誰もがやっているような消費者調査を同じようにやって、競合ひしめく環境で周囲を圧倒するコンセプトが出てくるわけがないんです。

 競合よりも良い結果を出したいのであれば、本能を理解する方法を皆さんなりに模索して、構造化し、実戦することが不可欠でしょう。

後編 マーケターが持つべき「狂人性」と「冷静さ」 刀・森岡毅氏に吉野家・伊東正明氏が迫る」はこちら
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