リテールアジェンダ2025レポート #02

GiGOとビームスが取り組む「実店舗」CX向上につながるCRM・アプリ戦略【リテールアジェンダ2025レポート】

前回の記事:
増収増益のスギホールディングス カギはデータを活用した顧客ロイヤル化戦略【リテールアジェンダ2025レポート】
 国内外のリテールとメーカーのマーケターが集結するカンファレンス「リテールアジェンダ2025」(ナノベーション主催)が9月11~12日、東京都渋谷区のEBiS303で開催された。200人あまりが参加し、小売ビジネス・マーケティングの最新潮流が共有され、議論とネットワーキングが交わされた。

 顧客接点の高度化が進む一方、今もなおリテールにおける最終的な価値創出の場は「実店舗」にある。送客装置としてのCRMやアプリ施策をどのように設計すべきか、GENDA GiGO Entertainment 執行役員CDO兼DX推進室室長の松沼雄祐氏とビームス マーケティング本部/本部長 山崎勇一氏がスピーカー、サンマルクホールディングス 執行役員マーケティング本部長 鎌田滋之氏がモデレーターとして登壇したスペシャルセッション「CRM・アプリを軸にした、実店舗『集客』の再設計」の内容をレポートする。
 

課題だったゲームセンターの顧客動向をテクノロジーで可視化


鎌田 モデレーターを務める鎌田です。広告会社からスターバックス コーヒー ジャパンに転職し、15年在籍しました。サンマルクカフェが赤字で苦しんでいた時期に代表として加わり、おかげさまで黒字化でき、現在はサンマルクホールディングスでマーケティング本部を新設してグループ企業45ブランドほどのマーケティング強化に取り組んでいます。
 
サンマルクホールディングス マーケティング本部 本部長
鎌田 滋之 氏

国内系および外資系広告代理店にてフォードモーターやP&G等を担当。その後、スターバックス コーヒー ジャパンにてマーケティング本部や経営企画本部に所属。チルドカップブランドをプレミアムカテゴリーNo.1ブランドに導くと共に日本発のグローバルブランドとして世界展開するブランドに成長させる。また、さまざまな新規ビジネスの立ち上げを実現。2022年7月にサンマルクカフェ代表取締役社長に就任。V字回復を実現し、2025年4月よりサンマルクホールディングス 執行役員マーケティング本部長に就任。

本セッションはリテールビジネスの最終的な価値創出において重要な「店舗への集客」を、CRMやアプリを軸に再設計するというテーマです。サンマルクカフェにもアプリがありますが、現在、グループのアプリ開発にも取り組もうとしています。そのため、興味深い施策を実行されている2社にお話を伺えるのを楽しみにしてきました。

まずは松沼さんにGENDA GiGO Entertainmentの取り組みをお伺いします。

松沼 松沼と申します。サイバーエージェントの営業からスタートし、AbemaTV(現ABEMA)の立ち上げに携わったことからエンタメの楽しさを知り、ウォルト・ディズニー・ジャパンに転職して動画配信サービス「Disney+」の日本ローンチとAPACのデータ分析に従事しました。GENDAには東証グロース市場に上場した2023年に参入し、ホールディングス側ではデータインテリジェンス室長、主軸のゲームセンター事業を運営するGENDA GiGO Entertainmentでは執行役員CDO(最高デジタル責任者)とDX推進室長を務めています。

GENDAの特徴は社員の7割がエンジニアと、テクノロジーに力を入れていることです。現在創業5年で、2040年に「世界一のエンタメ企業になる」野望を掲げて活発なM&Aを行っており、M&A後のPMI(統合)でのデータドリブン化・DX推進を私がリードさせていただいています。
 
GENDA GiGO Entertainment執行役員CDO 兼 DX推進室 室長
松沼 雄祐 氏

2012年サイバーエージェントに入社。セールス・広告商品開発を経て、2016年AbemaTVに出向し広告事業の立ち上げに従事。2017年、ウォルト・ディズニー・ジャパンに入社。"Manager – Analysis DTC"として、動画配信事業Disney+の日本ローンチとAPAC領域のマーケティング/コンテンツ戦略・データ分析を担当。2023年GENDAに入社。グループ企業のPMI・事業開発・データ分析を担うBizDev & Analysisを立ち上げ、2024年よりGENDA GiGO Entertainmentのマーケティング部長を兼任しデータドリブン施策を推進。2025年4月より同社 執行役員 CDO 兼 DX推進室長(現職)。

ゲームセンター業界には従来、3つの課題がありました。まずひとつは、データ取得が不十分なことです。ご存知の通り、ゲームセンターにはレジがありません。コンビニやスーパーがレジを通じて取得する客層や客数、客単価などのデータを得ることができずにいました。

次に、定価がないことです。クレーンゲームで「何回で景品が取れるか」は、プレイヤーの技術や景品の種類が大きく影響します。「何千円も使ったのに1個も取れなかった」という体験は、顧客満足度に直結する問題です。かといって、取りやす過ぎても利益が出ません。このバランスが難しい課題でした。

3つ目は、景品の再販がないことです。基本的にセントラルバイイングで景品の購買を行っており、一発で需要を予測し、一回で売り切るビジネスです。大量に不良在庫を抱えるリスク、逆に仕入れが足りずに即完売してクレームとなるリスクがあるので、需要予測が非常に大事になります。

これらの課題に対し、当社はテクノロジーを活用してさまざまな解決策を実行しました。
 

まず、顧客データ取得においては「GiGOアプリ」という内製のアプリを活用しています。店舗客数についてはアプリだけでは不十分なためAIカメラを活用していますが、国内外600店舗すべてで運用するのは難しいので、30のテスト店舗から類推することで、精度の高い客数把握とコストのバランスをとっています。

次に定価がないことと顧客体験の向上については、アプリに「スペシャルアシスト」という画期的な機能を盛り込みました。景品が取れなくて「沼って」いる方に、スタッフが取りやすい位置に景品を置き直す取り組みです。非アプリユーザーについても、連続でプレイしている方はIoTを通じて把握し、手助けを行う施策をすでに一部店舗で始めており、今後、各地の店舗に広げていきます。

また、都市部ではキャッシュレス決済ができる店舗もあるのですが、毎回の決済が苦痛という声があり、ワンタップで支払えて、しかもお得になる「GiGOリンク」機能をつけました。こういった施策により、実店舗での顧客体験価値の向上を実現しています。

3つ目、景品の在庫管理については「GIGO ONLINE CRANE」を活用しています。これはただのオンラインゲームではなく、プロトタイプ的に反応を見る場として運用しています。たとえば朝一番にオンラインで出した景品のうち、どのキャラクターが人気かを把握し、実店舗に「○○を1番前に出して」などの指示ができます。さらに、これは少し話題になりましたが、「どの店にどの景品を何個割り振るか」をAIによって自動的に最適化する取り組みも始めました。不良在庫や機会損失のリスクが大幅に減り、エクセルの手作業で割り振りしてきたバイヤーの負担も軽減しています。今後は需要予測や景品購買、年間260件ほど行っているIPとのコラボレーションといったことにもAIを活用する方針で進めています。

最後に、本セッションのテーマでもある「実店舗への送客」においては、「GENDA ID」という1IDシステムの活用により、グループ内での送客をしています。たとえばクレーンゲームでとあるアニメのキャラクターの景品を取られた方に「次はカラオケで主題歌を歌いませんか?」などと文脈に沿ったレコメンドができます。このようにグループ内のシナジーを醸成できる仕組みも構築しています。

鎌田 ありがとうございます。アプリはどうしてもクーポン中心になり、それはひとつの集客ツールとして否定しませんが、そればかりだと利益が低減し、長期的な関係構築にもつながりにくい。値引きとは違う体験価値に変えていく必要があると、松沼さんのお話を聞いてあらためて考えました。

特に「スペシャルアシスト」は顧客満足度を高める上で面白い取り組みですね。そこに注目した契機のようなものはあるのですか。

松沼 ディズニー社にいた頃に、人の心を動かすには利便性やお得だけでなく、エンタメ、そして「物語」が重要ということを学びました。当社はリアル店舗の価値は「熱狂体験」であると考えています。アプリ、IoTを活用したゲーム機、そして肝である接客オペレーションの三位一体で、CX(顧客体験)の最大化とオペレーショナル・エクセレンス(オペレーション最適化)の追求を行っています。

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