ネプラス・ユー京都2024 #05

「キャンパスノート」「しゅくだいやる気ペン」なぜコクヨはヒット商品を次々と生み出せるのか、その本気度を黒田社長が明かす【ネプラス・ユー京都2024レポート】

 

ユーザー起点に振り切る


廣澤 「キャンパスノート」の独自製法といい、ユニークな文具と言い、コクヨさんはプロダクトのイメージが強いですが、先ほど「低成長からの脱却」のところで、実は流通に非常に強みを持っていたというお話もありました。実際のところ、貴社の強みや弱みについて、黒田社長はどのように捉えていますか。

黒田 そうですね。先ほどお話ししたように、全国に販売店があり流通が強かったこともあって、文具も家具も3万品番ほど取り扱いがありますが、そういった歴史もあって、ノート以外の技術に関しては正直、内製化が進まず、弱みとしていました。そこでここ10年ほどは割り切って、マーケティングや顧客起点に振り切り、叶えたい顧客のニーズやアイデアに向き合うことにしました。

流通がメインだった頃は、販売店さんのバイヤーやオフィス関連であれば総務の方が「顧客」でしたし、今ももちろん、大事なお客さまであることに変わりはありませんが、現在はその先で実際に買ってくれるお客さまや、使ってくれる社員といったエンドユーザーに、どんなニーズや価値を提案するかに重きを置いています。その上で、バイヤーや卸の方、総務の方、ファシリティマネジャーといった方々にご提案する。そういう方向に今、振れてきています。自社工場での内製率は現在3割ほどです。
  

廣澤 意外です。コクヨは自前主義というイメージでしたが、自分たちがつくる部分と、信頼するパートナーに製造を委託するOEMの部分とをしっかり分けていらっしゃるのですね。

黒田 結果的に住み分けたという感じです。座面が360°動くオフィスチェアーの「ing」というヒット商品がありますが、メカニズムやデザインの部分は自前でつくり、設計・開発は外部のパートナーさんにつくってもらっています。

廣澤 最近ではI-neさんのようなファブレス企業が増えてこられました。自分たちがつくるべきところと、外部に委託するところを分けるというのはひとつの戦略なのではと、今お話を伺って改めて考えました。組織的にクリエイティビティー、想像力を高めるような文化や制度はありますか?

黒田 会社として、未充足ニーズを捉えて市場に向かってイノベーション創出にチャレンジする集団になろうとしているので、当然ながら、社員が社長の言うことしか聞かない、などと言うことはあり得ません。とにかく会社の中はオープンであること、それが全ての価値の源泉と思っています。コクヨはオフィスをつくる仕事をしているので、自分たちのオフィスもかなりエッジをきかせています。品川オフィスは街にも開かれた「みんなのワーク&ライフ開放区」となっています。

また、人事制度では「社内複業」がかなり奏功しています。自分の時間の20%を他の部署やプロジェクトに使えるという制度で、「20%チャレンジ」と呼んでいます。先程、商品開発のゲートのお話でも触れましたが、上の人の意見や先例にとらわれるのではなく、本当にターゲットとしているお客さまのニーズを叶えるために、オープンでフェアな議論をできる組織づくりを進めています。

廣澤 創業100年を超える老舗企業で、その新しい「オープンマインド」を社員に浸透させようとした時、反発はなかったですか。

黒田 反発というより、冷めた空気は感じました。しかし、とにかくチャレンジできる機会をつくり、手を挙げてくれる人にチャンスを渡して、盛り上げていきました。すると、だんだんと「自分もやりたい」という人が増えていきましたし、実際に成果が出たり、大きなプロジェクトの受注、海外事業、M&Aの成功につながっていったりすると、やはり空気がつくられていきます。コクヨは基本的に「自律」を奨励し、自律した個人に対して組織やチームが協力する。そういう関係性を、会社の中で確立しています。

※後編 「誠実な変態であれ」コクヨ黒田社長が語るヒット商品開発の真髄【ネプラス・ユー京都2024レポート】 に続く
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