ライジングキャンプ2024レポート #05

「泥臭いけど楽しい」元P&G出口昌克氏が語る、理想のマーケターへのマインドセット【ライジングキャンプ 2024レポート】

前回の記事:
「反省する人」だから成長できた、元P&G出口昌克氏が徹底する「Yes, And」思考法【ライジングキャンプ 2024レポート】
 若手マーケターに必要な議論と共創のための学びのキャンパス「ライジングキャンプ2024(主催:ナノベーション)」が2024年7月23日と24日に東京(東京大学 伊藤国際学術センター 伊藤謝恩ホール)で開催された。

 クロージングキーノートでは「理想のマーケターになるために~マインドセットのシフト~」と題して、ソーダストリームで日本オフィスを統括するジャパンカントリーマネージャーの出口昌克氏が登壇。同氏は、炭酸水の飲用習慣が根付いていない日本市場で、消費者の行動変容を促し、市場拡張を実現している。

 P&Gで執行役員マーケティング本部長、日本コカ・コーラでバイスプレジデントと要職を歴任してきたトップマーケターである出口氏が考える「理想のマーケター」とは何か。P&G時代の同僚でもあるFacebook ジャパン マーケティングサイエンス統括 執行役員の中村淳一氏をモデレーターに迎え、出口氏の思考を解き明かしていくセッションをレポートする。

 前編では、困難な課題に面した時には「Yes, And」の思考で取り組むことや、知識をスキルに変えるための方法について紹介した。後編では、チーム運営で持つべき視点や将来を予測した事前準備、若手マーケターへ向けた熱いメッセージについて紹介する。
 

チーム運営では一歩離れた視点で


中村 次のテーマは「チーム運営」です。理想じゃないマーケターが「同化する」ことで、理想のマーケターが「一歩離れた視点」になっています。リーダーシップというと、むしろ同化して一緒に取り組むというイメージがあったので意外でした。詳細をお伺いしてもいいでしょうか。
  

出口 上司や先輩から「なんかしろ」と言われると、皆さんもつい愚痴りたくなりませんか。「上司が2カ月先の仕事を2週間後までにやってほしい、と言ってきたんだけど。どうしよう…」といったようなことがありますよね。これくらいの愚痴であれば言うのはOKだと思いますが、あまりにも言いすぎるとチーム全体で悪い流れをつくるだけです。

一方で、自分ひとりだけ「いい子ちゃん」になってメンバーに「頑張ろぜ~!」と言っても、これはこれでチームの中で浮くだけなんですよ。
 
ソーダストリーム ジャパンカントリーマネージャー
出口 昌克 氏

 プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパンにて執行役員マーケティング本部長、日本コカ・コーラにてバイスプレジデントとして国内外計15のブランド管理経験を持ち、消費財ビジネスにおける中長期戦略立案を得意分野とする。2021年より現職。カントリーマネージャーとしてソーダストリームの日本オフィスを統括する。

皆さんの中で音楽のオーケストラをしている人がいたら、指揮者は曲のどういうタイミングでタクトを振っているのか教えてくれませんか。

参加者 学生時代に指揮者をしていました。大体、一瞬先を振っています。

出口 ありがとうございます。一番欲しい回答をいただきました。指揮者は一瞬先を見据える存在で、一歩前を進んでいるのです。プロジェクトが進み始めて、さあ頑張らなきゃという一歩手前の段階でチームに「頑張ろう」と言うと嫌がらないですし、気が引き締るんです。

「これはマーケターではなく、ビジネスリーダーの仕事ではありませんか?」と思うかもしれません。しかし、これができるマーケターこそチームを引っ張れる存在です。チームと同化して同じペースで走るのではなく、一歩引いて、少し離れた視点を持ってください。これは組織に対するマーケティングでもあるんです。

中村 チームとの距離感が離れすぎていてもだめで、少し前を行く感じなんですね。優秀なマーケターであればあるほど、知識もあるがゆえにチームのメンバーと戦ってしまったりします。
 
Facebook Japan マーケティングサイエンス統括 執行役員
中村 淳一 氏

 慶応義塾大学経済学部卒。現在京都芸術大学大学院芸術修士(MFA)在籍中。2002年に消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)入社、消費者市場戦略本部に所属。柔軟剤ブランド「レノア」の日本立ち上げのコアメンバーや、かみそりブランド「ジレット」、店舗営業チャネルシニアマネージャーを経たのち、13年からシンガポールにてグローバルメディア、アジア地域ビッグデータ担当のアソシエイトディレクターに着任。17年6月にフェイスブック ジャパン(Meta)入社。マーケティングサイエンスノースイーストアジア統括。他JMAインサイトハブコアメンバー等。

出口 そうですね。チームと喧嘩して仲が悪くなってしまうと、あいつのことが嫌いだからという理由でうまくいかなくなってしまったり、上司とも真正面から戦ってしまったりして、嫌われてしまいます。これはもったいないので、適度に甘噛みするぐらいがちょうどいいんです。

中村 ここまで出口さんの話を聞いていると、知識や論理的思考は大前提にありながら、実際にチームを動かすという観点では情熱や人間味も重要ということが伝わってきますね。

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