マーケティングアジェンダ東京2022外伝 #04

今後のマーケティングは、失敗事例を参考にするべき?業界人間ベム横山氏が語る【マーケティングアジェンダ東京2022レポート外伝 第2回】

前回の記事:
2030年までに起きるマーケティングトレンドの変化に、マーケターはどう向き合うべきか【マーケティングアジェンダ東京2022レポート外伝 第2回】
 オンラインプログラミングスクール「テックアカデミー」を運営するキラメックスでマーケティングを担当している福田保範です。2022年12月8日、9日に行われた、「マーケティングアジェンダ東京2022」のレポート第2弾の後編になります。

 今回は、「マーケティング・広告業界予想 2012年 ⇒ 2023年 ⇒ 2030年」というテーマで、スピーカーとして横山隆治事務所 代表取締役の横山隆治氏、モデレーターとして資生堂インタラクティブビューティー DX本部/デジタル戦略部の大槻開氏が登壇しました。前編では、過去10年間のマーケティング・広告業界の横山氏の予測を踏まえ、2023年と2030年までのトレンド、マーケティングファネルが破綻していることなどについて紹介しました。後編では、マーケティング全体が変化している中で、新たなクリエイティブブリーフの必要性とマーケターが常に意識しなければならないことについて迫りました。
 

『十人十色』ではない、『一人十色』のクリエイティブブリーフ


 前編では、従来型のマーケティングファネルが限界を迎え、企業は複数のパーセプションフローを並行して考える必要性について紹介しました。さらに横山氏と大槻氏は、クリエイティブブリーフも、現在の消費者に合わせた形でつくらないといけないと語ります。



 まず、横山氏は「『広告はラブレター』というような、一方方向の考え方はもう古いです。刺さるメッセージをつくるためには、スペックをユーザーのベネフィットに変換し、最後にエッセンスを伝えるという『プロダクトコーン』をベースに今までは考えていました。ただ今は、ターゲットにプロポジションやUSP(Unique Selling Proposition)を伝えるだけのコミュニケーションでは売れません。必要なのは、ブランドのファンの『つぶやき』などが企業のコピーになってしまう時代なので、どのように共感型のコミュニケーションにシフトすることができるかが重要です。送り手から受け手に主導権が移っている状況で、送り手はどうすべきなのか」と話します。

 大槻氏は「たとえば、化粧品でいうとSNSを通じて情報収集をして購入した人が8割程度で、この共感型のコミュニケーションから売上がつくられています。GoogleがWebマーケティング理論として提唱するZMOT(Zero Moment of Truth)を引用する場合にファネルの中で口コミが重要だという向きの話を基にプランニングがされるケースが見受けられます。すでに購入した人の口コミが最も大事だという考えを基にされています。しかし、それは『Zero Moment』ではありません。様々な情報にお客さまは触れ、必ずしも合理的でないお客さまの潜在ニーズや声を捉える必要があります」と語ります。
  
資生堂インタラクティブビューティー DX本部/デジタル戦略部
大槻 開 氏

「Zero Moment」を捉える。つまり、受け手がはじめの段階でどんなことが響くのかを整理する上で、最近、横山氏が活用しているフレーム「インフルエンスファクター」が紹介されました。

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「縦軸にヒト型(情報源を重視)・モノ型(モノの特性を重視)、横軸にパーソナリティ型(自分の価値観を重視)・ソサエティ型(世の中の評価を重視)で整理しています。たとえば、右上の『Trust』は、特定の好きな人が良いと言っているモノを信じる人です。一方で、左上の『Audience』は、いろいろな人が良いと言っているモノを信じる人です」と横山氏は話します。

 さらに、大槻氏は「右下の『Discovery』のような、誰も知らない良いモノを発見することに喜びを感じる特殊な人がいることにも注目すべきです。その側面で、TikTokは偶発的な出会いというニーズを満たしていると言えます」と付け加えます。

 これに対して、横山氏は「『インフルエンスファクターは、いち個人でもカテゴリーや価格によって、同じ人間でもまったく変わる」と言います。「『十人十色』ではなく、もはや『一人十色』と言えるでしょう。その場合、自社のブランドにとって『Audience・Trust・Knowledge・Discovery』の比率を考え、見極める必要があります。私は、Audience系のビンゴカードをつくり、Trust系のビンゴカードをつくり、それぞれに当てはまるパーセプションをつくります。これは受け手の発信力が強くなりすぎてしまったので、頭の切り替えが必要ということです」と現代の変化によって、変わらなければいけないと語ります。
  
横山隆治事務所 代表取締役
横山 隆治 氏

 今までの議論をベースにクリエイティブブリーフを考えてみます。クリエイティブブリーフとは、広告やキャンペーンの戦略をまとめたものです。従来は、ターゲットやリサーチで導き出した仮説やインサイト、商品・サービスの価値を記載します。もちろんアート&サイエンスに対する再現性の追求は必要ですが、それだけでは十分でなくなってきていると言います。

 SNS時代に必要なクリエイティブブリーフが公開されました。
  
従来のクリエイティブブリーフ

SNS時代に必要な新たなクリエイティブブリーフ

 大槻氏は「従来のクリエイティブブリーフから大きく変わりました。送り手視点で、ペルソナやターゲットをつくることはしてはいけません。それは、企業視点でのコミュニケーション設計ではいけないということを意味します。反応した人をターゲットとし、その人が共感する、もしくは購入する理由付けができるという完全に受け手主体のクリエイティブブリーフにしなければなりません」と新たなクリエイティブブリーフを語ります。

 この新しいクリエイティブブリーフは、「作り手が自分たちのメッセージをいかに伝えるか」という今までの視点と180°異なり、「受け手にどう感じてもらうか」が主語になっています。今、取り組んでいる施策に対して、この新しいブリーフでクリエイティブやコミュニケーションプランを練ってみたら、違った結果がでるかもしれません。

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