リテールアジェンダ2024 #02

サントリー中村直人氏と店舗のICT活用研究所郡司昇氏が考える、リテールとメーカーのデータ活用最前線とは?【リテールアジェンダ2024キックオフ】

前回の記事:
リテールのマーケターが東京に集結「リテールアジェンダ2024」開催決定、データをインパクトあるアクションに変える【参加企業募集中】
 2024年11月11日から12日にかけて、国内外のリテールのマーケターとメーカーのマーケター、そしてパートナーをつなぎ、一気通貫のマーケティングを実現するためのカンファレンス「リテールアジェンダ2024(主催:ナノベーション)」が都内(大手町三井ホール)で開かれる。

 本稿はそれに先駆け、カウンシルメンバーであるサントリーの中村直人氏、店舗のICT活用研究所 郡司昇氏をゲストに招いて行ったキックオフセミナー(オンライン)の模様をレポート。リテールとメーカーのデータ活用に向け、現状の課題や今後の可能性などを語りあった白熱のセッションの一部をご紹介する。

 リテールアジェンダ2024のテーマは「Data to Impactful Actions」。さまざまな手法でビッグデータの収集が可能になった昨今、持っているだけで満足せず、インパクトあふれるアクションに繋げていくにはどうしたらいいのか。本稿を足掛かりのひとつとして、「リテールアジェンダ2024」でリテールとメーカーが共に成長していく新時代のデータ戦略を探ってほしい。

 ※10月31日まで申込み・視聴ができる見逃しアーカイブを無料配信中。申込みはこちらから
 

保有するデータの違いを生かすには


郡司 小売業のデータ分析の軸は大きく顧客軸、商品軸、店舗軸があります。昔から中心となるのは商品分析です。「売れ筋商品を入れよう」「需要予測して欠品がないようにしよう」や、あるいは店舗と掛け合わせて「県ごとに品揃えを変えよう」といった話はよくされてきました。そのレベルは企業によって大きな差がありました。

今はSNSで入手する情報も個人によって違う時代なので、注目されるのは、個々のお客さまのライフスタイルや興味関心、顧客軸を中心とした分析になります。

小売が持つデータを見ると、大きく分けて「マスターデータ」と「トランザクションデータ」があります。前者は商品マスター、顧客マスター、従業員マスターなど。後者は代表的なのがID―POS、Webログ、アプリログなどになります。分析用に貯めたデータをデータウェアハウスに入れ、在庫の最適化や自動発注、需要予測、棚割りの最適化、デジタルマーケティング、人事評価、ワークスケジュールなどに使ってきました。

10年ほど前からはカスタマーデータプラットフォーム、つまり顧客データを分析するための基盤ができて活用されてきました。ここでメーカーと協働する際に重要なのが商品マスターです。たいていはバイヤーがメーカーに依頼して入力してもらったものを、小売で最終チェックしてシステムに登録するのですが、悩みの多いところです。中村さんはその辺りに詳しいと思います。
 
店舗のICT活用研究所/小売DX合同会社 代表/代表社員
郡司 昇 氏

 1999年ランド設立。セイジョー(現ココカラファイン)とFC契約。 2007年セイジョー入社。調剤事業部課長→営業管理課長兼ココカラファインHD調剤担当で業務効率化・コスト削減・アライアンス等担当。2013年ココカラファインOEC社長就任。2016年ココカラファイン統合マーケティング部長兼任。 2018年4月~現職。ITベンダーの持つ最新技術をどのように小売業で価値を持たせていくかをベンダー、小売業双方の三方良しを実現する手助けをしている。

中村 今のお話を伺って、やはりお客さまに近い小売にこそデータは多いと思いました。メーカーは商品軸のデータはあってもB2B2Cが基本です。 卸への出荷、卸から小売というように自社製品の動きをトレースしていくことになります。そのデータはまさに商品マスターにも繋がるんですが、では「ライバルの商品にどんなものがあり、どんなカテゴライズで売れているか」を、マーケティングや経営指標の中に入れていくという流れになり、POSデータの整備が進んできました。

ただ、たとえば「サントリー伊右衛門」をAチェーンでは「サントリー伊右衛門」と登録していても、「伊右衛門500ミリペット」というように登録するチェーンもいると、商品を横串で見る時に難しさが出てきます。このデータの繋ぎ自体に、リソースを割かなければいけないので、やはり小売との連動、卸との連動となると、マスターデータの整備まではできていない企業が多いのが私の実感です。

この横串機能や仲介役を果たすベンチャー企業が出てきたり、経済産業省もプロジェクト化に動いたりしことがありましたが、なかなか統合は難しかったと記憶しています。
 
サントリー 支社長 リテールAI推進チーム シニアリーダー
中村 直人 氏

 1992年入社、2011年営業推進本部、2020年広域営業本部第2支社長、2023年データ戦略部部長兼務。

郡司 商品マスターの粒度にばらつきがあるのは昔からの課題で、解消しようという動きは出ては消えていましたが、ようやく形になりそうというところですね。小売としては発注ができて納品されて伝票が起きればそれでいいということが多く、そこにわざわざリソースを割こうという認識は、今でも薄いです。物流をスムーズにする目的で始まり、そこで止まってしまった感じです。

前職でカテゴリーキャプテン制度が始まった時の話をしたいと思います。カテゴリーキャプテンとは、たとえば洗剤なら、取扱量の多いメーカーさんに「今期はこういう商品が各社から出るので、こういう風な棚がいい」というような棚割りのパターンを分析・提案してもらう役割です。飲料ならサントリーさんが入るケースもありました。

なぜこの制度を導入したかというと、メーカーのほうが小売よりも、そのカテゴリーに関する各社の情報や生活者のトレンドをキャッチしているからです。キャプテンのメーカーだけが儲かるのでなく、カテゴリー全体の売上が上がるようにするための仕組みです。実際に導入してみたところ、やはりメーカーの持つ情報の深さは、小売とは全然違っていました。「棚割りを変えましょう」といった課題が生じた時に、メーカーと対話してお互いの長所を生かすことは大事だとすごく思いましたね。

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