ネプラス・ユー京都2024 #05

「キャンパスノート」「しゅくだいやる気ペン」なぜコクヨはヒット商品を次々と生み出せるのか、その本気度を黒田社長が明かす【ネプラス・ユー京都2024レポート】

前回の記事:
コクヨ黒田社長が考える「クリエイティブ・ジャンプ」とは?「ネプラス・ユー京都2024」開幕 京都にトップマーケターが集結
 関西のマーケターを中心に「知識と情報、経験を繋ぎ、共創を生み出すこと」を目的としたマーケティングカンファレンス「ネプラス・ユー京都2024」(主催:ナノベーション)が5月20日と21日の2日間、京都(京都テルサ テルサホール)で開催された。 初日のオープニングキーノートでは、「コクヨ黒田社長の思考から『クリエイティブ・ジャンプ』の論理を再考する」というテーマで、コクヨ 代表執行役社長の黒田英邦氏が登壇した。

 2015年の黒田社長就任後、コロナ禍以降のオフィス変革の需要を的確に捉え、売上・利益ともに成長を続けるコクヨ。痒いところに手が届くユニークなヒット商品はどうして生まれたのか。花王 DX戦略部門 インタラクティブプラットフォーム統括センター オウンドメディアインプリメント部の廣澤祐氏が深掘りしたセッションをレポートする。
 

敢えて小文字の「be Unique.」


廣澤 「キャンパスノート」や「しゅくだいやる気ペン」など、多くのヒット商品を生み出し続けるコクヨの黒田社長の論理を通して、今回のテーマである「クリエイティブ・ジャンプ」の原則を考えていきたいと思います。まず、コクヨはなぜユニークであり続けられるのかに迫りたいのですが、そもそもコクヨは企業理念に「be Unique.」を掲げています。これはいつ頃に策定されたものなのですか。

黒田 2021年ですね。2030年に向けた10年のビジョンを作成した際に、それまで100年続いてきた企業理念も変えようということで「be Unique.」を策定しました。時代の変化に合わせて海外の社員にも伝わりやすく、シェアできるような言葉にし、頭文字の「b」はあえて小文字にしています。これは大文字にしてしまうと、特にコクヨは本社が関西なので「ユニークにならんかボケ」と、命令文のように受け取られてしまうので(笑)。

今は多様化が進み、世の中ではどんどんユニークが求められてきています。世の中がそうしてユニークになっていく状態をbe動詞で表現して、最後にピリオドを打つことで、そこにコクヨとしても貢献していこうという意味を込めました。
 
 
コクヨ 代表執行役社長
黒田 英邦 氏

 1976年、兵庫県芦屋市出身。甲南大学、米ルイス&クラークカレッジ卒。2001年コクヨ入社。事業会社のコクヨファニチャー社長、コクヨ専務などを経て、2015年より代表取締役社長。2024年に代表執行役社長に就任。曽祖父は創業者の黒田善太郎氏。オーナー企業の5代目にあたり、来年120周年を迎える老舗企業を原点である「顧客本位」で厳しい外部環境、社内の成熟化に対し改革を続ける。長らく3000億規模の企業を2030年に5000億まで事業領域を拡張する長期ビジョン「CCC2030」を2021年に発表、新たなパーパス「ワクワクする未来のワークとライフをヨコクする。」を2022年に策定、事業ポートフォリオの拡張、それを支える企業運営改革「森林経営モデル」に取り組んでいる。


廣澤 ちっちゃな「b」に、そんな思いが込められていたとは知りませんでした。黒田さんが社長に就任されてから営業利益が右肩上がりに成長していますが、就任前に「低成長の常態化」という期間があったとのこと。これは何か、うまくいかない要因があったのですか。

黒田 日本市場の成熟に伴い、オフィス事業を中心として売れない商品をやめて売れる商品に変えていくといったことをしていたのですが、なかなか利益が出ず、いわゆる「失われた20年」と同じような推移をたどってしまったということですね。

廣澤 脱却の兆しは、どういうところに見出されたのでしょうか。

黒田 過去、我々は流通をずっと重視してやってきました。全国の街中にあるコクヨ販売店に発送して、売上が伸びていくという仕組みでした。商品は自分たちでつくるよりも、「売れているものにコクヨのブランドを貼った方が早い」という時代が長かったのです。

ただ、これだと売上は伸びるけれど収益は伸びにくく、下がっていく。この低成長を脱却するためには、まずは「顧客が誰か」ということをはっきりさせる必要があると考えました。その結果、ここ10年ほどで収益を大幅に改善させることができました。

廣澤 今、仰ってくださったように、コクヨはもともと流通が強く、私たちも文具のイメージが強いですが、売上構成比ではステーショナリー事業は24%ということで、実はオフィスの空間設計といったファニチャー事業が40%超と、BtoBが中核になっているのですね。

今日は「クリエイティブ・ジャンプ」というテーマに照らして「人材の活躍と成長」「イノベーションの活性化」にフォーカスしてお聞きします。
 
 
花王 DX戦略部門 インタラクティブプラットフォーム統括センター オウンドメディアインプリメント部
廣澤 祐 氏

 2015 年に新卒として花王へ入社し、広告宣伝部(現メディア企画部)にてデジタルマーケティングを3年経験したのち、化粧品ブランドのマーケティングに3年従事。
2021年1月より新設されたDX部門にて社内のデジタル化を推進、2023年より現職。
【 その他の経歴 】
2020年よりデジタルマーケティング研究機構 U35 Project プロジェクトリーダーを務める。
2021年に一橋大学大学院 経営管理研究科(MBA)を修了したのち、現在は同大学院の博士後期課程に在籍しイノベーション・マネジメント / MOTの研究に従事。
その他、メディア連載やイベント協力などを務める。

ただその前に、コクヨのユニークな製品について簡単にご紹介させてください。「キャンパスノート」は誕生したとき、紐で綴じない製法が画期的だったと聞きます。「THE CAMPUS FLATS TOGOSHI」は、最近東京に展開された実験的な集合住宅ですね。「しゅくだいやる気ペン」はアプリと連動してお子さんのやる気を促すIoTアイテムです。「本に寄り添う文鎮」も、最近出された商品ですが、なかなか渋くて面白いと思いました。
  

黒田 そうですね。「キャンパスノート」は無線綴じという、長辺をノリでとめる製法に我々独自の秘密があります。累計35億冊以上販売しており、ペットボトル8本ぶら下げても破れない耐久性や、独自のレシピで調整している紙質も特徴的です。

「THE CAMPUS FLATS TOGOSHI」は、もともとは単身赴任者用の寮だった建物を売却しようかなと考えていた時に、サービスアパートメントを検討している新規事業チームが「自分たちに使わせてくれ」と言ってきました。内装、サービス、運営まで全部自分たちで考え直し、共用部にいろいろな仕掛けを施した生活実験型賃貸住宅・地域拠点です。

「本に寄り添う文鎮」は、定期的にヒアリングをさせてもらっている中高生のコミュニティで出てきたアイデアを基につくった商品です。僕は最初、絶対売れないだろうなと思っていたのですが、おかげさまで大ヒットしていて、ちょっと立場がないです(笑)。

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