あなたのクリエイティブ・ジャンプは何ですか?~ネプラス・ユー京都2024 特別企画~ #12
「一泊100万」は安かった?世界遺産・仁和寺が資産活用とデジタルに舵を切った理由【ネプラス・ユー京都2024特別企画】
アートとサイエンスを突き詰めて、ビジネス効果を飛躍的に押し上げる「クリエイティブ・ジャンプ」は、どのように生み出されるのか? そんなテーマに真っ向から挑むマーケティングカンファレンス「ネプラス・ユー京都2024(2024年5月20日・21日/ナノベーション主催)」に関連するAgenda noteの本連載。トップマーケターであるカウンシルメンバーによる熱のこもった寄稿に続き、関西などを拠点にクリエイティブな施策を展開する企業(法人)に「あなた(貴社)のクリエイティブ・ジャンプ」を訊ねていく。
今回は開催地・京都から真言宗御室派の総本山仁和寺が登場。888年に創建され、境内には五重塔や二王門など江戸時代建立の歴史的建築物が並び立つ。1994年にはユネスコの世界遺産に登録された格式高い寺が、一泊100万円以上という高級宿泊体験を提供して話題になったのは記憶に新しい。マーケティング施策としても注目に値する同寺の斬新な取り組みについて、財務部管財課・拝観課課長の金崎義真氏に聞いた。
今回は開催地・京都から真言宗御室派の総本山仁和寺が登場。888年に創建され、境内には五重塔や二王門など江戸時代建立の歴史的建築物が並び立つ。1994年にはユネスコの世界遺産に登録された格式高い寺が、一泊100万円以上という高級宿泊体験を提供して話題になったのは記憶に新しい。マーケティング施策としても注目に値する同寺の斬新な取り組みについて、財務部管財課・拝観課課長の金崎義真氏に聞いた。
危機感に突き動かされマイナス資産活用へ
―― 文化財として保存の対象である歴史的建造物や寺宝などを、積極的に活用する方向に舵切ったのはなぜですか。
危機感です。仁和寺は約24万坪の境内に、宗教建築が約120棟、利便施設と呼ばれる建物が約30棟、宝物約2万点を有しています。この歴史的な資産を守り、継続させることが世界遺産としても使命になっているですが、それにかかる費用の大部分が拝観料に依存しています。
真言宗御室派総本山 仁和寺 財務部管財課・拝観課 課長
金崎 義真 氏
土地建物の保存・公開・活用を管轄し、公式サイトや報道機関向けのリリースなど広報業務を担うことも多い。
金崎 義真 氏
土地建物の保存・公開・活用を管轄し、公式サイトや報道機関向けのリリースなど広報業務を担うことも多い。
お寺の建物は50年や100年に一度、寄付を募って大修理を行うのが一般的です。戦前は皇室関係者が住職を務め、それほどお金に困ることがなかった仁和寺ですが、戦後は民営化し、口を開けて拝観料や大口の寄付金を待つだけでは、これだけの寺宝を維持管理していくには限界が来ることは見えていました。にも関わらず、寺院担保のための財源確保の構築がほとんど進まず、必要な蓄財や投資をしないまま推移してきてしまったのです。
私が入った約20年前頃から、仁和寺では危機感が共有され、資産の活用に舵を切りました。まずは維持管理コストが負担になっている「マイナス資産」を活用することにして、経年劣化が進んだ状態で境内に保存されていた寺侍の旧宅を改修し、高級宿泊施設として提供することにしたのです。
―― 「一泊素泊まり100万円から」で話題になった境内の宿「松林庵」ですね。外国人旅行客をターゲットに、歴史的建造物に滞在しながら日本文化を体験を通じて文化財を保護継承することを目的とした日本財団の「いろはにほんプロジェクト」に応募し、改築・整備費の約8割を助成金で賄ったと聞きました。
厳密に言うと、このプロジェクトは建物の改修自体に補助金を出すものではなく、宿泊施設にすることで生み出される雇用に対する助成金という仕組みでした。だからプロジェクトに応募する時は、改修によって日本文化の発信や雇用創出にどんなメリットがあるかを一生懸命考え、アピールしました。地方で増加する空き家を活用し、価値を創出する取り組みの先駆けになったとも思います。
「松林庵」の高額な宿泊料は「坊主丸儲け」などとも批判もされましたが、話題になったのはありがたいです。世界遺産のお寺に安く泊まれてしまうなら、他の寺社が同じようなことをした時に、それ以下の値付けにせざるを得なくなってしまうと思います。全国、どこの寺社も同じような経営と維持管理に関する悩みを抱えています。御室派総本山であり、世界遺産である仁和寺は先頭に立ってハイレベルな価値提供をしなければ、寺社文化全体を底上げできません。100万円という値付けは、仁和寺なりの社会へのメッセージと、貢献のつもりだったのですが、あらゆる経費や価格が高騰している現在は、それほど高価ではなくなったのではないでしょうか。より高い付加価値を発信できるプランづくりを模索しています。