マーケティングアジェンダ東京2022外伝 #01

コルク佐渡島氏が語る、マーケターに求められる「編集的視点」【マーケティングアジェンダ東京2022レポート外伝 第1回】

 

マーケターは、プロダクトと消費者の間に立ち共通項を探すことが仕事


 さらに続けて、この価値の発掘と活用方法について深掘りされていきました。富永氏は 「企業は漫画を通して、自分たちの伝えたいことを消費者に向けて伝えることも有効ですが、社内向けもよいと思います。ミッション・ビジョン・バリューやパーパスをつくっても、お題目止まりになってしまい、社員の行動は変わらないことが多い中、漫画を介することにより、社内伝達がスムーズになり、また共感を得るためのよい手段になるからです」と語ります。

 佐渡島氏は「富永さんの仰る通りです。過去に、あるお菓子メーカーさんから『ガムが売れなくなっている』と相談を受けました。そこで私は、ガムがつくられた原点に帰ることを提案しました。実際に、歯にいいガムを初めてつくった技術者の人に話を聞きに行ったところ、技術者は『ガムをマーケティング的な視点でつくったのではなく、人々の健康のためにつくった』と言いました。その技術者の話を社内に広めたところ、プロダクトへの愛着が高まったという後日談があります。このエピソードからも分かるように、社外の人に話を聞くのではなく、商品開発者の話を聞くことは重要です」と話します。
  
『ドラゴン桜』のエピソードを語る佐渡島氏

 続けて、佐渡島氏は企業やプロダクト・サービスに眠っている物語を引き出す方法について語ります。「その物語の引き出し方について学んだのは、『ドラゴン桜』の勉強法をまとめた新書がベストセラーになったときです。そのとき、自分の塾の勉強法も取り上げて欲しいという依頼が山のようにきましたが、取り上げたくなるものはあまりありませんでした。なぜなら、もともと塾が大事にしていた勉強法ではなく、新しい勉強法を紹介したがったからです。しかし、ある進学校に取材したとき、インタビューの最後の数分で 『当たり前すぎて言わなかったエピソードを教えてください』と聞いてみたところ、『遅刻が多いクラスは東大に必ず受からない』という話が聞けました。そこで私は生活習慣と進学率には、相関があるということは1話分のネタになると思いました。このように、自分たちが飽き飽きしているような、当たり前だと思い込んでいる情報が、世の中では喜ばれる情報であることが多いです」と企業やプロダクトに眠っている物語を引き出すことの重要性を話します。

 さらに、佐渡島氏は「マーケットインを否定しているわけでも、プロダクトアウトを推奨しているわけでもありませんが、プロダクトへの思いを再編集することは、マーケットにも響きます。編集者は、作家と読者の間に立つ仕事です。作家の思いと読者のほしい情報のちょうどいいバランスを探ることが重要です。マーケターもプロダクトと消費者の間に立ち、それぞれの言葉を翻訳し、共通している部分を探す仕事で、限りなく編集者と似ています。多くの企業で会話をするときに、感情ベースで会話をするとファクトベースで会話してほしいと言われてしまいます。ただ、数字の話は読者や消費者の心に届きにくいです。そのため、企業漫画を制作するときには、会社の中に渦巻いている感情をどのように表現すると世間が共感しやすくなるかを、もっと考える必要があります」と企業の物語を社会に広げていくポイントを語りました。
  
マーケターと編集者の共通項について語る富永氏(左)と佐渡島氏(右)

 私自身もテックアカデミーで社員インタビューを通じて、プロダクトの魅力を改めて整理し、社内に伝える施策をここ半年くらい取り組んでいました。そのインタビューから新たに見えてくる視点が多くあり、それを消費者に伝わるように物語をつくることで有効なマーケティング施策に昇華できるのかもしれないと、この話からヒントを得ました。

 みなさんの会社でも、社員インタビューをされていることが多いと思いますが、ただの採用コンテンツ、社内報に留まってしまっているのではないでしょうか。

※後編「『宇宙兄弟』のヒットは必然か、マーケティングを機能させるヒントとは【マーケティングアジェンダ東京2022レポート外伝 第1回】」に続く
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