マーケティングアジェンダ2022 レポート #04

カインズがIT小売企業へ変貌できた「アメとムチ理論」【マーケティングアジェンダ2022レポート第2回】

前回の記事:
カインズ 最高イノベーション責任者が語る「ホームセンターのDX化」が成功した戦略【マーケティングアジェンダ2022レポート第2回】
  ホームセンター業界でDXを推進し、リテール業界全体から注目を浴びるカインズ。DXを成功に導いているカインズ 執行役員CDO兼CMO兼 デジタル戦略本部長の池照直樹氏をスピーカーに迎え、日本アイ・ビー・エム チーフ・マーケティング・オフィサー 執行役員の風口悦子氏がモデレーターを務めた「マーケティングアジェンダ2022」のキーノート「カインズ流の顧客DXとは」のレポートの後半になります。デジタルツールを用いて買い物体験の中の煩わしさを解消する「ストレスフリー」や、消費者一人ひとりに合わせた提案を行う「パーソナライズ」などを実現し、売上と顧客体験を向上させたデジタル改革の裏側に迫ります。
 

組織変革を支える「アメとムチ理論」


 カインズの池照氏は組織の中で、DX推進を実現する組織において、新しいことに取り組んでいくときに重要なポイントと従業員の士気が高まってきたエピソードについて語ります。

「糸は、パンパンに張った状態だと簡単に切れてしまいますが、組織も同じでパンパンに張り詰めた状態ではなく、ある程度、余力のある状態で組織変革していく必要があります。現場の様子をしっかりと見て、何で忙しいのか?を考えたり、この仕事を減らすからこっちの仕事をやってくれという頼み方をしたりする」と池照氏は話ました。

 さらに続けて、池照氏は「これは土台づくりにある『メンバーへのKindness~誇りに思える働きたい会社へ』という部分にも繋がります。そのため、アプリ会員獲得に向けたキャンペーンのときも、先にメンバーにアプリを投入し、アプリで商品がどこにあるかすぐに探せ、それで売り上げが増えると実感が湧いてき、メンバーもアプリ会員獲得に向けて士気が高まってきました。この作戦は『アメとムチ理論』と呼んでいるんですよ」と語りました。
    
カインズ 執行役員CDO兼CMO兼デジタル戦略本部長
池照 直樹氏

 また続けて「三方よしを考えることも大事です。部門をまたいだプロジェクトにおいて、ある部門に2つは得になるから1つは泣いてくれと伝えてもうまくいきません。ここでもアメが必要で、成長に対する参加感を演出してあげることが大事です。褒賞なども含めて、一緒にプロジェクトをして良かったと思わせることです」と池照氏は言います。

 風口氏は「組織の中では、人の成功が少し妬ましく感じることもあると思います。しかし、一緒にプロジェクトに参加して成功に導いたメンバーのひとりという意識を植え付けさせると、それは今後の大きな力になりますよね」と納得します。

 ここで、風口氏から「では、池照さんにとって今回のマーケティングアジェンダ2022のテーマである、『So What?』とは何ですか?」というメインテーマについての質問が飛びました。

「やはり会社の儲けを考えることです。こんなことをやると素敵、こんなことをやるともっと良くなる気がするとか、メンバーから素晴らしい意見はたくさん出てきます。その意見に対して私が必ず聞いているのは、いくら投資していくらリターンがあるのか?ということです」と、池照氏は言います。

 風口氏から「お客さまのことを考える顧客主義と、儲けを考えることは、相対するような気もしますが、儲かるという基盤がないとお客さまに対しての価値を提供し続けられないということですか?」と問いかけられると、池照氏は大きく頷きながら、「その通りで継続性が大事だと思います。カインズというブランドを演出するためにサービスを提供し続けなければなりません。そのためには、継続的にお金を稼いでいる状態が不可欠になります。儲かる、儲からないという指標をメンバーに意識づけするためには、次のような顧客戦略のチャートを社員全員で共有することがポイントです。難しい言葉でいろいろと書いてあっても頭に入ってこないため、チャートの左側のカード会員がチャートの右側のデジタル会員に移動すると1~2万円の売上が増えるというシンプルな構造を理解させることが大事です」と答えました。

 メンバーの一人ひとりが、儲けのメカニズムを理解し、この戦略がどこに効くのか?何のためにこの施策をやるのか?を分かっている状態が大切になります。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録