ライジングアジェンダ2024レポート #04

「ブランドは細部に宿る」資生堂 清水明子氏が明かす、徹底したこだわり【ライジングアジェンダ2024レポート】

前回の記事:
資生堂 清水明子氏が語る、マーケターとして必要な「感性」の磨き方【ライジングアジェンダ2024レポート】
 次世代を担うマーケターが一堂に集う「ライジングアジェンダ2024(主催:ナノベーション)」が2024年12月3日、4日に都内(ベルサール新宿グランド)で開催された。

 公式セッションでは「感性と論理を使いこなすマーケターになるには」と題し、資生堂ジャパンクレ・ド・ポー ボーテ 事業部 マーケティング ヴァイス プレジテントの清水明子氏が登壇。清水氏はP&G、日本ロレアル、ペルノ・リカール、LVMH傘下のロロ・ピアーナなど幅広いブランドで経験を積み、戦略設計とクリエイティブな感性を融合させて成果を上げてきた。モデレーターは花王 デジタル戦略部門 デジタル戦略企画センター 戦略企画部の廣澤祐氏が務めた。

 前編では、マーケターとしての重要な思考や感性を磨き続けるために「本物」に触れ続けることの重要性を紹介した。後編では、組織として感性を高める方法と現在の市場環境にどのように対応するべきか。最後には若手マーケターに対して熱いメッセージが届けられた。
 

組織として「感性」をいかに高めるか


廣澤 本物に触れることで感性を磨く重要性は理解できました。しかし、感性は暗黙知になりがちで、これを組織として形式知化するのは非常に難しい課題です。では、感性を組織の共通能力や形式知へと変換するには、どのような取り組みが求められるのでしょうか。

清水 これは私自身もまだ完全には達成できていない課題ですが、2つのアプローチがあると考えています。
 
資生堂ジャパン クレ・ド・ポー ボーテ 事業部 マーケティング ヴァイス プレジテント
清水 明子 氏

 新卒でP&Gマーケティング本部入社。マックスファクター、パンテーン等を担当後、読売新聞文化事業部に転職し美術展のマネージメントに従事。日本ロレアル、クラランスで化粧品のマーケティングに携わったほか、シャンパーニュ、ファッション等ライフスタイル領域でマーケティングに従事し、戦略設計と感性によるクリエイティブ思考の双方を強みとする。直近はLVMH傘下のロロ・ピアーナにてVice President Marketingを務めたのち、2022年資生堂入社。※登壇時:プレステージブランド事業本部 マーケティング本部長

ひとつは、「隣でやって見せる」という方法です。たとえば、リーフレットの問題点を言葉で指摘しても、制作者自身は良いと思ってつくっているため、伝わりにくいことがあります。しかし、私自身が別のものをディレクションして、実際に制作して見せることで、その違いを実感してもらえます。

もうひとつは、環境を整えることです。資生堂に入社したとき、ブランド・キャラクターの異なる複数のブランドであるにもかかわらず、すべての資料が同じフォント、同じ赤のヘッドライン、ボールドのゴシック体で表現されていることに違和感を覚えました。こうした細かい点にも含めて、視界に入れるものをコントロールして感性を整えるという方法もあると思います。

日々の生活の中で目にするものや触れるものが美しく整っていなければ、最終的にお客さまに提供するエグゼキューションの段階までブランドらしさをコントロールすることはできないと考えています。

廣澤 細かなフォントへのこだわりやカラーコードなど、社内資料をつくるときも適当にはできないですね。このように細部にまでブランドを体現することについて、清水さんはどのようなきっかけで意識されるようになったのでしょうか。

清水 日本ロレアル時代の上司の影響が大きいですね。損益計算書を読むのは苦手だったけれど、審美眼は抜群だったフランス人の上司がいました。今でもフランスに行くと会うのですが、その人はパワーポイントでつくった資料の表紙のフォントが美しく揃っていないと、中身を一切読んでくれないほど徹底していました。

マスカラのパッケージひとつにしても、「レクサスのドアのように静かに『カチッ』と閉まる音でなければならない」と、音へのこだわりも徹底していました。どの角度で金型を削ればその音を実現できるのか、まったく手がかりがない状況でしたが、こうした経験が非常に大きな学びとなり、今につながっています。

さきほど述べた「比較級」ではなく「絶対値」の考え方についても、同じフランス人の上司から学びました。たとえば、口紅のビジュアルを撮影するとき、背景の表現ひとつをとっても、何十枚もの写真の中から最も美しいものを選ぶ。最初は何が「整っていないビジュアル」なのかわからなかったのですが、作業を繰り返すうちに、全員が「これだ」と思えるビジュアルが見極められるようになりました。

廣澤 組織として、細部にまで徹底してこだわることが必要だということですね。若い世代はラグジュアリーな体験をする機会が限られているかもしれません。そのなかで、良いものに触れる機会をどのようにつくればよいでしょうか。
 
花王 デジタル戦略部門 デジタル戦略企画センター 戦略企画部
廣澤 祐 氏

 2015年に新卒として花王へ入社し、広告宣伝部(現メディア企画部)にてデジタルマーケティングを3年経験したのち、化粧品ブランドのマーケティングに3年従事。2021年1月より新設されたDX部門にて社内のデジタル化を推進。※登壇時:DX戦略部門 インタラクティブプラットフォーム統括センター オウンドメディアインプリメント部
【その他の経歴】
2020年より公益社団法人日本アドバタイザーズ協会デジタルマーケティング研究機構 U35 Project プロジェクトリーダーを務める。2021年に一橋大学大学院 経営管理研究科(MBA)を修了したのち、現在は同大学院の博士後期課程に在籍しイノベーション・マネジメント / MOTの研究に従事。その他、メディア連載やイベント協力などを務める。

清水 ラグジュアリーは必ずしも高級品という意味ではありません。たとえば、買い物ひとつにもどれだけこだれるかが重要です。自分なりにこだわりを持って選び、使い、食べる。そうした体験を蓄積していくことで、自分の中の基準が形成されていくのだと思います。

廣澤 必ずしもすべてにお金をかける必要はなく、まず自分がこだわりたい分野を徹底的に追求してみるわけですね。私は20代の頃、業界の先輩から「借金してでも飲みに行け」と言われました。今の時代ではコンプライアンス上、そのようなアドバイスは難しいかもしれませんが、当時は貯金がほとんどなくなるまで良いものを食べ歩いた経験があります。そうすると、上司との会話も広がるようになりました。清水さんがこだわっているものは何ですか。

清水 食器や洋服などいくつか挙げられますが、一番は日常で使う器です。いかに楽しく心地よい空間で生活を送るかを大事にしています。以前、家で使う丼で気に入ったデザインが見つからず、かれこれ5年ぐらい探していました。本当に好きなものを選びたいですし、心が動かないものに対して妥協したくないなと思っています。

廣澤 上司の立場になってから、組織として感性が共有されていく瞬間を感じたことはありますか。
  

清水 資生堂に入社直後は、雑誌広告一つひとつのフォントやカラーの指摘をしていました。しかし、時間が経つにつれて、そういった指摘が必要なくなり、私が直接関与していない制作物でも、ブランドらしい表現が揃ってきたと感じることが増えました。組織として感性を共有していくには、1年弱はかかったと思います。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録