ネプラス・ユー大阪2023レポート #02

マーケターにとって、本当の「現場」はどこ?『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』など手がけるコルク佐渡島庸平氏が語る【ネプラス・ユー大阪2023レポート第2回】

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 今年のネプラス・ユー大阪2023のテーマは「現場力」であった。マーケターやビジネスパーソンにとっての「現場」とは、店舗なのか、商品なのか、顧客なのか。「現場」とひと言にいっても会社や組織の中でも、解釈が異なるのではないだろうか。マーケティング施策を実行する上で、一人ひとりの「現場」の認識が異なればビジネス全体の成長は見込めない。

 そこで今回は、『宇宙兄弟』や『ドラゴン桜』などの人気マンガを数多く手がけ、現在は編集や新人マンガ家の発掘・育成、ファンコミュニティの形成・運営などをおこなう、コルク 代表取締役社長の佐渡島庸平氏と、美容メディア「DINETTE」とコスメブランド「PHOEBE BEAUTY UP(フィービービューティーアップ)」など複数ブランドを運営し、急成長を遂げているDINETTE 代表取締役の尾﨑美紀氏が登壇したセッション「本当の『現場』はどこにあるのか?」をレポートする。
 

会社や商品の成り立ちによって、「現場」は異なる


尾﨑 今回は、佐渡島さんとネプラス・ユー大阪のテーマである「現場力」について、いろいろ話していきます。早速ですが、佐渡島さんは、「現場」といえば、どこをイメージしますか。

佐渡島 そうですね。その質問にお答えする前に質問で返してしまいますが、逆に尾﨑さんはどう思っていますか。

尾﨑 私は、最初に美容メディアを立ち上げて、そこでいただくお客さまの声をもとに商品をつくるようになって今に至るという経緯があるので、「現場」と言われて一番はじめに思い浮かぶのは「お客さま」ですね。

佐渡島 なるほど。このセッションの事前打ち合わせでも、尾崎さんが「現場とはお客さまがいるところだ」と言った瞬間に、私もそうだとお答えして話が進んでいましたよね。でも、私はその会社がどのように誕生したのかによって、「現場」は異なると考えているんです。
 
コルク 代表取締役社長
佐渡島 庸平 氏

1979年生まれ。東京大学卒業後、講談社を経て、2012年株式会社コルクを創業。「物語の力で、一人一人の世界を変える」をミッションとするクリエイター・エージェンシーとして、作品編集や制作進行管理、新人マンガ家の発掘・育成、ファンコミュニティの形成・運営などをおこなう。講談社時代に『ドラゴン桜』(三田紀房)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの連載を立ち上げ、現在もエージェント契約を結ぶ。 佐渡島庸平公式サイト

私が立ち上げたコルクは、マンガ家や小説家のエージェント会社です。エージェントは、作家が作品を描きたいと思って、その作品をどう売ればいいのだろうと困っているから必要とされる存在です。つまり当社の始まりは、作家の「熱」であるわけです。だから私は、作家の「熱」が生まれるところが、一番の現場だなと思っています。

最終的には作品をお客さまに届けるのですが、我々にとっては、作家の創作意欲やモチベーションをどのように高められるのかが「現場力」だと思っています。現場は必ずしもお客さまだけではないのかなと思います。

尾﨑 当社も、お客さまの声をもとに社内のメンバーが「これなら最高だね、世の中に出せるね」と思える商品をつくっているので、その視点でいえば、「会社の中」も現場だと言えると思います。

佐渡島 そうなると、現場の優先順位を決めなければならないですよね。「お客さま」と「会社の中」のどちらがより重要な現場だと考えるのかによって、リソースの掛け方が変わるのではないかと思うんです。

尾﨑 そういう意味では、「お客さま」が一番の現場だと思います。社内の議論でも販売数が見込めるから、こういう商品をつくろうとなる前に、やはりお客さまの声があります。佐渡島さんにとっては、やはり作家の「熱」が現場なのですね。
 
DINETTE 代表取締役
尾﨑 美紀 氏

名古屋出身。大学在学時に芸能活動を行い、美容に触れる機会が増え自身も興味を持ち始める。就職活動で大手企業から内定を貰うが、自分のやりたいことのために起業を選択し2017年 3月に大学卒業と共にDINETTE株式会社を設立。 美容メディア「DINETTE」と コスメブランド「PHOEBE BEAUTY UP(フィービービューティーアップ)」など複数ブランドを運営。2020年4月には「Forbes 30 under 30 Asia(Retail&Ecommerce部門)」に選出。

佐渡島 そうですね。でも、それは会社や商品・サービスによって異なると思っています。以前、製菓会社のマーケティング担当者から、マンガをどのようにヒットさせるのか、その考え方を教えてほしいと言われたことがありました。

その会社は、歯に良いガムを発売していたので、「このガムはどのように生まれたのですか?」と聞いたら、工場の人が「こういうガムがつくりたい」と言ったところから開発が始まったと言っていました。そこで私は、「では、そのガムを着想した人にヒヤリングをしましたか?」と聞くと、「研究者は話をするのに慣れていないので、宣伝の役には立たないんですよ」と言っていたんです。

なので、私は「研究者の思いから、その歯に良いガムが生まれたのであれば、宣伝の基本方針となる要素が得られるかもしれないから、一度しっかりと話を聞いてみたほうがいい」とアドバイスしました。

そうしたら後日、「工場に行って話を聞いてみたら役立つ話ばかりで、今まで何で聞こうと思わなかったのかと反省しました」というメールが届いたんです。それで、やっぱり現場の力はすごいなと思いました。

尾﨑 素晴らしいエピソードですね。まさに作家と同じで、研究者の想いが現場ですね。

佐渡島 そうなんです。必ずしもお客さまの声を聞く、売り場を見るだけが現場ではないと思います。自社の商品やサービスの現場とは何かをしっかり見定め、優先順位を決めて考えていくことが重要だと考えます。

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