あなたのクリエイティブ・ジャンプは何ですか?~ネプラス・ユー京都2024 特別企画~ #04

八代目儀兵衛 人気ギフト「十二単」を過去最高売上にジャンプさせたアイデアとマーケティング【ネプラス・ユー京都2024特別寄稿:神徳昭裕】

前回の記事:
ダイキン流クリエイティブ・ジャンプ、秀逸コピー「空気で答えを出す会社」は漢方薬のように効いてきた【ネプラス・ユー京都2024特別寄稿:ダイキン 片山義丈】
 2024年5月20日から21日にかけて、全国からマーケターが一堂に集結するカンファレンス「ネプラス・ユー京都2024(主催:ナノベーション)」。全体テーマである「クリエイティブ・ジャンプ」について、関西を拠点とするトップマーケターでもあるカウンシルメンバーが寄稿する本連載の第4回は、開催地である京都から八代目儀兵衛 取締役CMO 神徳昭裕氏に登場してもらった。「町の小さなお米屋さん」がなぜ、全国から熱視線を注がれる存在にまで成長できたのか?大人気ギフト「十二単」を飛躍させた「アート」と、飛び続けるための「サイエンス」を語った。
 

昨年の「ネプラス・ユー大阪2023」でテーブルディスカッションする参加者の様子。「現場力」をテーマに熱い議論とネットワーキングが交わされた。
 

「お米に色を付けたい」社長アイデア

 
神徳 昭裕 氏
八代目儀兵衛 取締役CMO

 新卒でカタログ通販のニッセンに入社。黎明期のECサイト立ち上げを経験。モバイルEC責任者としてサイト運営、アプリ開発を担当。2016年WILLERに入社。国内旅行・バス予約サイトのEC責任者。2019年江戸寛政から続く京都の老舗米屋「八代目儀兵衛」のCMOに就任。2021年、取締役に就任。

「八代目儀兵衛」のルーツは京都で江戸時代から続く、どこにでもあるような小さな「町のお米屋さん」でした。それが今ではセブン-イレブンや日立など、日本を代表する大企業からコラボレーションを指名されるようになりました。そこに至るにはクリエイティブの力が非常に大きかったと思っています。

 ご存知のようにお米の需要も農家の数も減少し、業界としては非常に厳しくなる中で、半径数キロメートルの商圏のお米屋のままでは、潰れてしまうという危機感がありました。8代目の橋本儀兵衛が2006年に「株式会社八代目儀兵衛」を設立し、通販事業を開始。その代表的な商品となったのが、2007年に発売が始まった、12種類のブレンド米を色鮮やかな風呂敷で丁寧に包んだ「十二単シリーズ」です。

 それまでは、お米は日常的に使うもので、消費者は知名度のある産地や銘柄と、値段感で選ぶのが一般的でした。そこで橋本が着想したのが、日常で使う機能的な価値ではなく、非日常的なギフトとしてのお米の価値を伝えるということでした。そのアイデアは間違っておらず、ローンチから15年以上経った現在も、結婚祝いや出産祝いといった慶事でのご利用が、売上の中で最大となっています。

 この商品は恐らく、市場調査や顧客データからロジックを積み上げたというより、クリエイティビティを起点にしないと、生まれなかったと思うのです。

 お米は普通、米袋にしても、炊き上がった姿にしても、なかなか差別化できません。そんなお米に「色を付けたい」という思いが橋本の中にあり、そこに見た目の華やかさや高級感、京都の地名にちなんだ名前を付けるといった京都らしさを付加することで、思いを体現したのです。橋本自身のアーティスティックな部分が非常に光った商品です。

 モデルの梨花さんがブログで紹介してくださったことなどから、メディアに取り上げられる機会が増えたことは、ヒットの大きな要因になりました。ただ、SNSでの「映え」が今ほど意識されていなかった頃から売れ続ける要因をより深く考えると、受け取った人の印象に強烈に残る商品、そしてまた、誰かに贈りたくなる商品だったことが、ひとつのポイントだったのではと思います。

 アンケートを取ると、新規で買ってくださったお客さまのうち、20%ほどは過去に受け取った経験がある方なのです。商品自体はロングセラーですが、受け取った方の大半は結婚や出産といった、滅多にないイベントに際して初めて商品を目にする訳ですから、トレンドに左右されず、新鮮な顧客体験を創出し続けることができています。

 一方で、出生数や結婚する人が減っていく中で、ギフト市場での競争は確かに厳しさを増しています。特に5000円以下の市場はレッドオーシャン化していて、5000円以上や1万円以上の高価格帯となると競合の数は減りますが、カタログギフトを選択される方が多くなります。

 八代目儀兵衛の場合はまず、人によって好き嫌いが少なくたくさんもらっても困らない「お米」、それも全国から美味しいお米を集め、独自にブレンドしているという商品自体の強みがあります。その上で、贈る方にとって「何を贈れば喜んでもらえるかな」というワクワク感と、贈られた方の「開けた時の驚き」という体験の両方を重視している点が、他商品との差別化になっていると思います。

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