マーケティングアジェンダ2024レポート #02

YOASOBIのヒットをフェーズごとに徹底解剖、最適解を探し続けることの大切さ【マーケティングアジェンダ2024レポート】

前回の記事:
ファミマ 足立光氏と日経BP 品田氏に学ぶ「話題化は炎上と紙一重だからこそ、一歩踏み込む勇気が大事」という視点【マーケティングアジェンダ2024レポート】
 国内外のブランド企業などのトップマーケターが集結する日本最高峰のマーケティングカンファレンス「マーケティングアジェンダ2024(主催:ナノベーション)」が2024年6月19日から22日にかけて、沖縄県・読谷村(グランドメルキュール沖縄残波岬リゾート)で開催された。

 キーノートでは「YOASOBI仕掛け人が語る、ヒットの舞台裏」と題して、ソニー・ミュージックエンタテインメント Echoes プロデューサーの山本秀哉氏と屋代陽平氏が登壇した。今や誰もが知る存在となったYOASOBIは、驚くスピードでヒットを生み、話題をつくり、瞬く間にグローバルで活躍する存在へとなった。なぜグローバルでも話題となる存在まで躍進することができたのか。ヒットまでの道のりで、どのような思考があり、どのようにファンを巻き込んできたのか。YOASOBIの仕掛け人であり、プロジェクトの立ち上げから手掛けている山本氏と屋代氏に、note プロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏がヒットの舞台裏を深堀したセッションをレポートする。
 

YOASOBIプロジェクトの誕生秘話、「0~1」のフェーズ


徳力 まずはYOASOBIのヒットの仕掛け人である2人の自己紹介をお願いします。

山本 ソニー・ミュージックエンタテインメントの山本秀哉です。2012年に新卒で入社し、同席している屋代と同期です。YOASOBIのプロジェクトを始めて、もう5年ぐらい経ちますが、普段は音楽のレーベルで宣伝や制作などを担当しています。
 
ソニー・ミュージックエンタテインメント Echoes プロデューサー
山本 秀哉 氏

 2012年ソニーミュージックグループ入社。CDやゲームのパッケージ制作業務を経て、現在はさまざまなアーティストの宣伝・制作業務に携わる。2019年よりYOASOBIプロジェクトの立ち上げに参画。

徳力 続いて屋代さん、お願いします。

屋代 同じくソニー・ミュージックエンタテインメントの屋代です。私は新規事業創出に長いこと取り組んでいます。その中で、2017年10月に新規事業として小説投稿サイト「monogatary.com(モノガタリードットコム)」(※1)を立ち上げ、「小説を音楽にする」というプロジェクトからYOASOBIを生み出して現在に至ります。

※1 monogatary.com(モノガタリードットコム):毎日更新されるお題に対して、ユーザーが小説・エッセイ・ポエム・俳句などを自由な形式で投稿し、それに対してコメントや挿絵などでリアクションができる投稿サイト
 
ソニー・ミュージックエンタテインメント Echoes プロデューサー
屋代 陽平 氏

 2012年ソニーミュージックグループ入社。音楽配信ビジネスを経たのち、2017年に小説投稿サイトmonogatary.comを立ち上げる。2019年、同サイトの企画の一貫でYOASOBIプロジェクトを発足。

徳力 今回はマーケティングアジェンダの全体テーマである「話題化のレシピ」をメインテーマとして、YOASOBIの誕生から現在までを「0~1」、「1~10」そして「10~100」というように、大きく3つのフェーズに分けて聞いていきたいと思います。まずは「0~1」の話から、YOASOBI誕生の経緯について教えてください。

屋代 先ほど自己紹介でも触れましたが、普段は音楽や、アニメーション作品、ゲームをつくっている当社にとっては新しい着眼点で、小説投稿サイト「monogatary.com」を2017年の10月に立ち上げました。

サイトの立ち上げ当時はいろいろな音楽アーティストや新人クリエイターなどと、どう距離を詰めていくかという方法論が議論されていました。たとえば小説家を目指していたり、ニコニコ動画のようなWeb上のプラットフォームでUGC(ユーザー生成コンテンツ)を生み出しているような新人クリエイターとの接点をいかにしてつくっていくかが会社としての命題になっていました。そこでWeb上でプラットフォームを設けてクリエイターとの接点を持つことが、将来のヒットをつくるためのポテンシャルになるのではないかと提案して、小説投稿サイトを立ち上げました。

ただ、なかなかそんな簡単な話ではなく…(笑)。2017年から約2年は投稿された小説を映像化してみたり、書籍化してみたりしていましたがあまりうまくいきませんでした。そこで自分たちは音楽の会社だから、音楽をやった方がスピーディーかつヒットの確率も高いのではないかとようやく気づき、YOASOBIの原型となるような企画を同期の山本に相談をもちかけたところからはじまりました。

徳力 屋代さんから同期の山本さんに企画をもちかけたんですね。

屋代 そうですね。会社全体としてはグループ連結で4700人くらいいますが、そのうち新卒の同期は18人くらいなので、それぞれどういう仕事をしているのかはなんとなく把握していました。そのとき、たまたま同世代が集まる飲み会があり、音楽の制作をしているチームの山本がいて「最近、何しているの?」と、話しかけてみました。新規事業ということもあり、プロジェクトとして予算があったので賞を獲った小説に対して楽曲とミュージックビデオをつくるという話をしてみました。

徳力 音楽の制作側としては新人をプッシュしていくときの予算がそこまでかけられないんですよね。
 
note noteプロデューサー/ブロガー
徳力 基彦 氏

 新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログとSNSのおかげで人生が救われる。
その際の経験を元に、書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版。noteやSNSを活用したビジネスパーソンのキャリア構築や、企業の広報やマーケティングのサポートを行っている。

山本 そうですね、最初から売れる見込みがあれば予算は出ると思いますが、実績もゼロからの新人だと予算を取るために会社をしっかり説得しなくてはいけません。そんな中で新人が楽曲を制作するための予算をプロジェクトとして持つことができるという内容だったので、とりあえずチャレンジしてみようとなりました。

徳力 新規事業の企画で小説を音楽にしたい屋代さんと、予算をかけて音楽をつくりたい山本さんの2人が、仕事の方向性とニーズがマッチして始まったプロジェクトなんですね。そこからYOASOBIが誕生したと思いますが、コンポーザー(作曲家)のAyaseさんは、どのように見つけてきたのでしょうか。

山本 2人で話す中でどういう人がよいかみたいな候補を挙げていきつつ、屋代がボカロをずっと好きだったので、ニコニコ動画やYouTubeなどでランキング動画を見ていたときにAyaseを見つけました。それで私のInstagramから直接DMでAyaseにアプローチしました。

Ayase本人に後から聞いたのですが、InstagramのDMは普段あまり見ていなかったようで、本当に見逃すところだったと言っていました。その後、Ayaseが決まった時点でどういう人に歌ってもらおうかと、たくさんの候補を話し合う中で、たまたまikuraが当社の新人発掘・育成セクションに所属していたこともあり、ボーカルは彼女がいいのではないかという話になったんです。

徳力 新人のアーティストがすでに存在していて、そこからレーベルに所属することでヒットしていくといった流れではなく、「monogatary.com」の小説を音楽にするという企画ありきでYOASOBIプロジェクトが進行していったんです。

屋代 そうですね。YOASOBIプロジェクトもサイトに投稿された小説の「賞」として楽曲化するのは予算的に2曲が限界だったので、とりあえず2曲をつくろうという企画でスタートしました。

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