Rising Academy powered by ノバセル ~若手マーケターの登竜門~ #11

お茶だけじゃない伊藤園の重要商品「野菜飲料」。追求してきた「こだわり」と新ユーザー開拓のジレンマとは?

 

「古い飲み物」から「自分たちの飲み物」へ


―― 「栄養」を求める市場の声にスピーディーに対応されたわけですね。

 その通りです。健康性と美味しさの両立は、当社の野菜飲料がずっとこだわって追求してきたことでもあります。たとえば原料の一部に使っている「朱衣(しゅい)」という人参は、約50種から選び抜いた伊藤園専用人参で、通常の人参よりBカロテンや糖度が高く、アクが出にくい人参です。さらに手間のかかる「茹で(ブランチング)」の工程を入れることでアクを除去し、自然な甘みを引き出す独自製法を採用しています。茹でた人参はBカロテンの吸収率を高めることが研究で実証されています。このように、栄養面や安全性、美味しさへのこだわりは、競合に差別化できるポイントだと考えています。
 
伊藤園 マーケティング本部 野菜・果汁・乳酸菌・機能性・フードブランドグループ ブランドマネジャー
山口哲生 氏

―― 野菜飲料の完成度を高めることにこだわってこられた印象です。にもかかわらず売上が停滞しているのはなぜなのでしょうか。

 当社に限らず、野菜飲料全体の市場規模が停滞している背景として考えられるのが、昨今の健康ニーズの多様化です。乳酸菌、特保・機能性表示食品、カット野菜、茶系に至るまで、あらゆる健康のための選択肢が広がっており、その中でかつては「健康の代名詞」だった野菜飲料が、ある意味埋没してしまっています。若年層や女性のユーザーを取り込めておらず、彼ら・彼女らに「自分たちの飲み物だ」と感じてもらえるようなコミュニケーションが必要です。

 一方で難しいのは、現在の野菜飲料市場を支えてくれているユーザーのメインが中高年層で、定期購入率が非常に高いということです。そういったヘビーユーザーの方は変化に敏感で、以前「1日分の野菜」をトレンドに合わせようと少し商品改良したところ、多くのクレームが寄せられました。良かれと思ってのことだったのですが、ヘビーユーザーにとっては改悪だったのです。いかにヘビーユーザーに支えられているか、ありがたく感じるとともに、勉強になった出来事でした。

 当社の野菜飲料は長年にわたりその完成度を高めてきましたが、常に市場の要請に応えるべく改良を重ねていく必要があります。けれどそのバランスは、相当に慎重にとらなければならないと思っています。

―― 若年層や女性層ユーザーを取り込むために、具体的にどんな取り組みをされていますか。また今後の方針を教えてください。

 2024年度にチャレンジしたのがシーズナル商品の投入です。季節感と鮮度のあるサブブランドの新商品を店頭に並べることで関心を引き付け、レギュラー商品にも目を止めてもらう狙いで、この冬は第3弾の「1日分の野菜 にんじん&しょうがMIX」を期間限定販売し、第4弾も準備中です。特に女性ユーザーに対して一定の手応えを感じています。

 また、トマト飲料の市場が急激に拡大しています。伊藤園でも数十カ月連続で売上が伸びており、要因を分析するとトマトの美容効果に注目が集まっており若年層を中心に新たなユーザーに飲まれていることが分かりました。伊藤園の研究では、茹で人参をベースとした野菜飲料の美肌効果や、便秘解消といった効果が確認されているので、「美容」という切り口で野菜飲料全体の見せ方やコミュニケーションを新たにしていく取り組みを、今春から実施していきたいと考えています。

 当社における野菜飲料の位置づけは、売上比率では圧倒的上位を占めるお茶飲料や、コーヒーに次ぐ3位というのが現状ですが、「健康創造企業」を掲げる当社にとって絶対に外せない重要な商品です。伊藤園は「モノづくり」においては自信がありますが、常に市場にアンテナを張り、新しい情報を切り口に見せ方を工夫していくことに、今後は一層注力していきたいです。

―― ライジングアカデミー受講生のアイデアもヒントになるかもしれませんね。野菜飲料に対する伊藤園の向き合い方や課題感は、他企業にとっても参考になると感じました。貴重なお話をありがとうございました。

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