ネプラス・ユー京都2024 #07

生成AI、ロボットはマーケティングをどう変える?アンドロイド権威の石黒浩氏が語る未来【ネプラス・ユー京都2024レポート前編】

前回の記事:
「誠実な変態であれ」コクヨ黒田社長が語るヒット商品開発の真髄【ネプラス・ユー京都2024レポート】
 関西のマーケターを中心に「知識と情報、経験を繋ぎ、共創を生み出すこと」を目的としたマーケティングカンファレンス「ネプラス・ユー京都2024(主催:ナノベーション)」が5月20~21日、京都(京都テルサ テルサホール)で開催された。

 2日目のキーノートセッションでは世界的なロボット研究の権威で、自身や著名人の精巧なアンドロイド制作でも知られる大阪大学教授の石黒浩氏がスピーカーとして登壇。AVITA 代表取締役社長 CEO/CTO としてアバターの社会実装も目指す石黒氏が見るテクノロジーの最先端と、生成AIの登場で重要性が増す「人間理解」とは。それらはマーケティング領域にはどのように関わり、活用できるのか。 Deloitte Consulting パートナー 執行役員の馬渕邦美氏が切り込んだセッションを、前後編に分けてレポートしていく。
 

生成AIベースにロボット、アバターの世界が拡大


馬渕 今回は「クリエイティブ・ジャンプ」をテーマに、拡張し続けるAIの観点からマーケティングのための人間理解を紐解いていきます。めちゃくちゃジャンプするセッションになるんじゃないかと期待しています。まずは石黒先生の自己紹介をしていただけますか。

石黒
 皆さん、よろしくお願いします。メインの仕事は大阪大学の教授をしております。もう30年くらいロボットの分野で、特に日常生活の中でいろんな人を支援するロボットの研究開発をしてきました。ChatGPT、AIの進歩で今後さらに、いろいろな話をするロボットが登場すると思っています。今日はそういったロボットやアバターの技術を社会実装するAVITAの代表取締役としても登壇させていただいており、深い人間理解に基づくマーケティングについても含めてお話できればと思います。
 
AVITA 代表取締役社長 CEO/CTO
石黒 浩 氏

 1963年、滋賀県生まれ。ロボット工学者。大阪大学大学院基礎工学研究科教授(大阪大学栄誉教授)、ATR石黒浩特別研究所・客員所長(ATRフェロー)、ムーンショット型研究開発制度プロジェクトマネージャー、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー。
遠隔操作ロボット(アバター)や知能ロボットの研究開発に従事。人間酷似型ロボット「アンドロイド」研究の第一人者。2007(平成19)年に英Synectics社の「世界の100人の生きている天才」で日本人最高位の26位に選ばれる。2011年に大阪文化賞受賞。2015年文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。2020年立石賞受賞。『アバターと共生する未来社会』など著書多数。アバターの社会実装を目指し、2021年6月にAVITA株式会社を設立、代表取締役社長CEO/CTOに就任。

馬渕 私も自己紹介させていただくと、一般社団法人 Metaverse Japan代表理事という肩書きがありますが、キャリアそのものは経営者、マーケティング、そしてエマージングテクノロジーという三本柱でやってきており、現在もデロイト社で役員をしています。PwCやMeta(旧Facebook Japan)の役員、オグルヴィという外資系の広告会社の社長をやっていたこともあり、そういうマーケティングキャリアもあるということで、本日は登壇しています。

最初に私の方から、昨今のテクノロジーの潮流について少しお話しします。過去から振り返ると、インターネット、そしてスマートフォンが働き方や生き方、ライフスタイルまで大きく変えました。現在と未来に目を向けると、ブロックチェーンやメタバースなどが複合的に今後10年ぐらいの新しい世界観をつくっていくと考えます。

加えて生成AIの市場が大きくなってきており、ChatGPT、GoogleのGemini、そして、Claude3といった次世代のAIが時代を動かしていくでしょう。これらはさらにモデルが大きくなっていて、人間が一生に学習するパラメータ数よりも多く学習しており、うまく活用すれば間違いなく、AIの方が人間より賢いという場面が増えていきます。
 
Deloitte Consulting パートナー 執行役員
馬渕 邦美 氏

2009年:世界No2広告代理店グループのオムニコムのデジタル・エージェンシーTribal DDB Tokyo ジェネラル・マネージャーに就任。日本における事業の立ち上げを成功させる。
2012年:WPPグループである世界No1広告代理店オグルヴィ・ワン・ジャパン、ネオ・アット・オグルヴィの代表取締役に就任。オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャ パン・グループのデジタルビジネスを牽引。グループの再生を成功させた。
2016年:オムニコム・グループのNo1PRエージェンシーであるフライシュマン・ヒラード SVP&Partner。
2018年:Facebook Japan (META) Director / 執行役員
2020年:PwC Consulting パートナー 執行役員
2024年:Deloitte Consulting パートナー 執行役員 より現職。
•日本ディープラーニング協会 有識者会員
•一般社団法人 Metaverse Japan代表理事

書籍:
2013年 データ・サイエンティストに学ぶ「分析力」 日経BP社
2016年 ブロックチェーンの衝撃 日経BP社
2022年 東大生も学ぶ「AI経営」の教科書 東洋経済新報社
2022年 Web3新世紀 デジタル経済圏の新たなフロンティア 日経BP社
2023年 Generative AIの衝撃 日経BP社
2024年 AI時代のベンチャーガバナンス 日経BP社

先日、話題の半導体メーカーNVIDIAのカンファレンスが米国サンノゼで開催され、私と一緒に登壇した楽天証券の方が、まだPoC(概念実証)の段階ではありますが、生成AIを使ったアバターで商品説明などのコミュニケーションができるサービスを発表していました。

たとえばAIに対して、「言ってはいけないこと」を言わないようにコントロールする「ガードレール」と呼ばれる仕組みを搭載して、独自の言語モデルをつくれる時代になってきています。また、最近ではNVIDIAも生成AIで会話やコミュニケーションができるロボットの開発を進めていることを明らかにしており、このように生成AIがベースOSとなってロボットやアバター、メタバースなどと繋がっていくのだろうと思われます。

そういった中で、石黒先生もロボットの研究を通じて「人間とは何か」という問いを常に探究していると思います。本日は人間理解とマーケティングの観点からも伺いたいと思いますので、それでは先生、よろしくお願いします。

石黒 冒頭でも紹介したように、メインの仕事は阪大教授ですが、そのほかにも京都のATR(国際電気通信基礎技術研究所)でロボット研究所の所長、内閣府のプロジェクトのプロジェクトマネージャー、それからAVITAというアバターでのオンライン接客サービスを開発・運用するスタートアップの代表も務めています。これらのすべてでアバターの研究開発と社会実装に取り組んでいるところです。

ChatGPTがリリースされる以前、最も人間らしいアンドロイドだったのが、ERICAというATRで開発したロボットだと思います。たとえば、受付に来た人と会話することで、たくさんのセンサーと人間らしい表情や動きが組み合わさって、人間らしく自然に会話できるロボットです。

  

ただ、目的と場所を限定しないとうまく会話ができなかったので、そこにChatGPTのような大規模言語モデルを使えば、どこにいってもしっかりと話せるようになります。しかし、大規模言語モデルの最大の欠点はローカルな情報が入っていないということです。コモングラウンドとも言いますが、本日もここで、対談形式で会話をし、この会場や環境の中でいろんな情報が共有されています。そういった、その場その場でのローカルな情報までを学習することは、大規模言語モデルはできていないのです。ただERICAであれば、たくさんのセンサーで、誰がどこにいてその周りの天気がどうなっていて、ということを認識しながら話すことができるので、今後はローカルな情報も網羅しつつ人間らしく話をするというロボットが出てくると思います。

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