あなたのクリエイティブ・ジャンプは何ですか?~ネプラス・ユー京都2024 特別企画~ #06

デザイン→マーケ→広報へのキャリアチェンジでつかんだナリス化粧品「シェアNO.1」と掲載アップ【ネプラス・ユー京都2024特別企画】

前回の記事:
渋谷の冬空に花火 テクノロジー進化で誰もがクリエイティブ・ジャンプできる時代へ【ネプラス・ユー京都2024 特別寄稿:J.フロントリテイリング 林直孝】
 アートとサイエンスを突き詰めて、ビジネス効果を飛躍的に押し上げる「クリエイティブ・ジャンプ」は、どのように生み出されるのか? そんなテーマに真っ向から挑むマーケティングカンファレンス「ネプラス・ユー京都2024(2024年5月20日・21日/ナノベーション主催)」に関連するAgenda noteの本連載。トップマーケターであるカウンシルメンバーによる熱のこもった寄稿に続いて、関西などを拠点にクリエイティブな施策を展開する企業に「あなた(貴社)のクリエイティブ・ジャンプ」を訊ねていく。

 今回は「ふきとり化粧水」の国内シェア1位で知られる化粧品製造・販売のナリス化粧品(大阪市)を取り上げる。広報担当部長の横谷泰美氏はデザイナーとして入社し、マーケティングを経て同社初の「企業広報」のポジションを新設。限られたリソースから「眠れる宝」を掘り起こし、売上やOEMの受注増加、掲載数の大幅アップにつなげた。製品の川下から川上まで経験したからこそ見える「クリエイティブ・ジャンプ」の可能性とは。
 

化粧品メーカーにおける広報の「力」


―― 横谷さんはデザイナーとして入社し、企業広報になるまでにはどんな経緯があったのですか。

 大学でデザインを学び、最初は広告宣伝部に配属され、ドラッグストアに陳列する什器や製品のパッケージのデザインをしました。3年目くらいからデザイン提案に絡めて製品提案もするようになり、その後マーケティングや新規事業開発も担い、2016年に経営企画室で「企業広報」という新しいポジションを立ち上げ、就任しました。リリース作成からメディアキャラバン(メディア関係者とアポをとり自社製品などを紹介すること)、新製品発表会まで、すべて内製で行う「ひとり広報」で、しばらく兼任でしたが2019年からは広報に専念しています。

 企業広報をつくったのは、デザインでもマーケティングでも、従来あった新製品の販促でも、解決できないことが見えてきたからです。ナリス化粧品は1932年創業の老舗ですが、大手メーカーのような知名度はなく、「名刺がわり」になるような特定のイメージも持たれていませんでした。私自身の肌が弱く、使える化粧品が限られているということもあり、当社の安全性と効果の両立のバランスについては、客観的にも技術の高さを証明していると思えていましたが、その価値を十分に発信することもできていませんでした。

 私たちのような中堅企業では、デザインやマーケティングで売上を上げることも大切ですが、一瞬のヒットよりも、優秀な人材を採用したほうが長期的なメリットにつながります。販促だけでは伝わらない企業の魅力を伝えるためにコーポレートサイトを刷新し、メディアに提供する材料としてだけでなく、社員に多くの材料を与えるために技術力を示す学会での研究発表や、育児中の復職支援金などの働きやすさに関するリリースを積極的に出したりしました。
 
ナリス化粧品 経営企画室 広報担当部長
横谷 泰美 氏

 芸術系大学を卒業後、ナリス化粧品入社。販促、プロダクトデザイン、パッケージデザイン、製品企画業務、新規事業開発等を経て、経営企画室に広報部門を立ち上げ現在に至る。働き方関連や研究開発技術系、生活者の意識調査を軸にした「社会派広報」に注力する一方、看板商品である「ふきとり化粧水」の認知向上を目的とした「国内シェア調査」「ふきとりの日」の設定などに取り組む。

―― 「クリエイティブ・ジャンプ」につながったと思うリリースの事例はありますか。

 該当するか分かりませんが…。主力商品である「ふきとり化粧品」は類似商品の中で売上シェアが国内1位「らしい」と長年、社内で言われていましたが、噂でしかありませんでした。「ふきとり化粧水」という言葉についてもメーカーや製品によって多様な解釈があり、ナリス化粧品が1937年の発売以来、一貫して追求している「肌の老化角質を取り除いてから栄養を与える」という美容理論を、きちんと発信する必要性を感じていました。

 そこで2016年に初めて「ふきとり化粧水」の販売動向調査を調査機関に依頼し、年間企業別売上1位であることが明らかになったため、「国内販売シェアNO.1」とリリースしたのです。語呂合わせで2月10日を「ふきとりの日」として日本記念日協会に申請し、登録もされました。調査は毎年続けており、おかげさまで1位を獲得し続けています。これは営業社員が使える言葉でしたので、売上にもつながっており、当時の市場シェアは12.9%でしたが現在は15%を超えています。ふきとり化粧水のわかりやすい表現は、OEMの受注にもつながりました。社員が自社の特徴を認識し、自信を持ってくれるようになったのも嬉しかったですね。



「広告費を出せないから広報している」といった考えをお持ちの方もおられるようですが、広告費を出してもできないこと、広報にしかできないことがあります。特に化粧品の場合、「効果」と「刺激」は紙一重です。化粧品広告は薬機法の規制によって、誇張や誇大広告が許されないのはもちろんのこと、たとえ事実であっても表現できることが非常に限られています。効能や安全性について、規制を逸脱した広告表現をしている製品も実際は出回っている中で、法律を守りながらどうやって価値を伝え、差別化していくか。中堅の化粧品メーカーにおいて、広報にできることはアイデア次第でかなり大きくなると思います。

 販促が外部のPR会社を使って製品PRだけをしていた頃は、メディアに掲載されるなどしたのは10~20件ほどしかいなかったのですが、現在はTV、新聞、雑誌、Webなどでの放映や掲載が年間700件ほどになりました。その多くが働き方に関することや、技術に関することであり、製品の魅力を伝える前に、企業の性質を伝えることは、売上を伸ばす以上に社員の自信やメディアの信頼、優秀な人材採用に直結しているのです。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録