ネプラス・ユー京都2024 #08

アバターで売上7倍、マーケティングへの実装をロボット学の石黒浩氏が解説【ネプラス・ユー京都2024レポート後編】

前回の記事:
生成AI、ロボットはマーケティングをどう変える?アンドロイド権威の石黒浩氏が語る未来【ネプラス・ユー京都2024レポート前編】
 関西のマーケターを中心に「知識と情報、経験を繋ぎ、共創を生み出すこと」を目的としたマーケティングカンファレンス「ネプラス・ユー京都2024(主催:ナノベーション)」が5月20~21日、京都(京都テルサ テルサホール)で開催された。

 2日目のキーノートセッションでは世界的なロボット研究の権威で、AVITA 代表取締役社長 CEO/CTOとしてアバターの社会実装も目指す石黒浩氏がスピーカーとして登壇。Deloitte Consulting パートナー 執行役員の馬渕邦美氏と、生成AIやアバター、ロボットが社会やビジネスをどう変え、マーケティングにどう関わっていくかについて迫真のセッションを展開した。後編の本稿では、アバターのマーケティングへの活用事例とその効果について語ったセッション後半をレポートする。
 

違う人格になって違う仕事ができる


馬渕 これまでのお話(前編)からは、アバターを使えば誰もが常人を超えた能力でさまざまな活動に自在に参加できる未来が見えてきました。実際に教育や医療の面で導入が進んでいますが、ビジネスやマーケティングにはどのように活用できるのでしょうか。

石黒 アバターを使えば、たとえば主婦の方が在宅で少し働くということもできます。最近のスーパーはセルフレジが普及し、対話サービスが無くなってきましたが、それが復活することになるのではないでしょうか。私は以前、パン屋でパンを売っていたんですが、もし私がこの姿で売っていたら子どもは泣いちゃうんですけど、可愛いアバターが可愛い声で売ったら、パンが売れますよね。

これはすごく重要なことです。アバターがあれば、違う自分になって違う仕事ができます。みなさん、働いている時や家庭にいる時、子どもと遊ぶ時など、違う人格になって違うサービスを提供していると思います。アバターの「仮想化実社会」では、現実と違って、失敗してもSNSの別アカウントに切り替えるように、別の自分となって仕事ができるのです。

日本はインターネットや仮想通貨など新しい技術を開発しても、なかなか普及させられなかったのですが、このアバターによる仮想化実社会は、絶対に日本から世界に普及させたいと思っています。人間型ロボットの研究開発は日本が一番盛んですし、この文化的背景をもとに、日本が得意とするロボットやCGキャラクター、そしてインターネットを組み合わせれば、新しいマーケットを起こして世界を変えていけます。
 
AVITA 代表取締役社長 CEO/CTO
石黒 浩 氏

 1963年、滋賀県生まれ。ロボット工学者。大阪大学大学院基礎工学研究科教授(大阪大学栄誉教授)、ATR石黒浩特別研究所・客員所長(ATRフェロー)、ムーンショット型研究開発制度プロジェクトマネージャー、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー。
遠隔操作ロボット(アバター)や知能ロボットの研究開発に従事。人間酷似型ロボット「アンドロイド」研究の第一人者。2007(平成19)年に英Synectics社の「世界の100人の生きている天才」で日本人最高位の26位に選ばれる。2011年に大阪文化賞受賞。2015年文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。2020年立石賞受賞。『アバターと共生する未来社会』など著書多数。アバターの社会実装を目指し、2021年6月にAVITA株式会社を設立、代表取締役社長 CEO/CTOに就任。

アバターでもうひとつ大事なのは、ダイバーシティとインクルージョンを実現できるということです。差別というものは肉体に由来します。肌の色、目が見えない、手足が不自由など、肉体が差別の一番の原因です。でもアバターを使えば人間は肉体的制約から解放され、誰もが認め合い、繋がり、共に生きる社会を実現することができる。前編でも言ったように、僕はこれが人間の生きる目的だと思うのです。

馬渕 アバターによって人間を肉体的制約から解放して、誰もが認め合い繋がり、共に生きるという目的を実現する。そのために先生は、AVITAを設立されたのですね。

石黒 はい。私は何十年も色々な会社とロボットの市場創造をやってきましたが、いきなりロボットでマーケットを切り開くのは難しいのです。まずみんながアバターで働くことに慣れる必要があります。CGキャラクターを使ったアバターがあれば、家でパソコンを開くだけですぐに働けますし、狭い店舗でもタブレットを置くだけで接客できます。

成功事例も出てきていて、たとえば「保険市場」というサイトで採用されています。アバター保険相談というサービスでは、初期の接客の9割ほどをアバターでしており、アバターの方が人間よりも売上が伸びています。生命保険の場合、家庭の事情や健康、お金などデリケートな内容を打ち明けるので、生身の人間よりもアバターの方が気楽に話せるんです。アバターの方が自己開示しやすい、特に高齢者や自閉症の子などはアバターでないと話ができないということも、これまでの研究で明らかになっています。



接客する側にもメリットがあります。特に新人スタッフは緊張や困惑の様子が表情や態度に出てしまいがちですが、アバターを使うことで、モニターを見ながら落ち着いて接客できます。このため、ベテランと新人とでほとんど成績が変わらない、むしろ新人の方がゲーム感覚で成績を伸ばす傾向もあり、売上がすごく上がります。スタッフのトレーニングや評価にもアバターは活用できます。

東京、大阪、福岡の一部ローソン店舗ではセルフレジにアバターを置いて、お客さんが店員さんに聞きたいことがある時に呼び出せます。このアバターは複数店舗を掛け持ちして、障害者を含め色々な人が働いています。その結果、車椅子使用者が健常者で働いている人よりも多く給料をもらうことができるのです。海外の人が時給の高い東京の深夜帯に働くこともできるし、文化の違いや言葉の壁も乗り越えられる可能性があります。このように、色々な人の可能性を広げてくれるのがアバターです。

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