ダイレクトアジェンダ2023座談会 #02

「ナラティブ」は、企業活動に欠かせないエッセンなのか?【ダイレクトアジェンダ2023座談会】

前回の記事:
2023年 ダイレクトマーケティングの最新潮流、ユナイテッドアローズ、ヤフー、mederiのキーパーソンが議論【ダイレクトアジェンダ2023座談会】
  2023年3月23日から25日にかけて、直販・通販事業に携わるトップマーケッターが集結する合宿型カンファレンス「ダイレクトアジェンダ2023」が、鹿児島で行われる。開催にあたり、カウンシルメンバーであるユナイテッドアローズ チーフデジタルオフィサーの藤原義昭氏、ヤフー リテールEC事業本部長の輿水宏哲氏、mederi 代表取締役の坂梨亜里咲氏の3人で座談会を実施。2022年のダイレクトマーケティングの振り返りと2023年のポイント、お客さまと継続的な関係を築くための方法について話をした前編に続き、後編では、ナラティブの重要性とダイレクトマーケティングに関わるマーケターへのアドバイスを聞いた。
 

企業活動において考えなければいけないことのひとつ


――2023年のダイレクトアジェンダのテーマは、「Deep Dive into Narrative」です。ナラティブとは、物語や語りという意味になります。3年前の2020年も「Narrative」をテーマに開催し、藤原さんと輿水さんには当時も参加いただきました。これまでのダイレクトアジェンダでは何が学びになり、次の開催では何を議論していきたいと思っていますか。
  
ヤフー リテールEC事業本部長
輿水 宏哲 氏

輿水 実は恥ずかしながら、「Narrative」がテーマであった2020年のダイレクトアジェンダに参加するまで、「ナラティブって何?」という状態でした。ナラティブという言葉には、物語や共創構造などのさまざまな定義があると思いますが、カンファレンスを通してナラティブについて学んだことにより、これまで行なっていた施策がなぜよかったのか、逆になぜよくなかったのかということが見えるようになりました。

また、会社に戻って改めて思ったことは、ナラティブはありとあらゆる企業活動に適用できるということです。そう考えると、まだできていないことが山ほどあるなと思いました。そのためダイレクトアジェンダで、ナラティブという新しい知識や学びを得て、社内で議論するきっかけとなり、立案する施策の幅が広がることにも繋がったなと思います。

藤原 そうですね。マーケターもこの3年間でナラティブに対する知見が溜まったと思うので、2023年はマーケティングの手法論や事業としての部分にまで踏み込んでいきたいと思います。ナラティブという文脈をお客さまとの関係性の強化にどう使うのか。「Why(なぜ)」と「What(何を)」はおそらくすでに設定されていると思うので、「How(どうやって)」を共有しながら、自分のビジネスに置き換えると何ができるかまで考えていきたいですね。

輿水 ナラティブに関する知見や事例は、前回よりも貯まったと思います。ちなみに、「ナラティブ」という考え方について、会社全体の中で理解されている印象はありますか。

藤原 私もしっかりと理解できていないと思います(笑)。我々の従業員のナラティブのような話は社内でたまに出ることはありますね。ただ、本当にみんなが正しく理解しているかと問うと、理解していない気がします。また、ナラティブってあるタイミングで注目されて終わりというものではないと思うんです。

輿水 そうなんですよ、ナラティブは終わりがないと思います。
    
mederi 代表取締役
坂梨 亜里咲 氏

坂梨 終わりがないからこそ、大事なポイントですよね。私たちの事業は不妊治療の原体験から生まれたので、さまざまな人から「事業自体がナラティブだね」と多くの人から言われ、講演や登壇する機会も増えました。しかし、想いばかりが先行してしまい、マーケティングがうまく機能していなかったため、商品は全然売れませんでしたね。

先ほど、藤原さんからSDGsやサステナブルという理由だけで、人はそこまで動かないという話がありましたが、「ナラティブ」だけでも人はそこまで動かないことを実感しました。プロダクト開発も含めて、どのようにマーケティングに落とし込むかが非常に大事になると思うので、「ナラティブ」と「マーケティング」のバランスといったことを3月のダイレクトアジェンダでは議論していきたいですね。

藤原 そうですね。商品が売れる仕組みは、「ナラティブ」だけではないですね。もしかしたら、お客さまは機能だけを優先しているかもしれないし、本当は欲しいけれど、この価格では無理だからやめようというように、価格を優先しているかもしれない。そこの判断は、ゼロイチではないのだと思います。

ただ、「ナラティブ」ということも考えなければ、企業の存在感がなくなってしまう可能性もあるので、それをきちんと理解して取り込んでいくことが必要だと思います。

坂梨 各セクションにおいて、大切なエッセンスのひとつではありますよね。

輿水 我々の場合は、大手のメーカーさんとのお取引が多いのですが、お客さまの嗜好が本当に多様化しています。そのため、これまでのようにブランドとしてひとつで括って単一のメッセージで発信することは通用しなくなっていて、ナラティブのような考え方を取り入れていかなければ、今の時代に対応できないと思います。

藤原 そう思います。その例で言うと、最近、アパレルではポケットについての議論が起こりました。Twitter上で「男性にはジャケットの内ポケットがあるのに、女性には無くて同じ値段だよね」というツイートがあったんです。

坂梨 フェイクの内ポケットのことですよね。全然、入らないみたいな(笑)。

藤原 そうそう、そのツイートを我々のソーシャルチームが見つけて、お客さんと会話を始めたんです。それをきっかけにお客さまの意見を取り入れて、商品部が内ポケットを付けることを実際に行い、商品として発売したんです。結果、内ポケットを求めていたお客さまがやはりいたので、その商品は売れました。

輿水 それは、まさにナラティブの例ですね。
  
ユナイテッドアローズ チーフデジタルオフィサー
藤原 義昭 氏

藤原 そうなんです。今回のケースは、何が分岐点だったか考えると、お客さまの意見を常に見て、それをしっかりとキャッチできたことだったと思います。そのためには、プロダクトアウト的に「お客さまはこう思っているはずだ」と決めつけるのではなく、常にお客さまを見なければならないと思います。ナラティブは企業だけでつくるものではありません。お客さまの態度変容や行動の変化、SNSでの発言などから、お客さまの意見や考え方をキャッチしていくことがとても大切ですね。

加えて、それをキャッチする頻度や、それに対する施策を講じるまでの時間をできるだけ短くすることも重要です。3年待ってなんて言っていると、他社が実行してしまいますからね。また、社内としてソーシャルのチームが動いて、商品部も動いて、広報も動くことになるので、ナラティブはひとつの部署だけではなく、すべての部署で横断しなければいけないと思います。

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