ダイレクトアジェンダ2024 #09

I-ne、mederi、Pocochaが語る「顧客視点」で実行する体験価値向上の秘訣【ダイレクトアジェンダ2024レポート】

前回の記事:
I-ne、mederi、Pococha、成長中のブランドはどんな広告施策で成果を出しているのか【ダイレクトアジェンダ2024レポート】
 直販・通販事業に携わるトップマーケターが集結するカンファレンス「ダイレクトアジェンダ」が、2024年3月7日から9日にかけて、鹿児島県鹿児島市で開催された。キーノート#2では、I-ne 執行役員/CSOの伊藤翔哉氏、mederi 代表取締役の坂梨亜里咲氏、ディー・エヌ・エー Pococha事業部マーケティング部長の村口賢一郎氏がスピーカーとして登壇し、シンクロ 代表取締役社長の西井敏恭氏がモデレーターを務め、各社の実例を掘り下げながら、ダイレクトマーケティングの現状と今後起こりうるイノベーションについて意見を交わした。

 前編では、インターネット施策を中心とした各社の実例に触れながら、顧客の声や組織体制、オンライン・オフラインの使い分けといった話が展開された。後編となる本記事では、顧客のニーズや価値観が移りゆく現代において、直販・通販を担うマーケターたちが持つべきブランドの視点が議論された。その中で見えてきたのは、「顧客視点」に基づく全社的なブランド構築が、ダイレクトマーケティングにおける体験価値の向上を促進しているということだ。セッションの最後には、今後3年間で起こるイノベーションについてもディスカッションしたセッションをレポートする。
 

「共創」で見えた真の顧客ニーズ


西井 今年のダイレクトアジェンダのテーマである「ライフスタンス」にあわせて、ダイレクトマーケティングをされているみなさんがブランドについてどう考えているのかを聞いていきたいと思います。中川政七商店 代表取締役会長の中川政七氏の話を受けてでもいいですが、まずI-neの伊藤さんからブランドのお話を伺えますか。
  

伊藤 「Innovate Commit Respect」というのは、当社のバリューです。社員にもって欲しい価値観なのですが、事業を拡大していく中でも大切だと考えて記載しました。

中川政七さんの話も本当に共感することが多く、学びになったのですが、中川さんは記事で「とはいえ利益を出し続けなくちゃならない」ということをおっしゃっているので、「Commit」の観点からも我々は成長企業として、出した利益で「ライフスタンス」を体現していくような活動にしっかりと投資していかなければならないなと改めて考えました。

西井 それはお客さまにも伝えているんですか。

伊藤 はい、お客さまに約束するために利益を出す、みたいな感じですね。

西井 村口さん、I-neのバリューについて何かご質問はありますか。

村口 コミットするというと、誰に対するコミットかという議論があると思いますが、特にお客さまに対するコミットではどのようなことを意識されていますか。

伊藤 I-neにはブランディングの部署があるのですが、数字を上げるためにセールス側が売りたいことに対して、ブランディング側がはっきりと意見を言えるような組織体系にして、毎日ディスカッションしています。そこが企業やブランドからお客さまに対しての約束につながっていると思います。
 
I-ne 執行役員/CSO
伊藤 翔哉 氏

 2011年入社。Eコマースとデジタル上におけるブランド戦略に注力し、広告、マーケティングも兼任。オンラインで認知を獲得して実績を上げて、ドラッグストアなどのオフライン販売網に拡大展開する、オンライン起点でのビジネスモデルの構築に尽力。2017年取締役 兼 販売事業本部本部長代理、及び株式会社VUEN(現・株式会社Dr.SYUWAN) 代表取締役就任。2022年1月執行役員兼デジタルマーケティング本部本部長就任。2023年4月より、艾恩伊(上海)化粧品有限公司 董事就任。2024年1月執行役員 CSO(Chief Sales Officer)及び株式会社Endeavour代表取締役就任。

西井 ちなみに、ブランディング部署とセールス部署の人数比率はどれくらいですか。

伊藤 ブランディングが70人ぐらいで、セールスがオンラインとオフライン合わせて90人ぐらいです。

西井 70人もいるんですね、何ブランドあるんですか。

伊藤 常時15ブランドぐらいはあります。ブランディング部署は、いわゆるブランドを管理するだけの部署なんです。そのため、ブランドチームとして見ると他の部署からも参加しています。たとえば、SNS運用、動画やパッケージデザインといったところがブランディング部署の管轄ですね。

西井 なるほど、そこだけで70人いるんですね。

伊藤 ここのパワーの強さが、我々の強みかなと思います。

西井 結局、そういうことですよね。BOTANISTの何がいいみたいな話って、もちろんプロダクトやプロモーションのよさ、それ以外にもさまざまな要素があると思いますが、結局帰着しているとこはブランドだと思います。
 
シンクロ 代表取締役社長
西井 敏恭 氏

 1975年福井県生まれ。2年半にわたる世界一周の旅行記を更新したWebサイトが人気となり、帰国後、旅の本を出版し、EC企業にてデジタルマーケティングに取り組む。二度目の世界一周の旅をしたのち、2016年にシンクロを設立。大手通販・スタートアップなど多くの企業のマーケティング支援やデジタル事業の協業・推進を行うほか、複数企業の取締役を兼任する。その傍ら旅を続け、訪問した国は150カ国近く。 全国のマーケティングイベントやビジネスフォーラムでの講演、雑誌・新聞・テレビなどメディア掲載多数。

伊藤 そうですね。最も大事にしている部分です。

西井 それから「Commit」についての話がありましたが、他の「Innovate」と「Respect」がプロダクトやプロモーションの中で、どう生きているのでしょうか。

伊藤 「Innovate」に関していえばDtoC系の企業って、どうしてもまずは他社の成功事例や過去の成功事例を見て、どうすればそこにプラスの付加価値をつけられるかということを考えるんですよね。ただ、一旦それを取り除いて、他社の成功事例をすっ飛ばして新たな考え方をしたのが、BOTANISTやYOLUなんです。100億円を超えるブランドに成長するためには、やはりそういう考え方が必要だと思います。

西井 なるほど。坂梨さん、mederiはいかがですか。

坂梨 私たちは、ユーザーさんの声をブランドに生かしていくことをすごく大切にしていて、こういう社会をつくりたい、こういう目的でユーザーさんにピルを届けています、ということを発信しています。ユーザーさんと共創しディスカッションをしながらブランドを深めていきたいので、そこに共感してくれたユーザーさんがくれた意見に対して、絶対私たちはこれはやりませんとか、これはやりますとか、そういうプライドはなく、あくまでもユーザーさんと一緒に育てていきたいという思いで取り組んでいます。
 
mederi 代表取締役
坂梨 亜梨咲 氏

 明治大学卒業後、ECコンサルティング会社を経て、女性向けwebメディアのディレクター、COO、代表取締役を経験。自らの4年に渡る不妊治療経験からmederi株式会社を設立。オンラインピル診療サービス「メデリピル(mederi Pill)」、妊活サポートプロダクト「メデリベイビー(mederi Baby)」を展開。2021年より実業家・前澤友作氏が設立した前澤ファンドから出資を受けている。

西井 ユーザーと「共創」するというキーワードが出てきましたが、基本的にmederiの商品は企業側とお客さまの双方でコミュニケーションが取れなければ売れない商品なので、コミュニケーションは当然発生しますよね。具体的に、お客さまと共創しているところではどのような反応があるんですか。

坂梨 一番分かりやすいのは、カスタマーサポートに届く声です。これまでは、ピルを誰にとっても当たり前の選択肢にしたいという思いから、mederiの大きなロゴがついた段ボールにピルを入れて堂々と届けていました。しかし、ユーザーさんからするとバレたくない、隠したいというニーズがあって、彼バレ・家族バレするからロゴを消して欲しいという依頼があったんです。

西井 なるほど。では、現在ではロゴを消しているんですか。

坂梨 はい、消しています。真っ白な封筒に入れて、分からないように届けています。でも、世界観やブランドを考えると、ロゴを載せたくもなってしまうんですよね(笑)。

西井 なりますよね(笑)。企業側からすると、そこはめちゃくちゃ出したいところなので、間違った考え方ではないと思いますが…。

坂梨 そうなんですよ。でも、顧客の真のニーズはそこではないのかなと思い、ダンボールは改善しました。

西井 ちなみに、プロダクトに関しては、お客さまと「共創」する余地はあるんですか。そこはやっぱり難しいですか。

坂梨 プロダクトに関しては、ラインナップを増やすことはできます。たとはえば、副作用が生じることがある医薬品なので、「市販の吐き気止めも併用していいですか?」という声が届いたんです。ピルは1カ月に1シートしか飲まないものですし、これまでクロスセルやアップセルはなかなか難しいことでしたが、吐き気止めだったら私たちでも用意できると思い、副作用緩和薬の吐き気止めと痛み止めの取り扱いを始めました。

西井 ユーザーの声をもとに他の部分のサービスを充実させたんですね。伊藤さん、いまのお話についていかがですか。

伊藤 先ほどの段ボールの話がおもしろいなと思いました。I-neでも段ボールに店舗ロゴを入れていたんですけど「段ボールのロゴ、必要ですか」という意見がコールセンターに届いたんです。「ショッピングバッグならわかりますが、届いたらすぐ捨てる段ボールにロゴって要るんですか」って言われて、確かにと思い、当社もロゴをなくしました。

坂梨 あ、そうなんですね!

伊藤 なくしましたよ(笑)。このロゴってそんなにうれしいですかねって普通に言われて、そういう考え方もあるんだと思いました。

坂梨 印刷するコストもかかっていますしね。

西井 おもしろいですね。ライフスタンスに関連する話もあってうれしいなと思いましたし、企業によってもそういった立ち位置は全然違いますよね。たとえば、百貨店の買い物バッグにブランドを感じて嬉しかった時代がありましたが、そうした時代はもう過ぎている中で、どういったスタンスを取るかという話が2社から出たのがすごく興味深いなと思いました。ユーザーと「共創」するという話でいうとPocochaもまさにそうなのかなと思いましたが「共創」についてはいかがでしょうか。

村口 「有言実行」の背景にもつながりますが、やはりブランドって、よく人に例えられると言われていて、人がそういったイメージをもつのに必要なのは「有言実行」だといつも思っています。たとえば「真面目になりたい」って言っている人が、自己紹介で「私は真面目です」とはあまり言わないと思うんです。しかし、それがなぜか企業になると、そう言っているパターンが多い気がしています。「俺かっこいいでしょ」と自分で言っちゃうというイメージですかね。

ただ、実行したことによって初めて人からそう見られると考えることで、まずは何を約束するのか当社の中で決めていない限り、真面目にいくのかもっとワイルドにいくのかは定められないと思うんですよね。
 
ディー・エヌ・エー Pococha事業部マーケティング部長
村口 賢一郎 氏

 外資系コンサルティング会社でのコンサルティング経験、外資系広告代理店での戦略プランニング経験を活かし、Google で Product Marketing Lead として Hardware 事業(Google Home, Google Pixel など)の日本立ち上げに従事 。Google Pixel の日本市場への浸透に販売促進、パートナーシップを通して貢献 。また IBM から分社化した IT インフラ企業である Kyndryl Japan の事業立ち上げの CMO として企業ブランディング、新マーケティングモデルの確立を実現 。2023 年7 月より Pococha の Head of Global Marketing を担当。広告代理店と事業会社、B2C とB2B、コミュニケーションの上流から下流までの経験した強みを活かし、新規ブランドの立ち上げ・グロースマーケティングが強み。

Pocochaのサービスでは、もちろん短期的な売上を見たら、インフルエンサーを入れてドンと稼ぐこともできます。しかし、Pocochaはファンコミュニティをつくるサービスであり、我々が信じているのはミドルクラスクリエイターの民主化です。どうすれば一般のライバーさんにもファンが集まり、民度よくユーザーさんが仲良くできるかを第一に考えています。

したがって、ユーザーさんと「共創」するという意味では「約束と実行の蓄積」という言葉も書きましたが、コミュニティの中でリスナーさんやライバーさんがどんな思い出や体験をすることができるかを一番大事にしています。

西井
 いまの話の中で、本当にかっこよくありたい人は別に「俺かっこいいでしょ」って言わないのに、ブランドは言ってしまっているという話は、すごく共感できました。「有言」については、どのように捉えていらっしゃいますか。

村口 約束という意味で、私は広告をよく「報告」と呼んでいます。これからすることの約束として広告を使うことが多いと思いますが、広告のあるべき姿は取り組んだことを伝えることだと思っているんです。そのため、実行したことを「報告」していくこともすごく重要だと思います。

西井 つまり結果的に、お客さまにどう価値観が問われるかが重要ということですね。坂梨さんや伊藤さんは、この点についていかがですか。
  

坂梨 いろいろな人がPocochaで発信されていると思いますが、ユーザーさんからの声でアップデートした機能や改善した点はありますか。

村口 小さなコミュニティを大事にしているので、100人を超えると新規ユーザーをコミュニティに追加できなくなるという機能を設けています。利益だけを考えたら本当になんでそんな選択をしたんだろうと思っているのですが、それ以上人数が増えてしまうとお互いの関係性が薄くなってしまうんです。本当は人が増えた方が儲かりますが、あえて小さなコミュニティをキープして、ユーザーさんと約束したことを守っています。

あともうひとつ、ライバーさんがライブ配信をお休みしたいときもありますよね。実は、Pocochaでは「おやすみチケット」という有給休暇のような制度もあるんです。ライバーさんがどうすれば継続できるかということも大事にしているんです。

西井 ユニークな取り組みですね。ここまで各社のブランドの話をお伺いしましたが、3社に共通しているのは、お客さまにそのままを伝えているわけではないということですよね。Oisixも、ブランドの企業理念としてはお客さまとの約束がありますが、あまり表には出していないんです。ただ裏側できちんと取り組んでいて、全社的に行っていくコミュニケーションの中でお客さまにどう感じていただけるかを考えていくんです。そのためのブランドマネジメントみたいなことがすごく大事なのかなと思いました。

伊藤 I-neではブランドマネジメントの一環として、ブランドブックがあります。たとえば、広告バナーの色合いやSNSのコミュニケーションなどはかなり細かく決められています。

ただSNSに関して、セールスやマーケティングは広告以外の部分にはあまりタッチしていないです。費用対効果はどうなのかと突っ込みたくなるんですけど、ここを我慢するのがいいブランドの使い方みたいですね(笑)。

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