B2Bアジェンダ2024レポート #04

ブランド価値をビジネス成長に結びつける、B2Bマーケターに求められる役割とは?【B2Bアジェンダ2024レポート】

前回の記事:
ヤンマー、中外製薬、横河電機が実践する、B2Bビジネスのためのブランド戦略の裏側【B2Bアジェンダ2024レポート】
 国内最大級のB2B特化型マーケティングカンファレンス「B2Bアジェンダ2024(主催:ナノベーション)」が 9月12日、13日に鹿児島(鹿児島センテラス天文館)で開催された。

 キーノートでは「ビジネスに直結するBtoB企業のブランド戦略と成果の裏側」と題して、ヤンマーホールディングス ブランド部コミュニケーション部 部長の三田村有香氏、中外製薬 広報IR部長の宮田香絵氏、横河電機 執行役常務 マーケテイング本部本部長 CMO 博士(技術経営)の阿部剛士氏がスピーカーとして登壇。モデレーターをJTB 執行役員ブランド・マーケティング・広報担当 兼 CMOの風口悦子氏が務めた。

 前編では、ヤンマーホールディングスの「ヤン坊マー坊」のリニューアルや中外製薬がイノベーション企業としてスローガンを策定したブランド戦略の事例を中心に紹介した。後編では、横河電機がブランドデザインを刷新した事例と各社がブランドをどのように捉え、ビジネス成長に結びつけているかについて詳しく紹介する。
 

1000以上あるブランドを断捨離した横河電機


風口 横河電機さんはブランドデザインを重視して、1からつくり直す取り組みをされたそうですね。

阿部 9年前に私が横河電機に入社して驚いたのは、当時1000以上ものブランドがあったことです。同じ業界の競合でも200とか300ぐらいなので、それよりも多かったんです。

1000以上のブランドがあると、それらが何を可能にするのかわかりませんし、ラインアップとしてまったく体系化されていなかったのでソリューションを提供できるように見えませんでした。さらには非常にコストもかかる状況でした。こういったことが散見されたのが8年前です。
 
横河電機
執行役常務 マーケテイング本部本部長 CMO 博士(技術経営)
阿部 剛士 氏

 1985年、現インテル株式会社入社。インテル・アーキテクチャ技術本部長、マーケティング本部長、技術開発・製造技術本部長を歴任。2009年以降、取締役 兼 副社長執行役員に就任。2016年、横河電機株式会社入社。マーケットコミュニケーション、マーケットインテリジェンス、ブランディング、知財、新規事業開拓、標準化戦略、オープン・イノベーション、工業デザイン、政府渉外などを傘下にマーケティング本部を統括。

競合他社と比べたところ、当社では企業のケイパビリティに焦点を当てていないことや、訴求ポイントは個別の製品ではないことが弱みとして見えてきました。さらに、総合的な傘となるブランドがなく、それぞれのブランドのロゴタイプにもほとんど共通性が見られないことを社長に報告しました。

その結果、我々が提供する包括ブランドとして「Oprex」にすべてを集約しました。つまりは、断捨離を実行したんです。「Oprex」は「Operational」「Experience」「DX」の造語です。

我々がブランドを体系化するために次のようなベースをつくりました。
 
L1「Business Brand」:Oprex
L2「Category Name」:Oprex Transformation
L3「Family Name」:Oprex Connected Intelligence
L4「Generic Name」:Oprex Carbon Footprint Tracer CF-YD

1から4までの階層をつくり、一番上がブランド、それ以外はネームとしました。また、それまではエンジニアが開発したものは自由に名前をつけていい仕組みになっていたのですが、それを防ぐために「GMS(グローバルマネジメントシステム)」という社内規定書をつくりました。

そこにはブランドやネームの管理規程が記載されています。さらにネーミング委員会を立ち上げて、勝手に名前をつけさせないようにルールを作成し、仕組み化しました。当初、事業部は猛反対でしたが、ロジックは通っているので最終的には納得してもらえました。

加えて、当時はコーポレートアイデンティティが曖昧になっていたり、ブランドビジョンが鮮度を失っていたりしていたので、その整理整頓や体系化、Webサイトの刷新も含めてすべてやり直しました。

ブランディングで一番大事なステークホルダーは社員です。ブランドというと外に目がいきがちですがそれは危険です。社員が納得しないものを表に出すなというぐらいの気持ちで取り組む必要があります。

その結果、世界最大のブランディング会社であるインターブランドジャパンが2018年に実施した、日本初のブランディング活動を評価するアワード「Japan Branding Awards」を受賞しました。

インダストリアルデザインの父と言われ、口紅から機関車まで、特に流線型のストリームラインを流行させたフランス人のレイモンド・ローウィー氏がつくった「MAYA理論」があります。MAYAは「Most Advanced Yet Acceptable」の頭文字からなり、簡単にいうと新しく斬新でも馴染みやすいバランスという意味です。私はこの言葉がけっこう好きで。

今回のテーマが「ブランド」なので、ブランドデザインの「デザインとは何か?」についても触れると、私の定義では、デザインは目標達成のための設計(施策)を具体的な形に落とし込むことです。そのため、アーティスティックな創造だけがデザインではないと考えています。

といったことを、横河電機のブランド戦略の軌跡を体系的にした書籍として『未来への共創 Co-innovating tomorrow 横河電機が挑んだリブランディングの軌跡』(日経BP)にまとめました。よろしければ、お手元に取っていただければと思います。ちなみに、私には一銭も入りません(笑)。

風口 社長からのトップダウンであっても、1000以上あったブランドを統率するのは難しいと思いますが、それを推進していくためのコツはありましたか。
 
JTB 執行役員ブランド・マーケティング・広報担当 兼 CMO
風口 悦子 氏

 2023年9月より株式会社JTBに入社、ブランディング・マーケティング担当執行役員、チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)に着任し、ツーリズム事業に加えてB2B領域のマーケティング強化やグローバルブランドの強化を推進する。前職の日本IBM株式会社では、執行役員チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)、パフォーマンス・マーケティング・ディレクター、クラウド・AI担当プロダクト・マーケティング・ディレクターなどマーケティングの要職を歴任。システムズ・エンジニアや営業職の経歴も持つ。

阿部 まず会社のトップであるCEOが、そういう気になるのかどうかです。それで8割ぐらいが決まります。そのあとはロジックに落とし込んでいくしかありません。そこまでアプローチできれば一切異議を申し立てできないので、そこはまったく苦労しなかったですね。

ただ、やっぱり現場が重要です。現場の人たちのモチベーションが下がると暴動が起こります。クレームがあった場合は、「何か代わりの案を持ってきてください」と言うと黙り込みます。ということを実行していくと、断捨離は進むんです。

それから当時、デジタルマーケティングも始めたので、それもひとつの理由にしました。昭和の時代は営業マンが製品カタログ持っていき、説明して見積もりを出すことが当たり前でした。ただ、顧客の購買行動にも変化が起こっており、今のBtoBの世界では顧客自らが検索して調べます。

米国では6割以上の顧客が自分で探し、営業パーソンが来るときにはほぼ導入が決まっているという調査結果もあります。そのためにデジタルを活用した営業や、デジタルマーケティングを推進しました。そうすると反論ができないわけです。そこにも当然投資が入りますが、大した投資ではないと説明し、全体の戦略の中にこれらを落とし込んでいきました。

風口 ブランドを変えるからには、しっかりしたブランドアイデンティティを形成しなければいけませんが、そこが難しいところです。実際に、それを横河電機が実現されたことは本当に素晴らしいと思います。

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