リテールアジェンダ2023レポート #02

リテールメディアに見出す、日本の小売業の可能性【セブン&アイ-Google対談】

前回の記事:
リテールにおける新たな価値の見つけ方、スターバックスCRMO森井久恵氏が語るピープル・マーケティングの重要性【リテールアジェンダ】
 リテール領域のマーケティングをテーマにしたカンファレンス「リテールアジェンダ2023」が2023年11月14日から15日にかけて、都内(東京ポートシティ竹芝)で開催された。初日のスペシャルセッションでは、セブン&アイ・ホールディングス グループ商品戦略本部 ネットサービス開発 シニアオフィサー兼イトーヨーカドーネットスーパー オペレーション本部 副本部長の望月洋志氏が登壇。グーグル合同会社 リテール業界 インダストリーヘッドの木村直樹氏をモデレーターに、小売企業がリテールメディアを展開する背景と、日本の小売業界にどのようなインパクトを与えるのかに迫った。
 

リテールメディア収益化に必要な視点


木村 私はGoogle合同会社で流通小売事業の責任者をしており、リテールメディアの取り組みを5年ほど前から推進してきた中で望月さんとも知り合いました。あらためて望月さんの自己紹介をお願いできますでしょうか?

望月 現在、セブン&アイ・ホールディングスのグループ商品戦略本部で、ネットサービス開発のシニアオフィサーをやっています。また、イトーヨーカドーネットスーパーのオペレーション本部にも在籍し、ネットスーパーのシステムやマーケティング全般も兼務しています。みなさまご存知の通り、ネットスーパーは大変な領域であるので、毎日わちゃわちゃしている感じですね。

キャリアとしては、検索広告から始まり、実は一度セブン&アイグループでネット通販に携わったあと、博報堂プロダクツでスーパーマーケット向けのアプリなどをつくってマーケティングにも関わっていました。その後、日本アクセスという食品卸会社の子会社D&Sソリューションズでリテールメディアのプラットフォームを作ったのが、リテールメディアに関わるようになった最初です。先月の2023年10月に現職に移ってきたという流れです。
 
セブン&アイ・ホールディングス グループ商品戦略本部
ネットサービス開発 シニアオフィサー兼イトーヨーカドーネットスーパー
オペレーション本部 副本部長
望月 洋志 氏

 電通グループのSEM専業である24-7Search(現在の電通ダイレクトに吸収合併)の創設期に入社し検索広告に従事。その後、セブンネットショッピングにてイトーヨーカドーのネットスーパーとネット通販の立ち上げ支援をし、博報堂プロダクツに入社。大手流通グループのデジタルマーケティング支援や博報堂プロダクツのデータ分析組織の立ち上げなどを手がけ、スーパーマーケット向けのアプリ開発の社内ベンチャーを立ち上げた。その後、食品卸の日本アクセスに入社しリテールDXの新規事業を担当。IT子会社D&Sソリューションズの取締役共同CEOとしてリテールメディアのプラットフォーム事業を立ち上げた。現在は再びセブン&アイグループに戻り、10月より現職。イトーヨーカドーのネットスーパーを中心にシステム開発とマーケティングを担当。よりよいサービスの開発とリテールメディアの構築を見据えて事業を推進中。

木村 望月さんとはD&Sソリューションズさんの時代にお話しすることが多かったのですが、リテールメディアをやるために必要な複眼的な視点を、最初からよくご存じだったのが印象的です。マーケターやアプリの制作側、メーカーや流通など、あらゆる領域を深く理解していらっしゃった。

望月 前職では特に小売り向けのリテールメディアのプラットフォームを作っていました。裏側は同一のシステムですが可変範囲があるため、小売企業ごとにカスタマイズができます。

また、小売企業がコンテンツを自ら制作するのは大変ということで、我々が編集部を持ってコンテンツの制作を行いました。たとえば、冬に鍋のスープや具材がよく売れるので、美味しい鍋の作り方の情報を提供したり、レシピサイトと連携してレシピ動画にリンクする仕組みにしたりしました。そこに、メーカーの商品の情報を載せて横断的に配信していました。

商品の良さを伝えたいとなると当然、情報量も増えてくる中で、どうしたらお客さまに読んでもらえるかを考えました。たとえば女性誌を読むと、コミックエッセイが非常に増えている。ではメーカーの商品の良さをもっと伝えるためにコミックエッセイを載せるなど、クリエイティブにきちんとこだわったプラットフォームにしていました。

木村 このお話をお伺いしたときに2つ素晴らしい点があると思っています。まず、日本で小売1社だけでリテールメディアをやろうとすると、広告在庫やインプレッションが足りず、収益化が難しいという問題がありますが、それをネットワーク化することで乗り越えています。また、各社の強みごとにクリエイティブやストーリーをしっかり作り込んでいるのも素晴らしいと思いました。
 
グーグル合同会社 リテール業界 インダストリーヘッド
木村 直樹 氏

 Google 合同会社における流通小売業界に対する広告営業組織の責任者。国内の Google 組織横断のリテールメディア事業、国内市場向けショッピング領域のプロダクト開発についても中心メンバーとして牽引している。Google には 2019 年に入社。SMB 領域における YouTube 広告のアジア太平洋地域の事業企画として、日本市場への広告ソリューションの Go-To-Market 戦略の立案、クリエーターエコシステムの事業開発、広告代理店とのパートナーシッププログラムの遂行などを実施。2021 年より流通小売業界を担当。Google 入社以前は外資系コンサルティングファームにて、日本を代表する消費財・流通小売業界・テレコム業界クライアントに対して、全社戦略策定・実行、セールス・マーケティング領域の改革、DX支援を 10 年弱にわたり推進。
クイーンズランド大学 経営学修士。

望月 おっしゃる通り、当初はインプレッションが出ずに「収益化は難しいのでは」という不安もあったんですね。実態として、食品スーパーのホームページは月間100万PV未満の場合が多いのです。そこでeCPM(広告表示1000回当りの実際の費用)をシミュレーションしたところ事業として成り立たない数値でした。そこで、インプレッションが少なかったとしても、どうやったら広告の効果が出るか。それはもう分かっていて、コンバージョンレートを極大化させるしかない。いわば苦肉の策として、こういった工夫にたどり着いたわけです。

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