マーケティングアジェンダ東京2022外伝 #02
『宇宙兄弟』のヒットは必然か、マーケティングを機能させるヒントとは【マーケティングアジェンダ東京2022レポート外伝 第1回】
2023/03/13
オンラインプログラミングスクール「テックアカデミー」を運営するキラメックスでマーケティングを担当している福田保範です。2022年12月8日、9日に行われた、「マーケティングアジェンダ東京2022」のレポートの第1弾の後編になります。
今回は、「What’s “so what?”?」というテーマで、スピーカーとしてコルク佐渡島庸平氏、モデレーターとしてPreferred Networks / SVP 最高マーケティング責任者の富永朋信氏が登壇しました。前編では、編集者である佐渡島氏とマーケターである富永氏が「編集者とマーケターの共通項」を探りました。後編では、ヒットする漫画と成長産業の相関や2022年のマーケティングアジェンダのテーマであった「So what ?」とは何かについて迫りました。
今回は、「What’s “so what?”?」というテーマで、スピーカーとしてコルク佐渡島庸平氏、モデレーターとしてPreferred Networks / SVP 最高マーケティング責任者の富永朋信氏が登壇しました。前編では、編集者である佐渡島氏とマーケターである富永氏が「編集者とマーケターの共通項」を探りました。後編では、ヒットする漫画と成長産業の相関や2022年のマーケティングアジェンダのテーマであった「So what ?」とは何かについて迫りました。
売れる漫画の探し方と、マーケティングリサーチの類似性
前編の話を踏まえて、富永氏から「ここまでの話よりマーケターと編集の共通点は、商品開発者と顧客との関係性を構築していくことだとわかりました。ただ、物語を作るだけでは、その役割は果たせないのではないかと思います。いかがでしょうか」と問題提起がありました。
富永 朋信 氏
それについて佐渡島氏から「おっしゃる通りで、物語をつくるだけではいけません。物語がどうやったら長期間、人を引き付けるのかを考える必要があります。17年前に『宇宙兄弟』の企画を開始したときのエピソードがまさにそれにあたります。今や宇宙産業にはベンチャーキャピタルも投資しているくらい注目されていますが、当時はJAXAの予算も絞られ、無人探査機で調査するくらいしかできていませんでした。そのため、宇宙産業をテーマにした漫画を制作するには高いハードルがありました。そのとき偶然、堀江貴文氏と知り合って話したことが印象的でした。堀江氏は『livedoorはインターネットのインフラを整える目的で経営していた。それによってSNSが生まれたり、予想を超えたことが起きたりする。同じように宇宙のインフラをつくったら、想像しないことが起こる。そのため、宇宙の基本的なインフラとしてロケットを安価に打ち上げられるようにすることが大事だ』と語っていたんです。私は、堀江氏の発想から宇宙産業が伸びることを確信しました。産業の拡大に影響するためには、ファンタジーやリアリティからかけ離れてはだめで、ちょうどいい等身大の作品を当時もっとも勢いのある作家とつくると市場に受け入れられると考えました。『宇宙兄弟』の作家である小山宙哉氏は親子の物語が得意だったので、次は兄弟をテーマにしてもらい『宇宙兄弟』が産まれました。このように、どんな漫画をつくろうかなと考えるときは、どの産業が伸びるかを考えます」と、漫画だけに留まらずドラマや映画など、さまざまなコンテンツに派生した『宇宙兄弟』の誕生秘話を語ります。
佐渡島 庸平 氏
さらに、佐渡島氏は漫画のテーマ設定に関して、「例えば、コーヒー、チョコレート、メンタルヘルス、日本酒など、読者が面白いと感じるテーマを掛け合わせるようにしています。最近では、ファミマの『本当においしいブラックコーヒーは、甘い。』というコーヒーのコピーが目にとまりました。コーヒー豆の糖度は、本来はぶどうと同じくらいで、コーヒーになるまでの過程でどんどん雑味が増えていくことで甘くなくなります。コンビニでも雑味が少ない味に挑戦している。超一流の技は世界の見え方さえも変えてしまいます。ほかにも『美味しんぼ』という漫画は日本の食文化を変えました。例えば、『パスタをアルデンテで出すイタリアンが美味しい」と言い始め、今ではそれが当たり前の世界になりました。コーヒー豆は、産地、焙煎、炒り方、淹れ方など、すべてで値段を上げるポイントがあり、ドラマがあり、物語がつくれます。そのため、今後1杯5000円のコーヒーが売れるようになる可能性を秘めているんです。ただ、それをそのまま伝えても面白くないので、そこは作家との掛け合わせも必要になります」と商品価値の向上のポイントを話します。
それに対して、富永氏は「最近、注目しているメンタルヘルスはどこから着想しましたか」と質問をしました。
佐渡島氏は「『ドライ・マイ・カー』、『すずめの戸締まり』、『ある男』、『THE FIRST SLAM DUNK』が2022年に注目した4本の映画です。この4つの作品には、共通点があります。それは、すべての物語で大切な人を失ってしまい、喪に服している主人公が、何らかの復活を遂げている話であるという点です。喪失と復活の物語。2022年、日本が本当に震災の傷から復活しようとしていました。実際、リサーチしてみると震災の慰霊祭をやめた自治体が多くあることがわかりました。
そんな風に、作品は社会の空気を掴み取ったものになります。今の社会の空気を観察していると、メンタルに関する話題が多い。メンタルヘルスを題材にしつつ、さらに興味がもたれそうなテーマを掛け合わせて作品は、長期的に読まれるかなと考えています」とメンタルヘルス領域に注目している背景を明かしました。
実際に、佐渡島氏が行っていることはマーケティングリサーチそのものであり、どの市場に可能性があるのかを見つける行為です。消費者がいまどんなところに興味を持っているのかという視点から、「このプロダクトに興味を持たれるか」という企業視点とはまったく逆であるとも言えます。