SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA レポート #01
元レッドブル グローバルブランドディレクターが語る「レッドブルが日本市場で成功した理由と、ソーシャルイノベーション」
2018/10/30
レッドブルが日本市場への遅れての参入でも成功した理由
長田 多くの人がレッドブルに対して抱くイメージは「マーケティングカンパニー」だと思いますが、実際はどういう企業なのでしょうか。なぜ、ソーシャルイノベーションに力を入れているのでしょうか。シミック レッドブルのエッセンスとは何か。私は「約束(プロミス)」「機会(オポチュニティ)」「信念」ではないかと考えています。「最高の自分が、素晴らしい成果を挙げることができる」——一人ひとりのそうした状態を実現するのがレッドブルです。
創業した1980年代、人々は遊びも仕事も全力投球で、1日24時間では時間が足りませんでした。そうした中、「すべてを手に入れたい」と考える人のためのソリューションとして登場したのがエナジードリンク「レッドブル」だったのです。
長田 レッドブルは、日本のマーケットにはかなり遅れて参入しました。それにも関わらず、なぜ成功できたのでしょうか。
シミック レッドブルは、もともと企業規模もブランドとしての存在感も小さく、広告の予算も限られていました。そのため、必然的に「イノベーティブにならざるを得なかった」という事情があります。結果、コンテンツマーケティングやインフルエンサーマーケティング、イベント活用プロモーションなど、現在ではごく当たり前になっていることを、他に先駆けて実践する企業となったのです。
もうひとつの成功要因として、レッドブルが常に「Why」を意識しながら活動を進めてきたことが挙げられます。なぜ、この商品があるのか。なぜ、みんな情熱をもってここで働いているのか。単にドリンクを売るのではなく、「多くの人がベストな自分になることを応援する」。そのためのプラットフォーム・機会・場所を提供してきたのです。
また、「What(何を)」ではなく「How(どうやって)」を重視するのも特徴です。レッドブルの取り組みは、レッドブルだけで完結するものではなく、さまざまな人の協力を得ることが不可欠です。スポーツでもカルチャーでも、そのコミュニティに所属する人たちとともに長く活動できるよう、関係づくりを重視しています。単にお金を出すだけの「スポンサー」の立場にとどまらず、一緒に活動することを大切にしてきました。ブランドが全面に出ることはなく、あくまでアーティストやアスリート、インフルエンサーといった「人」がヒーローです。
長田 活動の起点は「Why」「How」であるという話がありました。レッドブルは、いつも小さなことからスタートしますが、最終ゴールは常に「翼を授ける」ことに収斂されます。人が、何かを生み出すことをエンパワーする。常にそこに立ち戻ることで、企業としての持続的な成長を実現してきたのかなと思います。
かつては、ほとんどの人が知らなかったアクションスポーツ(エクストリームスポーツ)にスポットが当たるようになり、オリンピック公式競技に採用されるに至っています。そうしたコアなスポーツシーンを、アスリートとともにいかにつくり上げ、いかにコミュニケーションしていくか。アスリートの「こうなりたい」を、いかに後押ししていくか。そこに会社全体で取り組むこと、周囲の人とともに取り組むことが、ソーシャルイノベーションなのではないかと思います。
シミック 例えば、スノーボードは1980年代頃から親しまれるようになりましたが、当時はスノーボード禁止のゲレンデがとても多かった。しかし、レッドブルは初期からスノボをサポートし続け、いまではオリンピック公式競技になりました。スケートボードやマウンテンバイク、ブレイクダンスなどにも同じことが言えます。ブレイクダンスはもともと“アンダーグラウンド”のスポーツでしたが、そのシーンは、街の片隅から立派な劇場のステージ上へと移ってきています。
※後編「ソーシャルイノベーションの進め方と、街との関係性とは」元レッドブル グローバルマーケッター対談(11月6日公開予定)に続く
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