マーケティングアジェンダ2020東京 #前編

マーケターが消費者理解を超えて、「人間理解」するべき理由

 テクノロジーの進化やメディア環境の変化、新型コロナウィルスの感染拡大など、消費者を取り巻く環境は劇的に変化しています。その変化の中で、消費者の心を捉え続けるマーケターは「消費者理解を超えて、人間理解が必要だ」と語ります。なぜマーケティングには、人間理解が求められるのか、それはどうすればできるのか。

 2020年12月に行われた「マーケティングアジェンダ2020東京」において、Preferred Networks 執行役員 最高マーケティング責任者 富永朋信氏、インサイト・ピークス 代表取締役社長 米田恵美子氏、デコム 代表取締役 大松孝弘氏をスピーカーに迎え、クー・マーケティング・カンパニー 代表 音部大輔氏がモデレーターを務めたキーノート「マーケターは、どう人間理解を進めるべきか」をレポートします。
 

人間理解がなければマーケティングは成立しない


音部 マーケティングにおいて、消費者理解が必要だというのはみなさんお分かりだと思いますが、消費者理解を超えて「人間理解」が必要とされるのはなぜでしょうか。
 
クー・マーケティング・カンパニー 代表 音部大輔氏

富永 人間理解は、マーケティングのど真ん中なんじゃないかと思っています。たとえば、私と音部さんの外見を見て「似ている」と思う人はいないかと思いますが、2人ともマーケターだったり、おいしいものが好きだったり、実は似ているところがたくさんあります。

いろいろな人がいると、つい差異に注目しがちですが、実は共通点の方が多いわけです。その共通点の中には、何かを好きになるときのプロセスや、物を買いたいと思うきっかけなどが含まれます。それを解明していくことが、私の思う人間理解であり、それがなければ、そもそもマーケティングは成立しないと考えています。
 
Preferred Networks 執行役員 最高マーケティング責任者 富永朋信氏

米田 私も人間理解はマーケティングにおいて、ものすごく重要なものだと思っています。私がかつて勤めていたP&Gでは、己のアイデアに加えて、いかに自分の経験や知識を増やすことで、アイデアの幅を広げるかが大事だと言われてきました。

たとえばファブリーズは当初、製品として開発したものの、どのように使われるべきかがつくった側にもよく分からなかった時期がありました。ただ、発売してみたら、たくさん使ってくれる方々がいて、その方たちに使い方を直接聞いたことで、臭いを取るだけでなく、夜の間に絨毯やカーテンにかけておくと気持ちのいい朝を迎えられるというアイデアを知ることができたんです。

ヒット商品の裏側には、ユーザーの知見がありました。このように、製品の可能性を広げられるということが、人間理解のすばらしいところだと思います。
 
インサイト・ピークス 代表取締役社長 米田恵美子氏

大松 私は、消費者理解を超えて人間理解をすべき理由は2つあると考えています。

ひとつは、消費者ではなく人間を理解しなければ可能性は広げられないということ。たとえば、「うんこ漢字ドリル」という大ヒット商品は、ターゲットである小学生に向き合って、小学生は「うんこ」や「おっぱい」が好きだという部分に着目したところから生まれたそうです。これは、漢字ドリルのユーザーという範囲を超えて人間を見なければ、生まれなかったものだと思います。

もうひとつは、精度が上がらないということ。僕らは、自分たちも人間であるために、人間を分かった気になっています。でも、本当に人間を理解するのであれば、行動経済学における人間の非合理性や脳科学、心理学における投影法の考え方などをきちんと理解する必要がある。そうでなければ、マーケティングの解釈や判断を間違えてしまうことがあると考えています。
 
デコム 代表取締役 大松孝弘氏

米田さんは文化人類学などで使われるエスノグラフィーという手法が得意だとお聞きしましたが、エスノグラフィーでは基本的に人に尋ねることはせず、客観的な事実だけを見て、その人の行動の裏にある思考を読み解いていきます。また、心理学の投影法という手法は心療内科などの医療現場で発達してきたのですが、人の本心は直接尋ねても分からず、曖昧なものを通じて初めて理解できるという考え方なんです。だから、お客さんの意見を聞いてそれに応えるというだけでは、間違えてしまうことがあるんですよね。
 
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