ネプラス・ユー京都2024 #06

「誠実な変態であれ」コクヨ黒田社長が語るヒット商品開発の真髄【ネプラス・ユー京都2024レポート】

前回の記事:
「キャンパスノート」「しゅくだいやる気ペン」なぜコクヨはヒット商品を次々と生み出せるのか、その本気度を黒田社長が明かす【ネプラス・ユー京都2024レポート】
 関西のマーケターを中心に「知識と情報、経験を繋ぎ、共創を生み出すこと」を目的としたマーケティングカンファレンス「ネプラス・ユー京都2024」(主催:ナノベーション)が5月20日と21日の2日間、京都(京都テルサ テルサホール)で開催された。 初日のオープニングキーノートでは「コクヨ黒田社長の思考から『クリエイティブ・ジャンプ』の論理を再考する」というテーマで、コクヨ 代表執行役社長の黒田英邦氏が登壇した。

前編では2015年の社長就任以来、「低成長の常態化」からの脱却と成長を牽引してきた黒田社長に、ユニークな商品開発プロセスの裏側を聞いた。後編の本稿では、組織や人材のクリエイティビティを発揮するために必要な要素や思考について、花王 DX戦略部門の廣澤祐氏が迫ったセッションの後半をレポートする。
 

誠実な変態


廣澤 前編では組織としてのクリエイティビティについて伺いましたが、後編は従業員一人ひとりのクリエイティビティの発揮について伺いたいと思います。自律した社員にチャンスを渡し、組織として応援していくとのことでしたが、創業100年を超える老舗の大企業で、オープンマインドを浸透させていくのは簡単ではないと思います。若い人がプロジェクトリーダーを務めるようなケースもあるのですか。

黒田 そうですね。私が2015年に社長になり、企業改革の方向性を発表するのに先駆けて、雇用方法をジョブ型に変えました。給料が年間10%下がるという社員もいたので、当時は非常に反発もありましたが、基本的に役割や責任に対して給料が支払われるという制度ですので、会社の中にプロジェクトチームがたくさんできました。専門部署で仕事が完結するのではなく、手を挙げたメンバーはチャレンジングなプロジェクトに参加できるという仕組みをつくっています。

若い人だけでなく、ミドル世代にも新しいマネジメントやリーダーシップ、組織設計といった体験をしたいという意欲を持った人が一定数おられて、その世代の人事異動も活発化しています。文具しかやったことがない人がオフィス家具のマネジメントを担うといったように。会社の中に、一種の市場原理といいますか、キャリアの流動性を持たせることを意識しています。
 
コクヨ 代表執行役社長
黒田 英邦 氏

 1976年、兵庫県芦屋市出身。甲南大学、米ルイス&クラークカレッジ卒。2001年コクヨ入社。事業会社のコクヨファニチャー社長、コクヨ専務などを経て、2015年より代表取締役社長。2024年より代表執行役社長に就任。曽祖父は創業者の黒田善太郎氏。オーナー企業の5代目にあたり、来年120周年を迎える老舗企業を原点である「顧客本位」で厳しい外部環境、社内の成熟化に対し改革を続ける。長らく3000億規模の企業を2030年に5000億まで事業領域を拡張する長期ビジョン「CCC2030」を2021年に発表、新たなパーパス「ワクワクする未来のワークとライフをヨコクする。」を2022年に策定、事業ポートフォリオの拡張、それを支える企業運営改革「森林経営モデル」に取り組んでいる。

会社として成長を目指すために人材の自律を促し、常にチャレンジするための機会はつくっていて、その説明責任は果たしているつもりです。そのチャンスを取るか取らないかは、本人次第で、チャレンジすることを選ばない人には、それなりの仕事の渡し方しかできないと思っています。

廣澤 今、お話を聞いていて、2人の経営者の言葉を思い出しました。一人は私が勤める花王の澤田道隆前会長で、彼は社内でよく「人を育てるものじゃなく、育つものだから、経営者ができることは育つ環境をつくってあげることだけだ」と言っていました。もう一人は京セラ創業者の故・稲盛和夫氏で「自ら燃える」、つまり自分の心を自分で燃やせる人材こそが、素晴らしいのだとおっしゃっていました。

黒田 そのお二人には到底及びませんが、私が人を評価するのはおこがましいと思っています。大事なのは、皆さんがチャレンジする選択をしてくれるかどうかです。チャレンジできる環境とは、つまりは仕事が面白く、自分の成長につながるということ。会社が楽しく、仕事が面白く、成長する機会を、社員自らが取りに行くという関係性をいかに強くできるかが、経営者として問われていると思っています。

廣澤 チャレンジしたい、成長したいと思ってもらえる環境をつくるのが経営者の役割ということですね。「コクヨのヨコク」テレビCMシリーズに出てくる「未来をヨコクする社員」にもつながっていきそうです。黒田さんが考えるクリエイティブな人材に必要な素養とは何ですか。
 
花王 DX戦略部門 インタラクティブプラットフォーム統括センター オウンドメディアインプリメント部
廣澤 祐 氏

  2015 年に新卒として花王へ入社し、広告宣伝部(現メディア企画部)にてデジタルマーケティングを3年経験したのち、化粧品ブランドのマーケティングに3年従事。
2021年1月より新設されたDX部門にて社内のデジタル化を推進、2023年より現職。
【 その他の経歴 】
2020年よりデジタルマーケティング研究機構 U35 Project プロジェクトリーダーを務める。
2021年に一橋大学大学院 経営管理研究科(MBA)を修了したのち、現在は同大学院の博士後期課程に在籍しイノベーション・マネジメント / MOTの研究に従事。
その他、メディア連載やイベント協力などを務める。

黒田 そうですね。我々は先程申し上げたように、必ずしもテクノロジー寄りではないので、全社員がマーケティングであったり、クリエイティブに関わったりする会社だと思っています。先ほどお話しした社内副業の制度なども、人事部のメンバーがつくったものですが、そういう新しいことにチャレンジする人を奨励しています。ちょっと危ない言い方ですけれど、求める人材像を「誠実な変態」と表現しています。

この人物像はクリエイターだけに求めているのではなく、私たちは世の中や顧客に対して新しい価値をつくるために集まっているので、そこに対して誠実じゃなきゃいけない。でも、誠実って、普通にやると、これも少し言い方が悪いですが「クソ真面目」みたいになってきて、新しいものにチャレンジしにくくなる。だから「変態」になるのです。

たとえば今度、新商品のハサミが出ます。その開発者はハサミが好きすぎて、日本中のハサミを買って、使う時の音をマイクで録音して、どの音が良いとか試していました(笑)。そのうちにその人から商品のアイデアや構造案が出てきて、社内でも共感する者が出てきて、みんなで盛り上げてつくろうという流れになったのです。「変態」と言っても奇をてらうのではなく、顧客や商品、組織や社会に対して誠実に突き詰めていく変態であってほしいです。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録